石垣佐和「すううううううっの先に」
年末年始をホテルで過ごす人々。
ディナーバイキングのホールで働く。
幸せな人々を見ていると幸せな気持ちになれる。
乳幼児がいるテーブルもちらほら。
企業戦士で会社では恐れられてそうなおじさんが孫を相手にメロメロになっている姿も、微笑ましい。
世界平和はこういうことだ。
テーブルを回りながら、皿やトレイを下げる。
オーダーを承る。
写真を撮るお手伝いをする。
ノンストップで動き回るけれど、幸せな時間のお手伝いができていると思うと苦にならない。
テーブルを回りながら、赤ちゃんが目に入った。
さっきまでご機嫌に笑っていた子。
何か気に入らないことがあって、今から泣くぞというタイミング。
くしゃくしゃにした顔。
すううううううっ。
息を吸い込んだ。
ためた。
そして、泣いた。
うわあああああああん。
目を奪われたのは、その吸う姿。
吸うのも、吐くのも、全身全霊で。
手加減なし。
嬉しい、悲しい、暑い、寒い、お腹空いた、眠い、いやだ、違う、もっと。
思いを全身で、全力で、表現する。
ああ、命ってこういうこと。
最後に自分がそうしたのはいつだったろう。
出さなくちゃ、伝わらない。
伝えなきゃ、届かない。
そうか。
そうだよね。
届けるためには、伝えること。
伝えるためには、出すこと。
出すためには、入れること。
息を吐くために、息を吸う。
全身全霊で、全力で。
赤ちゃんが教えてくれたそれをやってみた先に何があるか、それはわからないけど、やりたいからやる。それでいい。
すううううううっ。
うわあああああああん。
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