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入れ墨屋🍪
幼い頃、近所の子供たちが通う菓子屋があった。
背中の丸まったお婆さんが一人で店番しており、僕たちに優しく接してくれた。
昭和なので、瓶に入ったせんべい一枚5円とか、人口着色料バリバリの綺麗なゼリー入りのストローとか、生クリームのような合成クリームとかw きっとあれは、ほぼ石油で出来ていたんだろうなw
僕たちの年代は、そんな厚生省公認の化学薬品で育った(´ー`)
その四畳半ほどの狭い店には、時折、お爺さんが留守番していることもあり、その無口なお爺さんとも仲が良かった。
お爺さんの背中には、立派な入れ墨が彫られてあり、夏の暑い日は、その入れ墨を堂々と見せたまま留守番していた。
それが店の名前の由来である。
僕は、その爺さんの背中を指さして言った。
「おっちゃんの鬼の面、怖いなあ」
「これは般若言うんや。怖い奴らから守ってくれるんや」
「おっちゃんの方が怖いやんけ!」
「うるさい! 買ったら早よ、いね!(帰れ、いなくなれ、という意味w)」
そうやって僕たちは、入れ墨というものに耐性が出来て行ったw
「入れ墨屋行こうか!?」
友達の誘いに、僕は母親に言った。
「うん、お母ちゃん、入れ墨屋行ってくるわ」
これが日常会話であるw
今、思うと恐ろしいw
そんなある日、僕と親父は銭湯へ行った。
一億総貧乏な時代だ。内風呂を持っている家などそうはなかった。
洗い場に入ると、全身に入れ墨をした男が背中を向けて湯船に足をつけていた。
「わあ、おっちゃん、綺麗な入れ墨やなあ」
「ああっ!?!」
男は威嚇するように振り向いた。
しかし僕は、全く動じることもなく、指差して言った。
「この龍、何か玉咥えてるで。何咥えてるの?」
「あ、ああ・・・それはな如意宝珠と言うんや。分からんと思うけど、何でも願いを叶えてくれるんや」
「へえ、有難い玉なんやなあ」
小学生と入れ墨者の会話ねww
いわゆるドラゴンボール的なこの玉は、如意宝珠と呼ばれています。
如意珠や如意摩尼とも言われていまして、サンスクリット語ではどんな願いをもかなえる珠を意味するらしい。
病を治したり、災いを避けたりすることができ、ありとあらゆる願いが叶う神聖な玉だと言われています。
つまりやっぱりドラゴンボールだね。7つなくてもいいけど。
そこへ親父が慌てて飛んできて
「すいません! 息子が余計な事言いまして!」
と、僕の脇を抱え、飛ぶように連れ去りましたw
その後、脱衣場で着替えていると、例の入れ墨者がやって来て
「坊主、ジュース飲むか?」
と、笑顔で言った。
「とんでも・・・」
親父が何か言いかけるよりも前に、僕は走っていた。
「おっちゃん、俺、ミックスジュースがええわ」
と言うが早いか、僕は冷蔵庫から憧れのミックスジュースを取り出し、蓋を開けていた。
「坊主、お前、なかなかええ事言うのぉ。気に入ったわ。また奢ったるわ」
「やったー! 今度、おっちゃんの背中、流したるわ」
「そうか、嬉しいこと、言うてくれるなあ。その時は、頼むで」
「おう! 任せとき! 約束やで」
小指を出して指切りをしようと思った瞬間、親父がまたしても僕の脇に手を入れ、引き離した。
僕は、引きずられながら手を振った。
「またな、おっちゃん」
「おう」
銭湯の帰り道。
「やめとけ、アホ!」
「何でや⁉ お父ちゃん」
「ヤ〇ザと関わると、ろくなことがない」
「ええ人やで、あのおっちゃん」
「アホ!」
「もう俺ら、友達や」
「アホか!」
「アホアホ言うな。アホなるわ」
こんなやり取りをした記憶がwww