見出し画像

Unforgettable


Unforgettable
忘れがたき人
あなたはいつも心にいる
忘れられない人
そばにいても遠く離れていても

いつまでも耳に残るラブソングのように
あなたの微笑みがいつも胸に浮かんでは
今まで出会った
誰よりも強く心を揺さぶる

忘れられない
どんな思い出も
そしてこれからもずっと
あなたを忘れることはない

愛する人よ なんて素晴らしいんだろう
こんなにも愛おしい誰かが
同じように私を愛おしく
想ってくれるということは

幼い頃から僕は、父の洋楽好きに付き合わされていた。
ワルツ・タンゴ・ルンバ・チャチャチャ・サンバ・・・
家にいる間は、ずっと聞かされた。
貧乏な家に似つかわしくない立派なステレオで。

洋楽の中でも、特にNat king cole が大好きだった父は、一日一回、必ず針を落としていた。
門前の小僧だった僕は、意味を知らないまま、空で歌えるぐらいに覚えてしまっていた。

今でもふと気を抜くと、「Love」や「Stardust」「Mona Lisa」などが口を突いて出てくる。
仕事中にも、口笛は大抵 Nat king cole
驚くのは、スペイン語で歌っていた「Quizás, Quizás, Quizás (Perhaps, Perhaps, Perhaps)」も空で歌えるwww

そんな僕だから、カラオケに行くと必ず歌いたくなる。
ずっと歌ってきた。
でも、昨日、歌った時は、何かが違っていた。

特に「Unforgettable」は、耳から入る自分の声が、やけに大人っぽくて、自分でもびっくりした。
そして気が付いた。
この歌には、妻への思いが溢れていたことに。

今までの愛情とは、どこか違う。
妄想や小説で妻をボロボロにした。
気の合わない男たちに妻を抱かせた。
自身も傷つくと分かっていながら、何故そんなことをするのか、分からないまま。

嫉妬に狂い、苦しんだ日々が、僕を変えたのだ。

快感に溺れ、身も心も奪われた妻を、それでも僕は愛した。
僕が見ていたのは・・・

妻の魂だ。

何者にも冒すことの出来ない美しい魂を

僕は愛したのだ。


その思いは、妻への愛情を深くし、大きく包み込む。
その思いは、声に乗り、自身にも返って来た。

Unforgettable 

忘れ得ぬ 愛しい人。



母がいる時は、僕の前で二人して踊っていた。
二人はダンスホールで出会ったらしく、ダンスが大好きだ。
父が疲れると、母は僕の手を取って踊り出す。

「この前、教えたでしょう!? ボックスぐらい(ワルツの基本動作)出来るでしょう!?」
幼い僕は、母のサテンのフレアスカートが足に絡み付いて、巧く踊れない。

「仕方ないわね。本当は、男がリードするものなのよ。ほら、お母さんに引っ付いて、自然にしていればいいわ」
と、僕を抱き寄せる。

柔らかな母の胸の感触と、サテンの艶めかしい触り心地、そして優しい母の匂いに、僕はうっとりする。

押されたら足を引く、引っ張られたら足を出す。
ただそれだけだ。
あとは母に抱きついていればいい。

「さあ、ボックスよ。いち、に、さん、し・・・そうそう」
ボックスを踏む僕を振り回して、クルリと身体が入れ替わる。
「うまいうまい。重心の傾いた方へ、足を出せばいいの」

母の心臓の音が聞こえてくる。
ドキドキドキドキ・・・・
これは僕の心臓だ。

母に初めて「女」を感じた一瞬だった。



Unforgettable



妻と母。


僕には、忘れ得ぬ愛しい人が二人いる。



いいなと思ったら応援しよう!