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ポッドキャスト編集における高音質の罠

ポッドキャストを編集して感じるのは、必ずしも「高音質=聴きやすい」ではないということです。重要なのは「聴きごこち」であって、これは高音質とは少し異なると思っています。ポッドキャスターは音質に過度にとらわれず、自由な表現に重点を置く方が良いと思っています。


ラジオは「高音質」ではない

多くのポッドキャスターが「ラジオ局のような音にしたい」「オールナイトニッポンのような音にしたい」と思ったことがあるのではないでしょうか。「ラジオ局は高価な機材を使っているから高音質である」という考え方は半分正しく、半分間違っています。

私たちがラジオ番組を聴取する場合、「放送」と「通信」という異なる手段が存在します。電波を使った「放送」には、周波数など一定の放送基準が定められています。AM放送の場合は526.5〜1606.5kHzで、FM放送の場合は76.1~89.9MHz(法律上は30MHz以上がFMに区分されます)とか。

しかしながら、インターネット「通信」を使用するポッドキャストは、各プラットフォームごとに音の基準が異なります。さらにコンテンツを配給するラジオ局側も、ラウドネス値ですら局ごとにブレがあります。さらに、同じラジオ局であっても番組ごとに違っているケースも散見されます。

ラジオ局のポッドキャスト参入はほぼ完了しましたが、ラジオ局よりもプラットフォーム企業が優位な力関係も透けて見えます。ラジオ局が業界として「通信」コンテンツの統一基準を策定するといった動きに乏しいのは、ラジオが「放送」コンテンツに固執しすぎて、「通信」コンテンツの整備を先延ばしにしてきた、ラジオ業界の先見性の欠如があるように思えます。

収録環境を意識したい

結論、ラジオ「放送」のスペック値は、現代においては高音質とは言えません。当然、「AM放送 < FM放送」となります。スペック値で言えば、ポッドキャストの方が高音質化が可能です。

では、ラジオ番組はどうして「高音質」と勘違いされるのか。ラジオ局のコンテンツは高音質なのではなく、「聴きごこち」が圧倒的に良いのです。

聴きごこちを生み出す理由が「収録スタジオ」の存在です。マイクやプリアンプなどの高価な機材より、収録環境があたえる影響が大きいと思っています。ラジオスタジオのアンビエンス(場の響き)は、自宅や会議室で収録する野良ポッドキャスターには再現できないのです。

もちろん、ラジオ局には収録スタジオや機材の良さを引き出すエンジニアがいます。鰻屋の「秘伝のタレ」のように、ラジオ局には最高の聴きごこちを追求して試行錯誤してきた積み重ねがあるわけです。

野良ポッドキャスターはどうすべきか

私たちのような野良のポッドキャスターが取るべき方策は二つです。収録環境をラジオ局のスタジオのように改造していくか、もしくは、収録環境のオリジナルな「鳴り」に価値を持たせるか。

まず、(室内収録の場合は)収録する場所を固定すべきです。毎回同じ場所で収録し、徐々に改善を試みるわけですが、「スタジオつくる派」はとにかくクリーンな音作りを目指そうとする戦術です。オリジナリティーを目指す後者は、例えば、いつも窓を開けて収録して外を走る車の音を入れてしまうとか、部屋に犬や猫がいるとか、台所の音が聞こえるとか。

私は後者の方がデジタル音声コンテンツの可能性を広げると思っていて、ラジオにはないポッドキャストの魅力を引き出すと思っています。

音は「相対評価」であるということ

YouTubeを見ていると、たまにですが、DTM界隈の方々が配信する番組の音質に違和感を感じることがあります。いろいろこだわりすぎて、数多くあるYouTubeコンテンツの「普通の音」とかけ離れて起きる現象です。

ポッドキャストにおける音の比較も「絶対評価」ではなく「相対評価」だと思っています。他のポッドキャスト番組と音質が異なりすぎると、リスナーが違和感を感じ、聴きごこちを損ねてしまうケースもあり得ます。

逆説的ですが、まずは高音質を目指さない方が、リスナーにとってベターなのかもしれません。そして、ちょっとずつ手を加えてみるのが良いのではないでしょうか。収録環境やマイクの位置といった身近なところから試行錯誤してみるとコスパがいいでしょう。

番組紹介

私たちは「トトトトトーキョー 東京初心者にささげるラジオ」を毎週月曜午後5時に配信しています。ポッドキャスト配信で分からないことがあれば番組宛にメッセージをお寄せください。


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