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インドを旅行していた時のこと。
デイバッグが壊れたので、向こうでボロボロのショルダーバッグを買った。
ひと月ほど気に入って使っていたのに、ある時、急に取っ手の根元が壊れた。
金属の輪っかが折れ、縫い付けていたところが破れて使い物にならない。

買い直そうと思ったけど、気に入っていたので何とか修理は出来ないものかと、街を彷徨っていた。
そこで、道端にゴザを敷いて靴の修理している男を発見。

道具を見ると、ごっつい針、やっとこ、ハンマー、ペンチ、折れ釘、以上みたいなw
そこでバッグを見せ、修理できるか聞いてみた。

ああ、これなら簡単だよ・・・と言うや否や、さっと取り上げて修理を始めた。
横に置いてあったゴミの山から(実は資材だったりw)太目の針金を出し、器用に輪っかを作った。

そしてぶっとい針と糸でそれをバッグに縫い付けて、ハイ、出来上がり!
それはそれは見事な早業だった。

いくら?と聞くと、

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って言いやがった!(゚Д゚;)
お好きなだけ、ってどうよ!?!

乞食のような姿で、ボロボロの服を着ているのに・・・
きっと高いことを言って来るんだろうなって思ってたのに・・・。

修理代と、
見事な技を見せてもらったお礼と、
その笑顔で言った心意気に、
僕は、100ルピー渡した。
恐らく、この人にとっても2~3ヶ月分の収入だったと思う。

この時の僕は、持つ者だったから。

僕は昔から、「金は持つ者が払えばいい」と思っていた。
いや、思っているw
だからデートの時も殆ど彼女たちに払ってもらっていた。
もちろん、だからと言って申し訳なさそうに・・・なんかしないw
オレは芸術家だ。金は持っていない。君は持ってる。じゃあ、払え。
ぐらいに思っていたwww
歴代の彼女たちに感謝です(´ー`)

すると、男は首を振って「多すぎだ」と断った。
男に武士道のような、矜持きょうじを感じた。
オレは物貰いじゃねえ! ふざけるな! と、怒られたような気分。

じゃあ半分でどうだ!?
男は50ルピーをしばらく眺めて受け取った。

僕は、感謝の気持ちを伝えたくて、日本の煙草を勧めた。
男は美味しそうに煙を空に向かって吐き出した。

僕は、このオヤジに金に縛られていない生き方っていうか、爽やかな潔さを感じた。
そして、一緒にタバコを吸って立ち去る時、セブンスターひと箱を置いていった。

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この言葉を聞くと、僕は今でも、このオヤジを想い出す。
きっと今でも、空に向かって煙を吐いているんだろうなあ、と思いながら。


そういや、僕も銀座で個展をした時、絵を買いたいという客が現れたことがある。
「おいくらですか?」と訊かれたので、
「いくらでしょう!? 僕には分かりません。あなたが決めてください」
と言ったことがある。

するとその女性は、間髪を入れずに言った。
「そうね、二万円かしら」
僕は驚いて目を見張った。
僕の思っていた金額と完璧に一致したのだ。
これ以上でもこれ以下でも、この絵は売らないと決めていたのに。

僕は嬉しくなって礼を言った。
「まだまだね。頑張んなさい」
その女性の笑顔から、こんな言葉が聞こえてきたような気がする。

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