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二人の夏

沖縄に三か月いた時の話。
ちょうどひと月目だったと思う。

その日は珍しく古い常連ばかり五人で浜辺に寝そべっていた。
珍しくというのは、いつもは大抵新しい民宿の客を連れているからだ。
多い時は、20人ぐらい引きつれることもある。

僕たち常連は、初めてここに来た時、みんな常連さんたちの世話になっていた。
彼らは本物のエンターテナーだった。
沖縄の夏をトコトン味あわせてくれたのだ。
最後には涙を流すほど、感動させられた。

そうやって常連たちはどんどん増えて行く。
そして僕たちも、感謝の気持ちを込めて、新しく来た客に最高の夏を演出するのだ。

客のいない束の間の休日、人の来ない浜辺の芭蕉の葉陰で、僕たちは寛いでいた。
朝からビールを飲み、熱くなったら海に浸かると言うダラダラした過ごし方・・・これはもはや、定番と言うより、情連たちの間で「最高の休日」と呼ばれていた。

雲一つない真っ青な空がコバルトブルーの水平線に溶け込んでいる。
潮騒が耳をくすぐり、ブーゲンビリアが風に揺れる。
夏は確かにそこにあった。
僕たちは夏と共にいた。

その時、潮騒のざわめく音に混じって、ラジオから曲が流れてきた。

ふったりの なつ~は 🎵

その歌詞に合わせるように、水平線をヨットが横切った。


その瞬間、僕たちは息を飲んだ。

僕たちは今、夏の真ん中にいる!


感動が込み上げ、泣きそうになって常連たちの顔を見た。
全員、目を潤ませていた。

その曲が、僕たちの魂に語りかけたのだ。

誰も何も言わない。
ただ潮騒に混じって聞こえる音楽に耳を傾けた。

小賢しい思考は停止していた。
ありとあらゆる不幸の言い訳を探す必要もない。

ただそこにいる。
ただ息をしている。

ただそれだけで、僕たちは満たされていた。




以来、この曲を聞くと、どこであっても、何があっても、無条件にあの瞬間に戻ってしまう。



あの灼熱の太陽が照り付ける あの夏に・・・






あとがき

AYAさんの記事に応えました。

夏を想う時、この曲なしには語れない。
この曲を聞きながら目を閉じると、一瞬にしてあの時の僕に戻ります。
僕の全ての細胞の中に、あの夏が入っているんです。
彩さん、想い出させてくれてありがとう💙

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