
螺子(絵と言葉と音楽と)
僕には螺子が一本足りない。
きっと何かが欠けている。
時々、絵を見ていると音が聞こえる。
クラシックのような音楽だったり、工事現場のような騒音だったり。
時々、音が絵に見えてしまう。
風景画だったり、激しい抽象画だったり。
時々、文章がクネクネと動き出し、ダンスを踊っているように見える。
それは、お気に入りの文章に出会った時。
鼻歌を歌いたくなるような素敵な文章に、僕も小躍りする。
毎朝、音楽を聴きながら通勤する。
頭の中に、いつも美しい風景が広がっている。
工場の中を歩く。
僕にはそれが、砂浜を歩いているように思える。
笑顔がこぼれる。
仕事が始まり、音楽を止める。
目の前の光景に、ハッとする。
リフトを操作しながら、ワイヤレスフォンで音楽を聴く。
途端に僕は、大自然の真っただ中に放り込まれる。
また笑顔がこぼれる。
それを見た同僚が、笑っている。
「あいつ、螺子が一本欠けてるな」
そうなんだ。
僕には、螺子が一本、足りないんだ。
そんな僕だから、純粋でいられる。
その綺麗な泉のような魂を、くだらない知識や常識が濁そうとしている。
だから僕は、全てのモラルや常識を取っ払おうとしている。
「言葉」を使って。
そして全ての雑念を取り除くことが出来たその時は、
一枚の絵を描こうと思う。