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ベルト三重奏

本日、ミヤコ時計店さんに行ってきました。
(”本日”というのはこれを書き始めた10月27日です。)

結局あの後(どの後? あのnoteの後です)
Sinnのチタンブレスレットを注文したのですが
早々に「入荷しました!」のご連絡をいただき、
オカネの支払いとブレスレットの受け取り
お店に行ったのです。

在庫金額”の確認結果を連絡をいただのが先々週の金曜日

ご存じ、時計のロマンを語ると見せかけて
メタルブレスレットを買う事のお願いnote綴り上げたのが
先週の日曜日

目出度く許可をもらって注文の電話をしたのが、その翌日の月曜日
そして同じ週の金曜日に入荷の連絡をいただいた
というのが時系列なのです。

しかし手付金もなく電話一本で仕入していただけるとは
かたじけない。

ミヤコ時計店さんのキャッシュフローを少しでも改善しようと
早速2日後日曜日に神戸三宮へ馳せ参じたわけです。
Sinnのメタルブレスレット受け取りとは異なる思惑を抱きつつ…


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実はうちには、
ブライトリング コスモノートⅡ
Sinn EZM-1以外にも
機械式腕時計があと2つあるのです。

しかしこの子達は、ブライトリングやSinnと比べて
使用の頻度が極めて低く、まるで2軍選手のよう。

いや時計が悪いわけではない。
むしろなかなかの逸品ぞろいなんですが、
ベルト事情が厳しいんですよ。

この子達の生まれ故郷、スイスの気候は年中を通して涼しく、
湿度も低いということで
もともと着用した人がをかくということをあまり考えておらず
ベルトの裏側の耐汗性が低いのです。

それこそ少し汗をかいたら、
ソフトな裏皮がどんどんと汗を吸い込み、
みるみるが黒っぽく変わっていくのを見るにつけ
とても時計をつける気にはならない!

そのまま使い続けると、ベルトの裏側が腐ってダメになる。
メーカーオリジナルのベルトは、耐汗性をのぞけば
なかなか良いものなので、
出来るだけ良い状態を保っておきたいのである。

ということで冬季専用(それも汗かきな私にはかなり寒い日限定)の
時計となっていたのです。

う~ん、時計としては、1軍時計たちと趣きは違えど
極めて良い時計なんです。

だから、ベルトに気を遣って時計がつけられないのは勿体ないな
などと思いながら、映画『情熱』を見ていたところ…

閃いた!”代役”だ!

革ベルトが切れてから取り換えるのではなく、
ベルトが傷む前に傷みにくいものに替えればよいのである。

とはいってもなかなか個性的な時計たちなので
市販のものをおいそれとつけるわけにはいかない。

そんなとき、凝ったベルト造りに情熱を燃やす
ミヤコさんを知り、の向こうに、かすかな光明が見えたのである。

名付けて”諍い女の甄嬛(しんけい)作戦”である。

ただミヤコさんのホームページで確認すると、
ショップオリジナルの革ベルトを扱っていても、
オーダーメイドを受け付けているとは書かれていない。

せいぜい”これは小ロット生産なので数に限りがあります。”
くらいの情報である。

小ロットか…

さすがに一人で4つ5つも同じベルトを買う訳にはいかない。
いや、2つでも買いませんけど。

まぁ事前にこんなの欲しいというお話をして、
あわよくば若旦那がそれに触発されて
似たようなテイストの革ベルトをつくろうと考えてくれたり、
さもなくば似た感じのものがたまたま有った時に
連絡をもらえれば良いのである。

いずれの時計も20年以上はおやすみしているもの、
急ぐことは無いのである。
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念のため実物の腕時計を持っていざ出発。

こんにちは~。
「どうもどうも。Sinnのチタンですね。」

常連さんらしい人を相手にしている若旦那。

「ちょっとすみません」と、常連さんにことわり
チタンのベルトを出してくれる。

「実はちょっとモデルチェンジしてまして、
連結が六角穴付きボルトで締め付けるようになっているんですよ。」

本日の主役!になるハズだったSinn チタンブレスレット



へー、なかなかデザイン的にもカッコイイ。
手で持つと、チタンなのでかなり軽いのですが、
ベルトにそれなりの厚みがあるので、しっかりした手ごたえ
よゐ!

