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憧れの男

子供の頃の僕は、気が弱くて言いたいことも言えない子だった。
先生の質問に、間違っていたらどうしよう、と答える勇気もなく、後で後悔してばかりしていた。
理不尽なことで怒られても言い返せず、ただ悔しくて泣くだけ。

僕が泣くのは、痛みや悲しみではなく、必ず悔し泣きだった。
こんな惨めな自分から脱出したい、そのことばかりを考えていた。

僕の頭の中にはいつも、ぼんやりとではあるが憧れの男がいた。
物怖じしない彼は、いつも堂々としていて、言いたいことをはっきりと言う。
間違っていても即座に誤りを認め、謝る。そして、

大きな声で笑うんだ。


だから彼は失敗を恐れない。
いつも怯えている僕とは大違いだ。

巨人の星 花形満

中学の2年になった僕は、転校した。
一学年13クラスの市内のマンモス中学校から、一学年3クラスの田舎の中学に引っ越したのだ。

そこで僕は、衝撃を受けた。
男は全員、坊主頭だったのだ!
花形満(知る人ぞ知るw)のような自慢の髪を切る気はさらさらなく、僕は徹底抗戦した。

三日後、番長と呼ばれている男に呼び出された。
「調子に乗ってんなよ。やれ!」
子分二人が寄ってたかって僕から制服とシャツを脱がせた。

そして異変は起こった。
Tシャツ一枚になった僕を見て、番長たちは驚いているようだ。
「お前・・・何かしてたのか?」
「柔道」(体育の授業でやっただけw)
「そ、そうか・・・気を付けろよ・・・」
番長たちは静かに去って行った・・・。

その頃の僕の趣味は、自己鍛錬。腕立てや腹筋を暇さえやればやっていたので、身体は当時流行っていたブルースリーに似ていたw
この身体のお陰で、僕はこれからも幾度となく虐めや恐喝などから救われることになる。


ある時、校長に呼ばれ、教頭と担任三人がかりで僕を説得しようとしたが折れることはなかった。
困り果てた学校側は、親やPTAを巻き込んでの大騒動となった。

母は言った。
「切りたないんか?」
「うん」
「そしたら頑張れ」
父は言った。
「切れへんのか?」
「うん」
「しゃーないな」
家族会議はこれで終わりw

で、僕は思った。
学校の校則を変えればいいんだ。

そして僕は、その日、バッサリと髪を切った。
翌日、坊主頭になった僕は、休み時間になると、各学年の教室に行き、教壇を叩いて熱く説得して回った。
もちろん、女子も囲い込んだ。
人権を大声で叫んだ。
「俺たちも一人の人間なんだ。髪を伸ばす権利がある! お前たちはこのままでいいのか!? 悔しくないのか!?」とかw

驚いていたのは僕自身だ。
それほど髪を切ったのが悔しかったのかw

そして生徒会を脅して全校集会を行った。
僕は全生徒に向かって吠えた。
「俺たちは生徒である前に、一人の人間なんだ。こんな横暴に黙って従ってていいのか!? 俺たちの手で学校を変えるんだ。ここは俺たちの学校なんだから!」
割れんばかりの拍手に、負けないぐらい大きな声で僕は叫んだ。
「校長! これが僕たちの総意です! ここは先生たちのモノではありません! 僕たちに返してください!」

