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実際のところって、誰にもわからない

「糟糠の妻っていう言葉があるじゃん?」

「ああ、聞いたことあるね」

一つ挟んで隣の席に座る30代前後と思われる男2人の会話が、否が応でも耳に入る。

私も実際の会話の中で使ったことはないが、不遇の時代を共に過ごしてくれた妻、
という意味に使われるのだと思う。

「芸能人が売れない時代に結婚した妻と離婚して、芸能人と再婚したりすると
週刊誌に"糟糠の妻を捨てて乗り換えた"みたいな書かれ方するじゃん?」

「ああ、よくあるよね」

「そういう時って、物静かで辛いことに耐えた続けた妻が
急に羽振りが良くなった夫に捨てられた、みたいな書かれ方するじゃん?」

「ああ、するする」

「でも実際のところって、誰にもわからなくない?」

「どゆこと?」

「その妻がさあ、実はスゲー性格悪くて、
貧乏してた時代にめちゃめちゃケンカが絶えなかったかもしれないじゃん。
で、売れて落ち着いたし、『もう慰謝料でもなんでも払うから出てってよ』
みたいなかんじかもしれないじゃん?」

あ、なるほど。そういう可能性ってあるよね。
心で頷きながら、ハーブティーを一口飲んだ。

「ああ、まあ確かにあり得なくはないか」

「俺だってそうだもん。将来もし金の心配さえなくなったら、絶対離婚するよ」

若い兄ちゃん2人に見えたけど、こっちの子は結婚してるんだ。
しかもこんなに周りに聞こえるところで、すごいカミングアウト。

「え?なに?そんな感じなの?
エリちゃんいいじゃん。明るいし人当たりいいし。」

「いやそう見えるだけだって。あいつ外面美人だからさ。
家だとすごいんだよ。本当にケンカの絶えない家庭。」

続け様にダダ漏れるプライバシー。
なるほど、いろんな家があっていろんなことがあるんだなあ。

外を見ると雲の切間からさす太陽で、
先ほどよりわずかに明るくなったような気がする。
また降り出す前に出ようか。そう思って外に出た。
歩き出すと正面に虹が見える。

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