「取り付けますか?」
「いえ、せっかくミヤコさんオリジナルの
カッコいい革ベルトが付いているので、このまま革ベルトを使います。」
と腕に付けているEZM-1をチラリと見せる。

「やっぱり使っているところを見ると(革ベルト)カッコいいですね。」
早速里帰りした我が子を見るような眼で、話す若旦那。

チタンのベルトは、半永久的に使えるので
このまま保管しておいて
いざとなったらいつでも付け替えられるという安心感

「わかりました。
ではいつでも言っていただければお取り付けいたしますので。」

このままだと安心感のためのお代11万円をお支払いしておしまい
となる流れ(普通です)

ここぞとばかりに、「実はSinn以外の時計でベルトを交換したいと
思いまして…ご相談できれば」と切り出す。

Return of 若旦那を待っていた常連さん、さすがに察し良く。
「あっ、今日はこれで失礼します。」と若旦那に挨拶して去る。

“革ベルトの話となると長くなること必至”と
わかってらっしゃるに違いない。

これなんですが‥と鞄から時計を取り出す。

左がマルコ、右がフランク、表側のご披露はまたいずれ


「これですか‥、(文字盤が)きれいですね。」

「そうなんですよ。でもベルトの裏が傷みやすくて、
なかなか使えないんですよね。
折角なんで、イメージチェンジを図りつつも、
この時計に合うデザインで、
汗を気にしないで使えるようなベルトがないものかと。」
(かなり注文が多いうえに、無茶である。
若旦那が紙屑のようなくしゃくしゃの顔に変わらなくて良かった。)

「どんな感じのベルトがいいですかね?」

「そうですね。」(あらかじめ考えていたイメージを口にする)

時計1
このケースバックのレリーフサンマルコ獅子といって
ベネツィアの象徴なんですよね。

で、ベネツィアが面しているアドリア海のような色の革があれば良いなと。
とかなり突飛な切り出してあるが…

「あっ、わかります。」

アドリア海わかっちゃう?
いやいや若旦那ならわかってもらえると思っていました。

アドリア海の豚

なんせ、ミヤコさんで革ベルトをつくっているセイコー
紅の豚モデルの『紅の豚』の舞台もアドリア海なのである。

「私の好きなあのナウシカベルトの青みたいな感じでしょうか。」
徹底的にジブリで攻めてくる若旦那。

たしかにいい色だけど、もう少し透明感、てかキラメキ感がほしいな。
革に求めるような特徴ではないと知りつつも
聞くだけ聞いてくれるのではないかと期待させる若旦那なのである。

人によってイメージは様々なので、”これが良いかな?”
と思う画像をスマホで検索し見てもらう。

アドリア海の女王



「ではこの画像も写真に撮らしてください。」
スマホの画面をスマホで撮影するという結構な荒技をするダンナ
(あ、””取っちゃった!)

これでイメージに合うような品物が入荷したりしたら
お電話いただけるのかな?

時計2
もう一つの時計はどうしましょうか?
「これは文字盤淡いベージュというか
品の良いシャンパンゴールドのような色なんで、
逆にベルトは文字盤よりも派手な感じで
黄色味が強いベージュか
あるいはキャメルの薄い色なんかどうかと思いまして。」

「それは似合いそうですね。
ではどんな革から選びましょうか?」
と革の見本を取り出して見せてくれる。

「え?これってロットで何本かまとめて作らないと
いけないんじゃないですか?」
「いえ、一本から特注出来ます。」
「できるんですか?」
そんな商売が成立するのか!すごいすごい
…ひとまず値段のことは忘れよう(;'∀')

