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『惜し活』 ゆうき麻美

―― 解像度の荒い監視カメラ映像

そこに映る部屋で食事をする男 

その映像を凝視する血走った目のアップ(性別はわからない)

―― 曇り空

量販店から出てくるやさぐれた無精髭の男

手にはレジ袋

立ち止まり、震える手でタバコに火をつけ、再び歩き出す
(その震えが病気によるものか、寒さからくるものなのかは定かではない) 

男がボーッとした様子で道を歩いていると

曲がり角で女性の運転する自転車と鉢合わせ、衝突

男はそのまま気を失い救急車で運ばれる

――病院の診察室

診断は足首の捻挫と頭部打撲

MRI検査を受けるが医者には問題ないと診断される

―― 男のアパート(築40年以上であろう古いイメージ)

●出窓には植木鉢に咲く花が一輪

薄暗い部屋

持ち帰った買い物袋の中を覗き込む、、、

気を失った後遺症なのか、買った記憶の無い商品とレシート
首をかしげ必死に思い出そうとする男 (中身は???)

突然のチャイム

菓子折りを持って謝罪に来た自転車の女

実は向かいのアパートの住人で、職業は看護師だという

事故後運ばれたのは彼女が勤務する病院だったようだ

玄関先で会話をしていると

一瞬彼女の視線が部屋の奥に逸れ

何か動揺している様子を男は逃さなかった

男「どうかしましたか?」

女「いえ、、、どうもこの度は本当にすみませんでした、何か身体に異変な
どありましたら、いつでも連絡ください、、」

と男に連絡先の書いたメモを渡しそそくさと帰っていった。

その日の夜

しん、と静まり返る真っ暗な部屋

布団に寝ていると

「じじじじじ」と小虫の鳴くような奇妙な音

―― 何かを凝視する血走った目のアップ(インサート)

その音に気付いて薄っすらと目をあける男、、、、

「じじじじじ」

天井あたりから聞こえてきているが、発生場所はわからない。

と、突然布団から伸びてきた黒い手に首を絞められる男

「うぐっ!!」

金縛りになり叫び声もあげられない、、、

「バキッ!」

喉の骨が軋み折れる音で我にかえる、、、、

金縛りが解け汗だくな男

周りを見渡すがそこには誰もいない
(レム睡眠時に体験する幻想の様な感覚)

「夢?、、、金縛りか、、、、」

異常な程、強く手を握りしめていた様で

その痛みの感触を確認する様に手のひらを見つめる

事故以来、ずっと続く鈍い頭痛が発症し表情をしかめる

炊事場で頭痛薬を飲む男

――朝

●窓の植木鉢に枯れかけた花

捻挫した足を引きずりながら洗面所へ

髭を剃っていると染みるような痛みを感じ

鏡越し、襟元を引っ張った鎖骨あたりに、爪で傷つけられた跡をみつけて

ゾッとする

「まさか、、、、いや、、事故の時かな、、、」(男はオカルトに懐疑的な様子)

会社に向かう為、玄関を出ると向かいのアパートの自転車置き場に看護師の女

目が合い会釈する、

女「大丈夫ですか?」

男「え、ええ」

女も今から通勤するようだ、、、再び会釈をして会社へ向かう

(通勤時間が同じなのでいつも遭遇していたはずだが意識したことは無かった)

―― 夜

帰宅

コンビニで買ってきた弁当で食事をすまし

浴室へ向かい、浴槽へ湯をためるため排水栓を摘まみ

風呂蓋をまくり、その中を確認した時、男は驚愕した!