翌日、PTA総会が行われ、校則から頭髪の長さに関する条項は消えた。
僕たちは自由をつかんだ。

そして引っ込み思案だった僕は、生徒会会長になり、次々と校則を変えていった。
女子の髪型や、スカートの丈に関する条項など。

気が付けば、僕は別の誰かになっていた。

憧れの男に、一歩近づいた気がした。


競争率が激しい新設の公立高校に奇跡的に入った僕は、安心していた。
ここならバカな不良どもはいないだろうと。

が、いた。
野生的なのも、インテリヤクザのような質の悪い奴も。

そんな不良たちを集めたようなクラスに、僕は運悪く当たってしまった。
そして、当たり前のように犠牲者が選ばれた。
がり勉の太田君だ。

金髪の野性的なワルたちが彼を囲む。
陰湿ではないが、分かりやすい虐めだった。

周りのクラスメイト達は、見てみぬ振り。
その中に、悲しいことに僕も入っていた。

と、一人の男が立ちあがり叫びながら金髪のリーダーらしい男にタックルした。
その場に居合わせた全員がキョトンだ。

男は、高村君だった。
普段から目立たない大人しい奴で、殆ど話しているのを聞いたことさえない。

が、ワルどもの報復が始まった。
寄ってたかって殴る蹴るのタコ殴り状態。

高村君は、頭を押さえてじっと耐えていた。
太田君もボー然と見ている。

「クソが! もういい、行こう」
ワルどもは、捨て台詞を吐いて去って行った。

すると殴られていた高村君は、すっくり立ち上がって言った。
「ああ、いてて・・・ちきしょう、あいつら手加減しないのな」

そして、ニッコリと笑ったんだ。


僕は驚き、心底、カッコイイ!と思った。
僕の憧れの男が、こんな間近にいたなんて!

僕は嬉しかった。
目の前に、明確な目標が現れたのだ。

その日から、僕はこの高村君に友情を押し付けたw
いきなり家に遊びに行ったり、一緒に写真部を作ったり。
少し迷惑そうでもない高村君のことをもっと知りたかったのだ。

が、とんでもないことが起こった。
虐められていた太田君の役が、僕に移ったのだ!

それは静かに始まった。
一緒に弁当を食べることから始まり、次第に気に障ることを言うようになり、お仕舞いには、「お前、火星人みたいだな、おい、火星人」と囃し立てだしたのだ。

余りのしつこさに、僕は次第に怒りを溜めていった。
そしてある日、静かに弁当を片付けると、ゆっくり立ち上がり、拳を思い切り机に叩きつけた。
机はひび割れ、囲んでいた不良たちは目を見張った。
「うるさい!」
僕は、ガラス窓が震えるほどの大声でライオンのように吠えると、教室を出た。
自分を抑え切れないと思ったからだ。

ちなみに、僕は学校で一番髪が長く、ライオン丸と呼ばれていたw

その日からピタリと虐めは停まった。

そして虐めの対象が別のがり勉君に移ろうとしたその時、僕と高村君は立ち上がった。
「やめろよ、お前たち」
二人の言葉に、不良たちはすごすごと教室から出て行った。
その瞬間、僕たちは本当の親友になったのだ。

その頃から、僕は不良たちとも仲がよくなった。
インテリヤクザとは揉めなかったが、向こうも一目置いていたらしく、僕と友人たちには手を出さなかった。

そして、いつからか、高村君が、僕の憧れの人の面影から消えた。
高村君を吸収したのだ。

僕はそうやって、目の前に現れる憧れの対象を吸収して大きく強くなってゆく。

そしてふと周りを見ると、憧れの対象がいなくなっていた。
待てど暮らせど現れそうにない。
そう、

気付けば僕は、子供の頃、夢見た憧れの男になっていたんだ。


僕の頭の中には、僕の後ろには、いつでも必ず、子供の頃の僕がいる。
そのキラキラした目が僕を見ている。
それでいいのか? そうやって僕に語りかけているようだ。


だから僕は、僕を裏切れない。


子供の頃の僕を悲しませないために。






 あとがき

友達のコメントに書いたのをきっかけに、色んなことが蘇った。
一気に引き出しがポンポンと開いて、選ぶのに苦労した。

でも、が勝手に書き出して、あっと言う間に書き上げた。
思考より早く動くに勝てる気がしない・・・_| ̄|○

何が書きたかったのかって?
に訊いてくれ ( ゚Д゚)y─┛~~


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