Hulu『あなたに聴かせたい歌があるんだ』を観た話。
みなさんには、「夢」がありますか。
私はあります。“あった“、と言った方が正しいかもしれません。少しも恥じることなく、その夢に対して確かに純粋でいられた中学生の私は、もう10年以上、卒業文集の中で眠っています。あの日から今日まで、とりわけ夢に挑戦することもなく、いつからか心の奥底に鍵を掛けて仕舞い込んできました。自分自身ですら、直視できないように。そして、誰にも知られないように───ごく一部の、近しいと感じる人たちを除いては。
Huluで『あなたに聴かせたい歌があるんだ』という、燃え殻氏による同名小説が原作のドラマが独占配信されています。成田凌主演で、伊藤沙莉や藤原季節など、好きな俳優ばかり出演しているし、魅力的なタイトルにも惹かれて観てみることにしました。「27歳の大人たちが軸の物語」という触れ込みにも、まさに今27歳の私にとっては、わずかながら運命的なものを感ぜざるを得なかったし。
大学を卒業して、なんとなく仕事を始めてみると、社会人としての日々は想像以上に目まぐるしく過ぎていき、私の胸に抱かれていたはずの夢は、いつしかその景色の中へ溶け込んでいきました。忘れてしまったことは一度たりとしてなく、かといってきっぱりと諦めたわけでもありませんでした。当然ですよね。挑戦すらしていないのに、どうして諦めることができるのでしょうか?それこそ眠っている時に見る夢みたいに、不鮮明で掴みにくく存在感のないものとして、心の奥底に仕舞い込まれていくのでした。
夢を声に出して、それに向かって全力でやりたいことに挑戦できる人を、何人もこの目で見てきました。明日死ぬかもしれないからとか、死ぬ間際に後悔したくないからとか、頭では分かっていても、完璧主義ゆえにリスクばかり考えて、やらない理由を探すのが得意な私にとっては、その感覚はとても理解しにくいものでした。でも、どこかそんな人たちに憧れて、自分もそうなりたかったのだと思います。ずっと。
『あなたに聴かせたい歌があるんだ』は、置き去りになったままの夢と向き合うきっかけをくれました。それほど大それたことでなく、ささやかで、単純なことです。買わなければ当たらない宝くじと同じで、挑戦しなければ叶うこともないのが夢なのです。当然なことほど、近くにありすぎるがゆえに見落としがちなもので、視界を覆っていた邪念を取り払って、もっとフラットな気持ちで向き合えれば、それで十分なのだということ。その経験が、もしかしたら今以上に私を強くするのかもしれません。夢に対して純粋だったあの頃の自分を、どうして信じてあげられなかったのだろう。だけど、そう思えた今の私なら、なんだか信じてあげられそうな気がするのです。
最終話にあたるエピソード8のラストに、こんなモノローグがありました。
「夢」と言うと、そんなものは絵空事だと嘲笑う人もいるかもしれません。でも私はそうは思いません。大なり小なり夢があることって無条件で素敵なことだし、夢を抱いたことがある人にしかわからない、言葉にならない気持ちって絶対にあるのです。なんだかんだ自分とは切っても切り離せないのは、その夢が、子供心に芽生えた「好き」の延長線上に位置していて、その気持ちが私を裏切ることがなかったからだと思います。ずっと「好き」でいられたから、今の私がある。大袈裟かもしれないけれど、あるのとないのとでは違う。そんなものだと考えています。
そんなエピソード8の副題は『大切な人に聴かせたい歌はありますか?』でした。
私にも、もし大切な人ができたら、聴かせたい歌があります。
『エイリアンズ』も聴かせてあげたいな。ドラマを見始めてから気に入ってずっと聴いています。
でも、その時がきたらきっと、私にしか歌えない旋律に私にしか書けない詞を乗せて、口ずさむのかもしれません。
なにより、それが私の「夢」なのだから。
原作
主題歌/KIRINJI『エイリアンズ』
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