夫婦ゲンカにはレフェリーがおらんから
「なんかあったんかいな?自分、今日暗いで」
長机を挟んで斜め向かいに座った畔上さんは、そう言ってこっちを見た。
「いや、昨日もカミさんと言い合いになって、思い出すたびに腹が立ってきて」
「またかいな。相性悪いんちゃうの自分ら?なんで喧嘩なったん?」
「僕にもわからないんですよ。カミさんの話聞いてたら『ちゃんと聞いてるの?』って怒り出して。ウチのカミさんの話ってあちこち飛ぶから、結局何言ってるかわからなくなることが多くて。ちょっとわからないって顔したらキレられて、そこからは矛先が僕に向いて、そうなるともう売り言葉に買い言葉ですよね」
「よね、ちゃうわ。まあ夫婦ゲンカにはレフェリーがおらんからな。もしレフェリーがおったらな『それは今関係なくないですか?』とか言いよるやろ。でも家にはおらんねんレフェリー。せやから、理屈じゃないねん。スジなんか通ろうが通るまいが関係あれへん。相手が黙ったら勝ちや」
そんなものなのだろうか。いつの間にか罵倒され、反論は聞く耳持たれずでは納得がいかない。しかし事実はその通りであるような気がした。
「せやから無理に勝たんでええねん。無理に勝たんでええ」
畔上さんはそれだけ言うと、週刊現代の真ん中らへんにある袋とじを、ペーパーナイフを使って丁寧に開け、ページをめくり始めた。僕はなんで2回言うたんですか?と言う言葉を飲み込み、机の上に突っ伏して昼寝を再開した。