「使いやすさからいうとやっぱりカーフですかね。」
とひとまず牛革で考える。
注)カーフ:仔牛の皮、またはそれをなめしたもの
   ドナドナドーナードーナー

革の色見本やら、実際に仕上がった革ベルトやらで
ベージュからキャメル系のものを腕時計の横において色合わせしてみる。

定番のキャメルだとこんな感じか。普通というか…
(時計のベルトは普通なのが普通、なのですが。)

こちらは”特徴がないのが特徴”といわれるジム・カスタム



ヌバックと(いうかヌメ革)だと最初こんなに薄い色ですが、
使い込むうちに色が濃くなっていくんですよ。」
「知ってます、知ってます。」
「ド忘れしたんですけど、あのブランドの代名詞!」
「そうそう、あれですよね、私も今名前が出てきません。」

お互い記憶喪失になる。

あとで調べたらBREE!ですよね。若旦那。

きっと同じタイプの製品で左が年代もの、右が新品というのだろう

どれもいい感じなんだけれど、落ち着きすぎているというか、
なんかもう少し艶感ていうか、イロケがあるといいんですけどねぇ。

う~ん


「とりあえず最初の時計のベルトを考えてみますか?」
時計1とか最初の時計とかいうのも、書くのに困るので
最初の時計1をマルコ、時計2をフランクと呼ぶことにします。

マルコを眺めながら
「アドリア海、アドリア海ねぇ」
どう考えても”アドリア海”をキーワードに”革”を探すというのは
取り合わせが悪い。
”テゲ!といいつつ女子高生を探す”ようなものである。
(東京の電車ではいろいろな珍事に遭遇するのもので
テンプレ事件”とともにこの”テゲ事件”は
機会があれば小話としてご紹介します。
いや、やっぱりやめておくほうがよいか…)

いろいろ革見本を見るが、
結局のところ単なる””だったり、””だったりと
アドリア海と言うにはちょっと無理がある。
我ながらなんちゅー注文をしているんだか。

それでもイヤな顔一つせず、見本の冊子
(台帳に実際の革が貼り付けてあるんですが)
牛革のページから離れ、前の方のページをペラペラとめくる若旦那。

その時、ちらりと見える魅惑的な色
あっ、これ
「まさにアドリア海じゃあないですか!」

青からわずかに緑味に色が変化しながら、
さざ波のたったようなテクスチャー
キラリと光る艶感
そうですクロコダイル革だったんです。
その時点で最初の”カーフ”という条件から盛大に外れたんですけど。

現場では撮影してないので、これはネットから

「これいいですよね。」
「そうなんです、これならイメージに合うかなと思ってたんですけど。」
若旦那、確信犯か!謀ったなシャア

謀ったな♡しゃあ

色の名前は…オーシャンブルー。あ、そのまんまだった…

そして色見本の同じページにゴールデンイエローという
同じくクロコダイル革があり
もう一つの時計フランクには、これだよコレ

これまたネットから、金運アップする?

こうして一気に使用する革の候補が見つかったのであった。

これでベルト造りの条件がほとんど決まった!
と思いきや、ちがうちがう、そうじゃ、そうじゃない!

「じゃあ、ベルトのはどうしますか?」
「え、ベルトの形ってどういうのがあるんですか?」
細くて長い以外にどんなベルトがあるのだろう?)

「こういうふうに中央を膨らませたりするとかですね。
あとステッチを入れるかどうかによって形も変わったりします。」
あ、断面の形のことですね。

前回Sinnの革ベルトを選んだ時にもいろいろ見せていただいたが
主にEZM-1に似合いそうな、
ステッチが入っていて両端と中央がかなり厚く盛り上がった
ボリューム感のあるものを中心に選定をしたのだった。

他にどんなのがありますかね?
「こういう風にベルトが全体的に平べったいものや
かまぼこみたいな形で緩やかに盛り上がったもの
それからSinnに付けたようなステッチがあって、
中央が膨れたものとかです」

