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いらいら

今日は、朝からずっといらいらしていた。
理由はない。
ただ思考が、全てのことに攻撃的だった。

僕はそれをじっと見ていた。
まるで自分を追うドローンみたいに。

止めることはしなかった。
止めれば止めるほど、思考は湧いてくることを知っていたから。

この車、下手くそだなあ。早く行けよ!
亀か!? お前は!
ゆっくり出ても、燃費は良くならないよ! 反対にローで重い車体をスピードに乗せなきゃ燃費悪いよ!
ウインカーぐらい出せよ、このタコ!

早朝からお怒りのご様子。
僕は笑って見ていた。

会社に着いても同じ。
人の挨拶にまでケチをつけて怒っていた。

睡眠不足だな、きっと。
それで機嫌が悪いんだ。

いつもは周囲の雑音が酷いのに、今日は、心の声が一番うるさかった。

言いたいこと、言ってろ。
全ての心の声をシカトした。

暫くすると、徐々に心の声が小さくなって行った。
その代わりに、周囲の思いやりに気が付き始めた。

ああ、僕の為にやってくれていたのか・・・
いいのに、そこまでしてくれなくても・・・

そして気が付くと、僕の心は一つの言葉で満たされていた。

ありがとう ありがとう ありがとう


自然に笑顔がこぼれた。
それを見て、仲間が笑顔を返してくれた。

ごめんなさい ごめんなさい ごめんなさい

無意識のうちに、僕は謝っていた。
周囲の人に、僕自身に。


帰り道。
朝とは違って、僕の心は静かだった。
遅い車の後ろについても、心は黙っていた。
いちいちエンジンが止まる車を見ても、ウザいとは思わなかった。

目の前の出来事が、まるで雲のように次々と流れて行く。
僕は、うるさい思考を停めた。

横断歩道をヨチヨチと歩くお婆ちゃん。
朝ならきっと、呪詛の言葉を投げつけていたに違いない。
代わりに、僕の大好きだったお婆ちゃんを想い出した。
気にしていたのか、お婆ちゃんが僕を見た。
そして、僕の笑顔を見て、

お婆ちゃんが笑ったんだ。


今日一日、頑張った褒美をもらったような気がした。

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