並行輸入販売は合法なのか?【商標権・特許権】
お疲れ様です。
としぞーです^^
息子がうまい棒のうまさにハマったらしく、この前こんなことを聞いてきいました。
「あのさ、うまい棒ってめちゃくちゃうまいじゃん?ってことはこれをたくさん買ってたくさん高く売ればめっちゃお金溜まるんじゃない?」
僕「いやいや、うまい棒なんてどこでも安く買えるんだから、わざわざ君が売る高い金額で買う人はいないでしょ?」
「いるよ。だってうまい棒めちゃくちゃうまいもん」
僕「うまいのはわかるけど、同じものが安く売っている以上安い方が買われると思わない?」
「思わない。だってうまい棒めっちゃうまいもん」
なんという頑固な信念(笑)
さて。
今回は並行輸入品は合法なのか?というテーマで、輸入にまつわる商標権と特許権について取り上げたいと思います。
いつも通り若干長くなりますが、ぜひ最後までご覧ください。
知っていて得することはあまりないかもしれませんが、知っていて損をせずに済むことはわりとあるはずです。
それでは本編にまいります。
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1 商標権とは
まずはじめに商標権について取り上げます。
ブリタニカ国際大百科辞典によると、商標権はこう定義されています。
簡単に言えば「商品の特徴を独占的に保有できる権利」ですね。
この権利がないとビジネスが成り立たなくなります。
極端な話、ブランドのコピー品などを罰することもできなくなるわけです。
ある商標(語句やロゴや形状や記号や音)を持った権利者がいた場合に、その権利者に無断で商標を利用して営利活動を行うことは禁じられています。
これがあることによって商標権者は守られて、安心してビジネスを続けることができます。
並行輸入品が合法なのか?を解釈するにあたって、この商標権を無視することはできません。
例えば、海外にも日本にも『トシゾー』というブランドがあって、海外と日本で『トシゾー』の商標を持つ商標権者が別人だとしましょう。
そのケースで海外から輸入したトシゾー商品を日本で売る場合、この行為は日本の商標権者の権利を侵害していると言えないでしょうか?
「侵害している」と言えるならば、そのケースにおいての並行輸入は違法だと判断されます。
2 並行輸入は商標権侵害なのか?
結論から書くと「真性商品の輸入は合法である」と見做されています。
このことから多くの並行輸入品の販売は違法ではないと思って良いです。
しかし、特定の場合は並行輸入品の販売が違法と見做され、販売の停止・税関での没収・損害金の支払いなどの措置を講じられる可能性があります。
では、そのジャッジはどんな尺度で行われるのでしょうか?
もちろん、最終的には個別の訴訟に対して裁判所が判断をするわけですが、全てのケースに対して訴訟を起こし裁判所の判断を仰ぐのは経済的ではありません。
そのため、このような場合は過去に裁判所が出した判例を参考にして、それが合法か違法かを事前に判断することが慣例となっています。
ということで、並行輸入と商標権に関わる過去の判例を見ながら、僕たちは何に気をつければ良いのかを考えていきましょう。
3 参考たり得る判例
並行輸入と商標権を考えるにあたって良く参考にされる判例があります。
それが平成15年2月27日に最高裁で争われたフレッドペリー事件についての判例です。
事件の詳細については割愛しますが、この裁判では『並行輸入品が商標権を侵害しない条件』が3つ提示されました。
その3つとは以下の条件です。
ちょっとややこしいのですが、簡単に言ってしまうと