そういえば、盛り上がりがフタコブラクダのようになっているものも
雑誌で見た事はあるが、ベルトの形で奇をてらう必要はないだろう。

マルコはケースもシンプルな薄型のラウンドだし、
ベルトはスリムで、かつ美しい革の表面をできるだけ広く見せたいので
平べったい断面でステッチなしでお願いする。

飾りのステッチも入れなくていいですか?」
潔くステッチはなしとするか?
いや待てよ!
部分的なステッチポイントとして
全体を引き立てる効果が出せるかもしれないし
色を工夫すれば、アドリア海に浮かぶ”何か”を表現できるかも。

奥側の左は文字盤には合いそうな”緑”、右は”ナウシカブルー”
手前の左と真ん中が部分的な飾りステッチ、右が通常のステッチ

部分的なステッチは”有り”の方向で。
「ではステッチのを決めましょう。」

こんどはステッチ用の糸の見本を見せてくれる。
どれもきれいな光沢のある高級そうな糸である。

う~ん、革本体の色彩感が強いので、
ステッチは無彩色に近いシルバー系はどうだろう。
「それだとステッチだけが”浮いてしまう”かもしれませんね。」

それでは薄いブルーかな、
糸に光沢があるのでメタリック系ライトブルーにも見える。

「これだと、海に浮いた泡のようにも見えて面白いですね。」
いっそのこともう少しだけ青みの強い色の糸にすると
海に浮いた泡というよりも水中の泡のように見えなくもないな。
この色にします。

こういうイメージでごじゃります。

ではコバの色はどうしますか?
コバというのは皮を裁断した両側の裁断面である。

この色も選べるのですか?別の革を重ねるとか?
「いえ、塗料を塗るんです。」

後で調べると別の革を被せるのが”ヘリ返し
一方で直接革の断面を仕上げて塗料を塗るのが”コバ塗り仕上げ”とある。

ヘリ返しのほうが、手間をかけているのかと思ったら
コバ塗り仕上げもなんのその、いくら塗料を塗るといっても、
断面自体をきれいに仕上げないといけないので
職人の技量が求められると書かれている。

「どんな色がいいですかね?」
正直想像がつかない。う~ん。
同色で仕上げたり、暗い色の革ならにするのもよくあります。」

そうだなぁ。
グリーンにしよう、それも出来るだけ鮮やかなグリーン
(全然若旦那のアドバイスを聞いていない)

文字盤グリーンなのに対して
ベルトの革はアドリア海より少しだけに寄り気味の
オーシャンブルーなので
サイドに文字盤から繋がる鮮やかなグリーンのラインが入れば、
色の連続性を持たせることができるし
あわよくば海中に光が一筋差し込んだような表現が得られるかもしれない。
(両側なんで二筋なんですけど、端面なので一度に見えるのは一筋)
これはもう仕上がって見ないと、本当にそんな効果があるかは
わからないのだが。

これまたイメージ‼イメージの爆発だ

それにしてもベルトの設計作業、おもしろいな!
若旦那が夢中になるのもわかります。

最後にベルトの裏側(裏革?)を決める。
さすがにここにクロコダイル革をつかうことはありえないので
牛革か、あるいはラバー

牛革でも撥水加工しているものはある程度
汗の吸い込みを防ぐことができるが
やはり汗に強いのはラバー

ここは実用性を最優先にラバーにしてもらう。
クロコ革とラバー!なかなか前衛的な組み合わせである。

ここで若旦那が、
「これ、やったことないんで出来るかどうかわかりませんが」
と切り出す。

「僕が乗っているレクサスシート素材なんか使ったら
面白いと思うんですよね。
かなり高くなるかもしれませんが」

”僕が乗っているレクサス”とはさすが若旦那
じゃなかった
突っ込みどころはそこじゃあない!

僕が乗っているレクサス”といっても若旦那の所有している
レクサスのシートからチョキチョキ切って来るわけではないですよね。

こうして提案できるだけ提案した若旦那。
静かに次の言葉を待つ

「これで見積もりしてください」
どうしたってこれで作る方向に進める雰囲気なのだが
見積もり”は直接的に”注文”につながる言葉なので
顧客からの言を待っていたのであろう。

「ありがとうございます。
これでも一つ3万~4万でそれほど高くはならないと思います。」

尾錠はもともとのを付け替えられますか?

