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席替え
小学生の頃、僕は三人組のアイドルユニットみたいなモノに入ってたw
何をするのも僕ら三人が基準だった。
組長も三人が持ち回りでしてた。
運動会、遠足、発表会から掃除まで、僕らを押さえておけば、先ずは間違いないと言われた。
先生は僕らを利用していたんだと思う。
先ず、僕らを動かす。するとあとから全員が付いてくる、そんな感じだ。
席替えも例に漏れず、僕たちが優先だった。
でも少し変わっていたのは、その選考方法だ。
机が細長い二人用だったので、必然的にペアは男女で組まされた。
先ずは、男女を教室の左右に分ける。
そして僕たち三人組が女の子を一人ずつ指名するのだ。
指名されるたび、教室に女子の悲鳴にも似た嬌声が上がる。
三人が女の子の手を引いて机に座ると、そこからは乱戦だ。
「俺はこの子がいい」
「いやよ! 私はこの子!」
と、争奪戦が始まる。
そして阿鼻叫喚の中、暫くすると、それとなく落ち着く。
そして先生は、あぶれた子同士をくっつけ席に座らせる。
これで一大席替えイベントが終了する。
この浮かれたお祭り騒ぎも何度目かを数えた頃、異変が起きる。
いや、僕が起こしたのだ。
ただ運動神経がよくて面白いだけのバカ男が、浮かれて女の子を選出している間、陰で悲しそうにしている女の子の存在を僕は知らなかった。
僕が目立たない大人しい子を選んだと言うので、教室が盛り上がっているその時、僕は見たんだ。
教室の隅で、話す友達もいない陰気な女の子の悲しそうな瞳を。
僕は忘れていた。そんな子もいたということを。
いつもの如く、誰からも選ばれない男女が5~6人残り、先生の適当な人選が始まる。
「いやよ! こいつとなんか、絶対に座りたくない!」
「こっちこそお断りなんだよ! ぶ~す!」
何とか落ち着かせ、無理やりに席に着かせる。
それでもまだ選ばれない子がいた。
強引に男の子とペアを組ませて座らせると、男は最後まで抵抗する。
「何で俺なんだよ!? 誰か代わってくれよ! こんな臭い奴と一緒じゃ勉強も出来ないよ」
「どうせ勉強しないだろう!」
先生の一言で教室が爆笑に包まれる。
その時、一人だけ笑わない子がいたことを僕は知ったのだ。
最後まで残ったYさんだ。
6年生で身長が160㎝は軽く超えていたと思う。
色が黒く、髪はいつもぼうぼう。
家が貧しいのか、いつも同じ格好をしていた。
この時代は、誰もが貧しかったけど、この子の家は特に貧しかったようだ。
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僕はその子の悲しそうな瞳が頭から離れなかった。
その学期中、ずっとその子を見ていた。
今ほど陰険ではないが、女子からも虐められてるようだった。
わざとプリントを破いて渡したり、渡らないようにしたり。
上履きを隠されたり、机に落書きされたり・・・。
僕は何故か頭に来ていた。
その陰湿なやり方に、苛立ちを覚えていたのだ。
「おい! Yの上履きをどこへ隠した⁉ 出せよ!」
普段めったに怒らない僕が、ぶちぎれ出したのを恐れた友達が恐る恐る上履きを出す。
「おい、Y! 泣いてばかりいるのはやめろ!」
僕は何故か当の本人のYにも腹が立っていた。
プリントがYにまで届いたのを確かめ、届かない時は自分のをあげた。
「ないなら、ないって言えよな!」
そこでも僕は怒っていた。
席に戻ると、隠されたプリントが僕の机に置いてあった。
6年生の夏休みも終わり、みんな真っ黒になって教室に集まった。
また恒例の席替えだ。
「よし、白石、お前から行け」
僕は先生の合図で、その学期を共に過ごす相棒を選ぶ。
僕の隣に座る、即ち、僕の彼女になったってことだ。
謂わば、告白のようなものだ。
僕は迷わず、Yの所へ行き、Yの手を握った。
一瞬、教室中が静まり返った。
誰もが目を疑った。
Yも僕をじっと見つめる。
怯えたような瞳で。
猜疑の目とは、このことを言うのだろう。
私を笑いものにしたいの⁉
冗談でしょ!?
ザワザワ・・・・
教室をさざ波のようなざわめきが包む。
「うるさい! 俺はお前を選んだんだ! 嫌なら嫌とはっきりと言え!」
僕は怒鳴った。
そう、それは最低限のルールだった。
同意なしに、同席は叶わないのだ。
Yの目に涙が浮かんでいた。
僕はハッとした。
「嫌か?」
僕はもう一度、優しく聞いた。
彼女は首を横に振った。
「じゃあ、一緒に来い。誰にも何も言わせないから」
その時の席替えは荒れた。
何かの均衡が崩れたのだ。
僕は、決していい格好をしたかったのじゃない。
彼女のヒーローになるつもりもない。
ただ、許せなかったんだ。
仲間が、仲間を傷つけるのが・・・・。
僕の隣に座ると言うことは、僕の庇護を受けると言うこと。
彼女を虐めると、僕の鉄拳制裁が飛んでくると言うこと。
それが僕の目的だった。
僕の小学生の想い出、と言う下らない話に付き合ってくれて(人''▽`)ありがとう☆
あの子、今頃どうしてるかなあ?
物凄いすらっとしたモデルになっていたりなんかしてw