①その商品が本物で
②海外と日本の商標権者が事実上同一で
③輸入品のクオリティが国内品と比べて著しく劣っていない
これらの条件を満たている場合、その輸入品の販売は商標権侵害に当たらない。ということを言っているわけです。
これを一言でまとめると「真性商品の輸入は合法である」となります。
非常に大事な要素ですので、一つずつ詳しく見ていきましょう。
4 真正商品性
『真正商品性』についてはあまり説明の必要はないでしょう。
日本国内で偽物とされる商品を売っている場合は、その輸入品の販売が商標権侵害にあたるよと言っているだけです。当たり前ですね。
例えば『トシゾー』商標が日本とアメリカにあったとして、アメリカの商標権者が正当に付与した『トシゾー商品』を仕入れて日本で販売する場合、その商品は本物です。これは問題ない。
一方で、アメリカの商標権者以外の存在が勝手に『トシゾー商品』を作り販売しているとき、この商品はアメリカ国内においても偽物です。
当然、これを輸入して販売した場合、日本においても偽物を販売していることになります。どう考えてもダメ。
このようなケースを禁じているのが『真正商品性』の項目ですね。
5 内外権利者の同一性
『内外権利者の同一性』は少しわかりづらいですね。
なので、先ほどと同じく『トシゾー商品』で考えてみましょう。
あなたは日本において『トシゾー』の商標を取得しました。
地道なブランディングの結果『トシゾー』の名前は一般に浸透して、そのブランド商品は相場よりも高く売れるようなものに成長しました。
しかしある日、自分が作った覚えがない『トシゾー商品』が日本で流通しているのを見かけました。
確認してみるとその『トシゾー商品』はA国で生産・輸入されたようです。
A国に確認してみると、B社という団体がA国においての『トシゾー』商標を取得しているとのこと。
あなたはA国での商標登録をしていませんから、少なくともA国においてB社の『トシゾー商品』は全く合法なものとして流通しています。
ですが、日本においての商標権者はあなたですから、B社の『トシゾー商品』が流通すると消費者にいらぬ混乱を与え、あなたは損害を被る可能性があります。
そこであなたはB社を提訴します。
裁判所は『内外権利者の同一性』を満たしていないと考え、B社へ販売の差止めを求めました。
と、こんな感じで「内外権利者が全くの別団体」だと権利が衝突して問題が発生します。
だから、このようなことが起き得る商品についての並行輸入は商標権を侵害していると考えられるわけですね。
6 内外権利者の同一性(応用)
そうなると一つ疑問が生まれます。
海外メーカーの商標を、海外メーカーの代理店である日本の団体が日本国内において取得した場合『海外メーカー』と『日本代理店』は同一権利者だと認められるのか?
これって、僕らのビジネスでも出会う可能性があるものですよね。
有名なコンバース事件などでは、紆余曲折あって「海外の商標権者と日本の商標権者はもはや同一とは認められない」と判断されました。
よって、現在でもコンバース関連の並行輸入品は税関で没収されます。
一方で、団体が違うにも関わらず「同一権利者である」と認められた判例もあります。例えば、東京地裁で争われた昭和48年8月31日の判例です。
つまり、仮に海外の権利者と国内の権利者が資本関係を持たない別団体だとしても、両者の間に経済的・法律的な関係があった場合は両者を『同一権利者』だと見做して良いと言っているのです。
これによって
海外メーカーの代理店である日本の団体が日本国内において取得した場合『海外メーカー』と『日本代理店』は同一権利者だと認められるのか?
