「図書の家選書」第2期・わたなべまさこ「涙の讃美歌」
こんにちは、図書の家です。
8月8日よりAmazonはじめ各電子書籍サイトにて、「図書の家選書」第2期、50’sバレエマンガ特集が配信開始いたしました。
配信にあたってはこちらのエントリにてご報告させていただいたのですが、
各巻のご紹介もさせてください!
このエントリでは、わたなべまさこ「涙の讃美歌」をピックアップいたします。
この作品は、1956年に若木書房から発行された貸本として発表されたものです。
54年から56年にかけて『少女』にて連載されていた手塚治虫「ナスビ女王」をはじめとし、少女向けのマンガ作品にバレエが登場しはじめた頃にこの作品も発表されました。「涙の讃美歌」は、現在把握できているバレエマンガ史においては、かなり早い時期に発表されたバレエマンガといえます。
そういった意味でも大変重要な作品なのですが、貸本として出版されて以降、これまで単行本などに収録されたことはないので、今回の電子書籍化によって、初めて読む方がほとんどではないでしょうか。
裕福な家で何不自由なく育った主人公・洋子を中心に、洋子の家族や従姉妹の梢といった人々が激動の運命に翻弄されるストーリー。後に「ガラスの城」(『週刊マーガレット』69〜70年連載)で日本中の読者をハラハラドキドキさせた才の片鱗が、すでに発揮されています。
そんな波乱万丈の末、すべてを失った洋子の希望としてあるのが「バレエ」なのです。
ただ可愛らしいとか美しいといったことだけでなく、「バレエ」というものに当時の少女が夢見た切実さも、きっと胸に迫ることでしょう。
この作品が描かれた1956年(昭和31年)は、政府が「もはや戦後ではない」と宣言した年でもあります。
終戦から十年余り。日々の暮らしにはまだ戦争の深い傷跡が、けして小さくはない影を落としていたのではないかと想像します。それでも日本が高度成長に転換していく時期、人々が「もはや戦後ではない」と奮起していく時代に合わせて、主人公の少女たちも、読者の少女たちも、明日を信じて前に進もうとしていました。その傍らに、バレエがあったというわけです。
そのような時代をイメージしながらこの作品を読んでいただくと、より作品を深く味わい、楽しんでいただけるのではないかと思っています。巻末には、わたなべ先生からのコメントも収録されています。
今から68年前に描かれた少女マンガ「涙の讃美歌」、この機会にぜひ読んでいただきたい一作です!どうぞよろしくお願いいたします!