白い貝殻



彼女の父親と昔住んでいたヨーロッパの話、音楽の話、家族の話、ここよりも信じられないくらい透き通った美しいカリビアンビーチのことなんかを英語で話しながら、女の子が水辺に近づいたり、お気に入りの野良猫を探したり、落ちている花を拾ったりするたびに足を止めた。

彼女がくれた花をベルトの隙間にはさんで歩き始めたら、あ、そんな風な持ち方あるんだ、って感じで、一瞬私の顔をまじまじと見た。



一緒に鳥の墓地を歩いて墓石を覗き込んだり、浜辺で遊んでる犬に向かって一緒に水をかけて戯れたり、カフェでスウィーツを選んでる時など、私が彼女の言語を話さない、って事をうっかり忘れて、何度も話しかけていた。

私は、そのつど彼女の父や友人に通訳してもらったり、理解できないのごめんね、と言う顔をしたりしてた。


別れ際に、彼女に白い小さな貝殻をもらった。
なくしてしまいそうなくらい小さな貝殻。
すごく嬉しかった。

一言もお互い理解できないのに、
彼女は、半分私たち大人の散歩に付き合わされてたような感じなのに、
立ち止まった時、何かを一緒に見て、一緒に同じことを感じたのは確か。

世界とつながっている命を生み育てる海、感情のように揺れる波によって
彼女が立ち止まったその浜辺に寄せられ、
彼女の手で拾い上げられたその貝がらが象徴するものとは?

言葉はコミュニケーションのためにとても大事。でも、それが無理な時、せめて感情レベルで相手と繋がれれば、言葉で表せないなにかが相手との間でうまれ、心にずっと残る。

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