「つけらえますけど、通常の尾錠はベルトが傷みやすいので
やはりバックルタイプがおススメですね」

時計メーカー名の刻印の入ってないのがあって、5000円程度。
Sinnの革ベルトにつけたチタンのバックルに比べて
4分の1くらいの金額である。

「それでお願いします」


今度はフランクについて考える。
まずは断面形状
ケースが3次元曲面でボリューム感があるので、ベルトもそれにふさわしいステッチ入り両端中央が盛り上がったものがいいだろう。

それからステッチは革と同色

ここまでは一択に近い選択でさくさく決まる。

コバの色はどうするか?
同色が無難なんだろうけど、ちょっといたずら心が湧いて来る。
ゴールデンイエローの革をで縁取るようにしたらどうですかね?」

若旦那の視線の焦点が、しばし虚空に結ばれる。
きっとイメージが視界の中に結像しているにちがいない。

「いや上品な高級時計なんで、
黄色っていうのはかなりコントラストが強いですから、
キャラクター性が強くなりすぎ、時計の本体が負けてしまいます。
やはり同色の方が。」

やっぱりそうですかね。えへへ。
(調子に乗り過ぎました。
危うくか道路工事の看板になるところでした。)

それでは~、と他のベルトを見ると
ベージュの牛革にコバが少し濃い茶色のものがある
茶色だとどうでしょう。」
しつこく縁取り案にこだわる。

同じ色と言っても、多少は濃くなるんですよ、
まったく同色と言われるほうがむずかしいもんで・・」
アイアイサー、それで決まりです。

これでオーダーする部分の仕様はほぼ固まる。

その後樹脂製のノギスであらめてオリジナル革ベルトの
時計への取り付け部厚み
尾錠がつく先端側厚みを正確に計測

「さすがにスイスの高級時計メーカー
市販のベルトとは交換できないサイズですね。
市販のベルトは時計への取り付け部の幅が
18㎜とか20㎜と偶数なんですけど
二つとも見事に奇数ですね。」

マルコは19㎜、フランクは17㎜である。
これではどっちにしても特注で作るしかないですね。
( ̄∇ ̄;)ハッハッハ

時計本体への取り付け部の幅だけでなく、
ベルトの先端の幅もオリジナルベルトの計測値を再現
(尾錠がそのまま取り付けられるというものあるだろうが
時計のケースからベルトの先に向かって
幅が狭まっていくそのテーパ具合は
やはりオリジナルのベルトが最適なのである。)

そしてケースへの取付部と先端部のベルトの厚みも重要。
ラグからはみ出すほど厚すぎるのはもってのほか、
逆に薄すぎるのも貧相になってしまう。

今回は計測値より0.5㎜くらい厚く作ることにする。

さらにベルトの長さはどうも、通常よりも短めなんだそうで
5㎜づつ長くしてもらう。腕に装着したとき、
バックルからベルト先端がそれなりの長さ突き出していたほうが
カッコ良いのだ。

ネクタイも仮面ライダーのマフラーも”結べれば良い”わけではないのと同じ?

この測定値による微調整具合。
最初はケースへの取付部のさえ測っておいて数値を知らせればいいかな?
と思っていたのだが
やっぱり実物を持ってきてよかった。


仕様が固まったところで、ほっと一息。

今回のベルト注文とは関係ない、思いつきのアイデアを提案。
「前回見せていただいたベルトに
ザクグフシャアズゴック(シャアザクではなく)の
イメージカラーありましたよね。」

「それで思いついたんですけど、ミリタリーウォッチには
”ボトムズ”のスコープドッグ・レッドショルダー部隊仕様が
めちゃくちゃ似合うんじゃないかと思うんですよ。」
「このSinnみたいに(ベルト先端を止める)定革を
にするんですけど、
レッドショルダーの肩アーマーの赤っていうのは
血のように暗い赤という設定なんですよ。」

