「この高鳴りを何と呼ぶ」
家族で温泉に行きました。普通の大衆温泉。
大浴場とサウナ。露天風呂。露天風呂の横には足ツボゾーンがあった。
値段は少し高めだが、サウナが無料なのでまぁ、いいか、と。
長男(15歳)、次男(13歳)と、男湯に入る。
2人はすぐに露天風呂へ。
私はサウナに入る。
平日なので、客は少なめだった。
サウナに入り、しばらくすると、長男が呼びに来た。
「ちょっときて!!」
何事かと心配になり、露天風呂へ向かう。
「今から順番に、足ツボゾーンのとこ歩くから、どっちが痛くなさそうな顔して歩くか、見て!」
……マジか。
そんな事で、日々の癒しの為にサウナに入っている私を呼んだのか。
大人を何だと思ってる!
などと、少しも思う事なく、ただひすらコイツらの親父で良かった、と、心底思った。
精一杯、ジャッジさせてもらおう。
まずは長男が歩く。
そのたたずまいは、まるでコンビニのレジに堂々と割り込んで来るヤツのようだ。
威風堂々とした姿。
知らない間に、色々な経験を重ね、順調に大人になっているのだろう。
これなら、きっと高校受験も大丈夫だ。
「85点!!」
いきなりの高得点だ。
長男は今のところ1位だ。
続いて次男が歩く。
遠くを見つめながら歩くその姿は、まるで犬の散歩中にリードが伸び切った飼い主のようだ。彼も彼なりに、一歩ずつ、確実に成長しているのだろう。
「90点!!」
まさかの大逆転劇。
こうして、第1回大会は、次男の優勝で幕を閉じようとしていたが…
「じゃあ、次、俺な!」
まさかの私の参戦。
これが大人の世界なんだよ。
これが社会人の理不尽なんだよ。わかるか?あと数年後には、お前らも、この理不尽さと戦わなければいけないんだよ。
スタートラインに立つ。
ふと夜空を見上げる。綺麗な星空だ。
高校生の時、友達と夜遊びをして、原付に3人乗りしてコケた時に見上げた夜空も、こんな風に優しかった。
「行きます!」
この高鳴りを何と呼ぶ。
いざ、歩く。
「痛い、痛い!!無理!!」
オジさんには無理だった。こんな物作って、何考えてるんだ!!
「俺、サウナ行くから!!」
私は、サウナに入っているかのような赤い顔をして、露天風呂から姿を消した。
子供の視線は、サウナの後の水風呂のように冷たかった。