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羽
バイトの早番の朝、国道で一羽の鳩が轢かれていた。
即死だったのだろう、
血まみれで、とても触れるような状態ではなかった。
帰り道、鳩の死骸は何度も車に轢かれ、血の塊が広がっていた。
翌日、胴体と羽だけを残して、鳩の輪郭はぼやけていた。
日が経つにつれ、次第にぼやけ、胴体も消え、羽だけが残った。
羽だけが消えずに残っている。
鳩の存在した証が、少しずつ消えて行く。
一週間後、僕はスケッチブックをもって、羽だけ残った鳩の死体をスケッチした。
クラクションが鳴り響き、警察がやってきた。
それでも僕はスケッチに没頭した。
泣きながら。
ただ一羽の鳩の死。
僕には何の関係もない。
感情が動くこともない。
なのにどうしてこんなに涙が出るのだろう。
僕にはそれが、
堕ちた天使の羽のように見えたんだ。
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