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朝日のような人

 その日は最悪の目覚めだった。
 何度目のスヌーズかも分からないアラームを止め、時間を見て大慌て。急いで支度をし、いつもより薄化粧のまま、駆け足で電車に乗り込んだ。

 なんとか間に合ったことに一安心するも、昼食がない。節約をしているので不本意だが、コンビニで弁当を調達することにした。

 会社の最寄りのコンビニで弁当を選び、レジへと向かう。ポイントを貯めたい私はQR決済を希望する。ところが、電波の調子が悪く、QRコードがなかなか表示されない。

「すみません、電波が悪いみたいで……」

 焦る私。幸いにも後ろに人は並んでいないが、モタモタという擬音がこんなにも似合う場面もそうない。
 すると、おそらく最近入ったばかりであろう、40代くらいの女性の店員が、笑いながら言った。

「あっはっは、いいのよ~!大丈夫大丈夫!」

 瞬間、脳内にペール・ギュントの「朝」が流れる。眩しい。直感でそう思った。あまりの眩しさに半分寝ぼけていた頭が一気に目覚める。

 QRコードはその後すぐに表示され、無事に決済を終える。

「ありがとうございました~♪」

 満面の笑顔だ。語尾に音符がついたような爽やかな挨拶で送り出された。外はまだ朝日も昇っておらず暗い。平日の朝だ。道行く人は、皆どんよりとした表情を浮かべている。しかし、彼女はそんな中でも信じられない程、底抜けに明るい。その朝日のような笑顔で、沈んだ私の心を明るく照らしてくれたのだ。

 多くの店員は、客が会計にもたついていたら、表情に出さずとも「チッ、早くしろよ!」とイライラしてしまうことだろう。アルバイトなら尚更だ。誰も彼も忙しい。余裕がない人が多い中、この女性のこの寛容さには頭が上がらない。

 彼女は、間違いなく朝日のような人だった。
 どうか彼女になにかいいことが起こることを願って、いつもより軽い足取りで仕事へ向かった。

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