「あっ、私ボトムズよく知らないんです。」といいつつ
“すこーぷどっく レッドショルダー”とスマホ検索する若旦那。
(お互い微妙に違う守備範囲
最近はアニメロボットの名前で検索すると、
アニメの画像よりも先にプラモの完成見本がずらっと現れるのです。

あれ、この赤、結構明るい色ですね。
プラモデルを作る人次第ですね。
(もしくはバニラが塗ったなんちゃってレッドショルダー)

今度はアニメ画像を検索。これですこれこれ、かっこいいでしょ?

このカッコよさわかってもらえるだろうか?

かっこいいと思っていただいたかどうかはわからないが
「今回考えているものよりも、こっちのほうが簡単に作れそうですよ。」
が若旦那の言。
(肩アーマーのリベットやら、けん引フックの再現やら
もう少しこだわりたいディティールがあるのだが、まぁいいや)
今のSinnのベルトが切れたら、チタンブレスレットに交換する前に
レッドショルダー仕様のベルトについて徹底会議をするとしよう)

「でもこんな一本ごとにベルトの特注を受け付けてもらえる
時計屋さんなんてなかなかないですよね。」
「私も何度も職人さんに『こんなの無理』とか言われながら
試行錯誤で商品にできるようになりましたから、
自分が死んだらこれが続けられるか心配なんです。」
(若旦那はお元気そうなんで、あと30年は大丈夫と思いますけど、
先に職人さんがいなくなってしまうのが心配。
まぁお互い創作活動がんばりましょう。)

さらに続ける若旦那
「自分で言うのもなんですけど、変な性格をしてまして
簡単に”たくさん作れて、どんどん売れる”っていうのはイヤなんです。」

なるほど職人魂としてはすばらしいが、商売人としては致命的である。

「でもわかります。私もプラモデルつくるんですけど
前作と同じことはやりたくないですからね。」

ボトムズ作るんですか?最近はダグラムも再販してますよね。」
「いや私は今はガレージキットでファイブスターストーリーズの
モーターヘッドつくってます。
最新作ではリアルさを追求するための可動化を考えてます。」
(なかなか進まないので作っているとはいえない)

ガレキと言えば、子供の頃ナウシカの“蟲使い”を買ってしまいまして
見本のように塗装されているのかと思ったら、
通販で届いたキットの中身を見て愕然としました。
結局完成するどころか手を付けることもできませんでしたよ。」
(それにしてもナウシカの“蟲使い”とは
子供の頃から好みが独自路線なんだな。
甲冑姿のクシャナ殿下も買おうとしたというのが救いか。)

蟲使い、コレですからね…



「ガレージキットって、組立・塗装前の
あのゴロゴロ転がっているような様子をみると
誰でも“なんでこんなに高いのに、コレなの?”
って引きますよね。」

引きます。」

無駄話はそのくらいにしてと。
「ではこれで見積もりをしてみます。」
「ぜんぜん急がないので十分時間を掛けてただいて結構ですよ。」
伝票というか見積もり受付仕様書を受け取る。

見積もり仕様書より
腕時計1(マルコ)
幅:19-16㎜
厚さ:3.5-2.5㎜
長さ:11.5~12㎝(6時側)/ 75㎜(12時側)
表革:1K012(クロコダイル革オーシャンブルー)
裏:ラバー(レクサスシート素材も検討)
形状:フラット
コバ:鮮やかなグリーン
ステッチ:6時側2か所、12時側4か所(色37)

腕時計2(フランク)
幅:17-16㎜
厚さ:4.0-2.0㎜
長さ:11.0~11.5㎝(6時側)/ 75~80㎜(12時側)
表革:クロコダイル革ゴールデンイエロー
裏:ラバー(レクサスシート素材も検討)
形状:甲丸 ステッチあり
コバ:同色
ステッチ:同色