浴槽は血液で真っ赤に染まり大量の女の髪の毛が無造作に散らばっている

なんとも言えない生臭い異臭が漂う

「ひっ!」

叫び声をあげて倒れ込む男

その後、開いた浴室の扉に近づくことも出来ずに数時間が過ぎた。。。

この奇妙な現実の理由を探すべく思考を巡らすが答えがみつからない

またやってくる嫌な頭痛、、、、苛立つ男、、、処方箋より多めの頭痛薬を

乱暴に口に入れる

疲れきった男はいつの間にか深い眠りについていた、、、、

「じじじじじ」

暗闇の中またあの音が遠くから聞こえてくる

それと重なるように今度は

耳元で囁くような自分の名前を呼ぶ女の声、、、幻聴かもしれない、、、

「またか、、」

薄っすらと目を開ける男

「な、なんだ」

顔や体が汗でびっしょり濡れている、、

布団から上半身を起こし

スマートフォンの時計を見るとAM3時、、、

夢や金縛りでは無い、、、

「じじじじじ」

名前を呼ぶ声は消えたが耳を澄ますと、またあの音が微かに聞こえる


これは現実だ。


暗闇の中その溢れた汗を手で拭う、、、

「ん??」

ツンとする鉄分の刺さる様なキツイ臭い、、、、

ぬめった感触でそれが大量の血液だということを男はすぐに理解した

「ひっ!!」

慌てて浴室の洗面所へ向かい

血まみれの顔を洗いそれが
自分の体内から出ていないものだということを確認した

「つっ、、、」

首をつたう水が痣になった首元の傷口に染みる

そのままにしていた、真っ赤に染まった浴槽に気付き

奇妙な出来事の連鎖に怖くなる男

居間に戻り恐る恐る電気をつける

天井から滴る、どす黒い濁った赤の血液に慄く男
(布団も血にまみれている)

―― 突然フラッシュバックする記憶 ――

(自転車と衝突する、、、巻き戻り白くフェードしていく記憶(回想))

目を見開き何かを明らかに思い出した様子の男

先日持ち帰った買い物袋の中を確かめる

重曹と溶けたドライアイス、

レシートの文字を確認しその二つのアイテムの意味することを理解する

台所に駆け寄り引き出しを開けるとわずかに血で汚れた白い布にくるまった

ギザギザしたノコギリ状の刃が数枚、、、

押入れの天井の板を開け天井裏をのぞくと

コバエと強烈な異臭に、鼻を押さえ顔をしかめる男

天井板のちょうど血の滴っている辺りに黒いゴミ袋があり

手を伸ばし

ずしっと重たいそれを引き寄せ恐る恐る中身を開ける

ウジの沸いた女の頭部と目が合う

慄き、押入れから落下する男

―― 回想

――アパートの玄関先

水商売風の女「好きな人が出来たの」

男「なんで?」

女「全部知っているのよ!」

男「ん?なんのこと?まだ出逢ったばっかなのに、、」

女「もう、いいわ、、とにかく初っ端からこういうのダメなんだよねあたし好きな人がもう出来ちゃったから、、ごめんね」

男の部屋で別れ話を切り出す女

帰ろうとする女に逆上し髪の毛を掴んで部屋の中へと引き摺り

強く首を絞める

苦しむ女は男の肩を掴み、その親指の爪は男の鎖骨あたりに、深々と刺さる、、、

「バキッ!」と喉の骨が折れる鈍い音

「ウボッ、、、」

口から血を流し苦しみながら絶命する女

「ざざざざ」

水道の蛇口を目いっぱい開き、流れ出る大量の水

浴室で鳴り響く電動ノコ(男の表情のアップと音だけ)(肉と骨を切断する
鈍い音)

冷蔵庫の扉を閉める男

黒いゴミ袋を天井裏に隠す

(―冷蔵庫に入らなかった頭部や腰部を入れたー)

―― 何かを凝視する血走った目のアップ(インサート)
※それが女の目だということが確認出来る

人目を気にする様に外に出て鍵を閉める男

その様子を向かいのアパートから伺っている看護師の女

―― 男のアパート

●枯れた植木鉢の花

ライブニュース映像
警察へ逮捕され連れていかれる男

アナウンサー「昨夜「人を殺してしまった」と○○署へ自首した、清掃業の〇〇容疑者〇〇歳、、、、」

連れていかれる様子を向かいのアパートから心配そうな顔で見守る看護師の

――薄暗い看護師の女の部屋

スマホを凝視する看護師の女 近眼なのか異常な距離感でジッと見つめている

(回想)

――男のアパート前

植木鉢を持って男の部屋を訪れ合鍵で中に入る水商売風の女

その様子を向かいのアパートから見つめる看護師の女

―― 男の部屋

明らかに自分のものでないキツイ香水の匂いに気付く女

ゴミ箱を確かめると浮気していたような形跡が次々と出てくる

(化粧水やメイク落とし(お泊まりセット)のゴミ、使用済みコンドームのゴミ、女性の髪の毛、つけまつげ、普段使わない入浴剤のゴミなど)

怒った様子でそそくさとアパートを出ていく女
(植木鉢は手に持っていない)

その様子を向かいのアパートから見つめる看護師の女

――薄暗い看護師の女の部屋

スマートフォンを覗き込む看護師の女の血走った目のアップ

解像度の荒い監視カメラ映像

そこに映る男の部屋、検視する複数人の警察官達の姿

不気味な笑みを浮かべる看護師の女



その後ろに女の影



END


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