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しあわせの記憶

平々凡々な家庭に育ち、当たり前のように幸せを全身に浴びて来た。
大人になってからは怒涛のような人生だったけれど、
幸せの記憶は、いつまでも僕を守ってくれていた。

クリスマス同様、正月になれば、いつも思い出す。
父と母、そして弟と過ごした幸せな三が日。

除夜の鐘を合図に、樫原神宮に初詣に行く。
家族の幸せの為、毎年、大渋滞に飛び込んだ父に、今更ながら感謝する。

早朝に家に辿り着き、仮眠の後、7時にはたたき起こされる。
一家で囲む、お節料理に彩られた炬燵。

父は必ず着物を着ていた。
襟を正す姿が、子供の僕らにも伝わり、思わず正座する。

「おめでとうございます」
父の言葉で、みな一斉に声を揃える。

さあ、お年玉だ。
今年はいくら入っているんだろう?

ああ、数の子って、何でこんなにおいしいんだろう。
クワエは嫌い。
でも芽を出さなきゃいけないからって、必ず食べさせられる。

お節には全て意味があるのよ・・・口癖のような母の言葉。
一通り説明を聞かされる。

大晦日まで動きまくった母は、三が日の間は動かない。
女は動いてはいけないというのだ。

お餅を焼いてお雑煮を作るのも父。
鯖寿司を作るのも父。
五段のお重になくなったものを足すのも父。

「一年間、わしらの為に頑張ってくれたんや。
正月ぐらい、ゆっくりしとき」
母は嬉しそうに笑っていた。

女と金で母を泣かせた父だけど、
二人は子供が見ても分かるぐらい、愛し合っていた。

畳の上でタンゴを踊る二人を、僕は笑って見ていた。
その時の、幸せそうな母の姿を僕は忘れない。


これが僕の幸せの記憶

平々凡々だけど、幸せを維持するのがどれほど大変か、
大人になって初めて分かる。
退屈な毎日を、文句も言わず働き続ける父と母に、頭が下がる。

今の僕は、幸せで出来ている


そう思うんだ。

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