「ではチタンブレスレットの代金をお支払いして失礼しますね」
「そうでした!11万円です。
もう革ベルトのことで頭が一杯でチタンブレスの事忘れてました。」

あはは、三本のベルトのうち
現物のあるSinnのメタルブレス、霞んでしまいましたね。
でも誰しも手に取れるものよりも、
まだ頭の中にしかないもののほうが気になるものです。

後日談
昨日(これはこのnoteを公開する日のリアル前日です)
若旦那より電話あり。

「見積もりが出ました。どちらも3万9千円です。」
間髪入れず
「二つとも製作に着手してください」
と発注。

時計の革ベルトで一本3万9千円は高いと思われるかもしれませんが
職人と言う意味では、一般の溶接工で1日8時間働いて
工賃が2万円~2万7千円
東京オリンピック前は建設ラッシュで、もっと高かった。
特殊な技能が必要な溶接ならそれよりはるかに高い。

革職人の工賃が3万円/8時間としても
10時間そこそこでベルト一本仕上がるか?
工程は良く分からないが、
採寸、裁断、部品組合せ、縫製、コバ磨き、塗装など
Sinnについている革ベルトを見るにつけ、
如何に技量があったとしても丁寧にやれば
1週間はかかりそうに思える。
実際に若旦那からは、
「かなり時間がかかりそうですけど」
とのこと。

製作期間(リードタイム)中の手待ちがどのくらいで、
実際に手を動かしている時間の割合がどのくらいかわからないが
めちゃくちゃ凝ってしまうと、1年くらいかかるものもあるらしい。

もう、長ければ長いほどステイタス!全然待ちます。

それに3万9千円のうちに材料代も含めなければならないのだ。
普通は発注するとナゾに付いてくる
諸経費10%、工具損料10%の存在も馬鹿にならない。
試しに上記に加えて材料費15%、工賃(8時間あたり)3万円で再試算

なんと計算結果工数は7.7時間になってしまう。
いやいやこれでは利益がゼロではないか!
普通は粗利で15%は確保しておかないと、
一般経費で相殺されてしまう。

いや通常の見積もりでは工賃に最低限の利益が含まれており、
一般経費分を最初から確保するために
ナゾの諸経費がついてくるのかな?

もう計算はできない世界になってしまいましたが
とにかく、特注品としてはとんでもなく安い金額であると同時に
自動化・量産しなければ、我々が普通手に届く価格設定というのは
不可能であるということなのである。

ついでに、仕様検討会の後から思いついたことをお伝えする。
「クロコダイルの模様なんですが、
もしある程度選択の幅があり
どっちがいい?と聞かれるようなことがあるならば、でいいのですが」
と前置きして
「マルコはパターンが小さいものが良くて、」
(海の波なので)
フランクはパターンが大きいほうが良いです」
(パターンの大きいものが優雅に見えるのです)

「わかりました、伝えておきます」
「お願いします」

電話を切ってからもう一つ気になることがあり
電話をかけ直す。

「そういえば、裏の素材にレクサスシートが使えるか
検討して下さるとおっしゃってたのはどうなりました?」

「伝えたんですが、職人さんからは『出来ない』とか
何も言ってこないので出来るんじゃないかと」

ラバーとレクサスのシート素材ってどう違います?」
「これこれしかじか」「フムフム」
要点をまとめると
ラバ
やわらかく肌触りは良い
曲げた時にしわになったりする。
(気にはならないけど、たしかにSinnのベルトもなってますね)

レクサスのシート素材
しわになりにくい
丈夫なのはこちらのほう。

とにかく裏地の丈夫さはベルトの寿命に直結するので、
可能ならばレクサスシートでお願いしますのと念押ししておく。
あとレクサスのネームバリューも捨てがたいですしね(笑)

ところで気になるお値段への影響は?
「それも職人は何も言ってこないので、どっちも同額だと思います」
なんとお金に無頓着な、いや清廉職人さんなんだろう。
イエス・キリストかよ。

職人バンザイ

それでは、ベルトが完成したらまた、
それぞれの時計の逸話とともにご報告いたします。

またいつの日にか。

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