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静なる夜
クリスマスになれば、親が必ず靴に入ったお菓子を買ってくれた。
そしてアイスクリームのクリスマスケーキ。
もうそれだけで、僕は幸せになれた。
その習慣は、僕が家を出るまで続いた。
大人になってからは、クリスマスは女の子と一緒、それが当たり前だと思っていた。
たまに親に呼ばれて、彼女を連れてゆくときもあった。
「へえ、今回は綺麗な子やなあ」
「は!? 何言ってるの?」
「去年は、美人やったやないの!?」
元カノを笑いのネタに使うひどい両親でした・・・_| ̄|○
彼女は爆笑していたけれど・・・・。
でもたまに、クリスマスを前に別れてしまい、一人の時もあった。
元々お祭り好きの僕は、ダウンジャケットの下にひらひらのドレスシャツを着て、友達を誘いに行った。
「いやあ、白石君、そんなシャツ着てるの!?」
「せめて衣装だけでもクリスマスしようと思って」
「まあ、可愛らしい。あんたも見習いや! そやからあんたはモテへんのや」
「じゃかましい!」
と、友達はお袋さんに責められていたw
彼女いない歴ずっとの友だちを連れて、難波(大阪南の繁華街)に繰り出す。
街のネオンがキラキラしてて思わず気分が華やぎだす。
この意味なくキラキラしている世界が好きだ。
商業ベースのお祭りに載せられているだけだ、と言われるけど、
何と言われようと、好きなモノは好きなのだ。
I love Christmas💗
小さなころから、ずっと楽しい想い出しかないからなんだろうなあ。
僕がこんなに好きなのは。
友達とお姉ちゃんに声をかけまくって、やっと捕まえた女の子たちとワインバーに飲みに行く。
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花火付きのカクテルがテーブルに置かれ、場内の電気が消される。
なに?なに?となっている所で、ボーイたちが一斉に拍手を始める。
「お誕生日、おめでとうございます!」
場内は祝福の嵐。
「誰の誕生日なの?」
「決まってるでしょ。キリストさんの」
こんな風に、長くて楽しい夜は更けてゆく。
でも、一度だけ、一度だけ、寂しいクリスマスを迎えたことがある。
あれは僕が地獄の入り口に差し掛かっていた頃の話。
離婚して、親に裏切られ、家を追い出され、全てを無くした僕は、深夜の道を一人歩いていた。
何をどうしていいのかもわからず、途方に暮れていた。
音のない街に、しんしんと雪が降りだした。
前方に一か所だけ、キラキラと輝いている建物が見え、僕は吸い寄せられた。
教会だった。
シンプルな教会の尖塔から、何本かのイルミネーションがかけられている質素な装飾だった。
ああ、今日はクリスマスだったのか。
扉に何か貼ってある。
「いつでもドアを叩いてください。教会の扉はいつも開いています」
その貼り紙を見た僕は、扉の前の階段に跪いた。
神様・・・・・・
その後の言葉が出て来ない。
お願いするのは違うし、感謝するには、今の状況は辛すぎる。
僕は、人の目がないことをいいことに、胸の前で指を組んた。
その瞬間、身体の力が抜け落ちるのを感じた。
ずっと抑えていた自分が滲み出てくる感じだ。
目からポロポロと涙が落ちた。
泣けば泣くほど悲しくなった。
涙が止まらなくなった。
頭と肩に積もる雪。
しかし僕は寒さを感じなかった。
悲しくて悲しくて・・・・
どれくらい経ったのだろう!?
階段に着いた膝の感覚がなくなっていた。
組んだ指先も、何も感じない。
で、隣に誰かの気配を感じ、僕は振り向いた。
黒い服を着たオジサンが、僕の隣で、同じように祈りを捧げている。
驚いて見ていると、オジサンは顔を上げ、
「すいません。あなたを見ていたら、僕もお祈りをしたくなって」
そう言ってニコリと微笑んだ。
よく見ると、ジャケットの下に詰襟らしきものが。
牧師さんだ!
僕が何か言おうとすると、彼は唇に指を押し当て、遮った。
「今日はクリスマスです。一緒にお祈りしましょう」
彼は何ひとつ聞こうとはせず、ただ黙って付き合ってくれた。
全てが凍り付いたような世界で、ほんの少し温もりを感じた僕は、声を出して泣いた。
隣で嗚咽する僕を、彼は何も言わず、ただ一緒に跪いてくれたのだ。
結局、一時間近く、僕はそこにいたらしい。
最後は、泣き止んだ僕を教会の中に入れてくれ、ストーブの前で温まるまで居させてくれた。
奥さんのいれてくれたホットチョコレートの甘さが、今でも忘れられない。
僕の悲しいクリスマスは、結局、心温まるクリスマスだったのだ。
ちなみに、その牧師さんとは、今でも付き合いがある。
僕がイエスになって張り付けられた夢を見たことを、今でも羨ましがってるw