の問題に関しては『認められる』と判断することができるようになりました。
とはいえ、この辺りは色々な要素が絡みますので、その状況に応じて判断が変わることも十分にあり得ます。
本当に微妙なケースにおいては、専門家の助言を仰ぐことをお勧めします。
7 品質の実質的同一性
『品質の実質的同一性』についても例をとって考えてみましょう。
あなたは日本国内で『トシゾー』の商標を取得し、商品を販売しています。
クオリティに関して点数をつけるなら80点。
日本の顧客はうるさいので、かなり高いクオリティを保っています。
同時にあなたはA国での商標も取得して、A国で商品を販売しています。
A国での『トシゾー商品’』のクオリティは40点。
国民性を考え、クオリティよりも価格を優先して展開しています。
ある小売業者Bは、A国の問屋に交渉して『トシゾー商品’』を仕入れ、並行輸入品として日本で販売しています。
あなたは困ります。
『トシゾー』という商標を含むクオリティ40点の商品が日本で流通することにより「クオリティが高い」というブランディングをおこなってきた本来の『トシゾー商品』の価値が薄まってしまうからです。
そこであなたはB社を提訴します。
裁判所は『品質の実質的同一性』を満たしていないと考え、B社へ販売の差止めを求めました。
と、こんな感じで「品質の実質的同一性」を満たしていないと、仮にその商品が真品で内外権利者が同一だとしても商標権侵害だと見做されるケースがあります。
8 ポイントと注意点
以上の3つの条件を満たしていれば、その並行輸入品の販売は商標権を侵害しないと考えられます。
全ての条件の前提にあるのは「商標権者の権利を侵害しないこと」「商標権者に不当な不利益を与えないこと」です。
この原理原則を考えれば、大体のケースで間違えを犯すことはないでしょう。
とはいえ、訴訟はロジックだけでなく攻撃の意図で行われる場合もあります。困った時は即座に専門家に相談すべきですね。
9 特許の場合はどうか?
ついでに『特許』についても考えてみましょう。
商標権ほど身近ではないものの、非常に重要な要素です。
日本弁理士会HPでは特許をこう定義しています。
自分がせっかくコストをかけて発明した技術が、簡単に他者に真似されてしまうなら、コストをかけるのが馬鹿らしくなります。(二番煎じが一番合理的になる)
一方で特許のような制度があると、発明者は安心してそこにコストをかけることが可能となります。
特許は発明を促進させ、経済などを前に進めるために必要な制度なんですね。
ですから、特許を侵害した場合は厳重に罰せられます。
10 特許商品の国内転売は違法?
例えばある特許商品があって、その商品を転売するのは合法なのでしょうか?
あなたがある特許を取得してその特許を利用した商品を販売しているとき、あなたとは関係のない第三者がその商品を転売している。
あなたにとってはちょっと目障りかもしれません。
この状況を特許侵害で取り締まることができるのでしょうか?
答えはNOです。
特許には『国内消尽』という考え方があります。
「特許権の効力はその特許製品が市場に置かれた段階で消滅する」
ざっくり言うとこのような考え方です。
だから、特許製品を第三者が作るのはアウトだけど、すでに市場に流通した特許製品を転売するのはセーフなんですね。
(そうじゃないと世の中の転売が大体アウトになります)
特許権と輸入の関係においてはこの『消尽』と言う考え方が争点になります。
11 特許商品の輸入転売は違法?
『国内消尽』と関連して『国際消尽』という言葉があります。
外国において国内消尽された製品が日本に持ち込まれた場合、すでに効力を失った特許権は効力を失ったままである。
この考え方が正しいならば、輸入品において特許権侵害は発生しないことになります。
一方で『特許独立の原則』という概念もあります。
この原則では「国ごとの特許は独立して考えるべきである」と考えます。
この立場に則って考えると、海外で失効した特許権の効力は国内において全く関係がないことになるため、輸入品が特許権侵害に当たる可能性が十分にあります。
果たして特許製品の並行輸入は違法なのでしょうか?
12 特許商品の輸入転売は違法?(続き)
平成9年7月1日に最高裁で争われた判例によると
とあります。
この裁判では『国際消尽』は認められませんでした。
しかしながら「日本で販売してはいけない」という合意がない限り、特許製品の輸入販売は特許権侵害に当たらないと判断されています。
逆にいえば「日本で販売しちゃダメよ」という合意があるにも関わらず、特許製品(もちろん日本と取引国の双方に特許が存在する場合)を販売すると特許侵害になるわけですから、それについては重々注意しましょう。
13 まとめ
以上、長くなりましたが並行輸入品と商標権・特許権の関係についてのまとめでした。
おそらく多くの販売者にとってはあまり身近ではない話だったと思います。
が、ビジネスのフェーズが上がっていくごとに、このような法律関連の問題に出会う確率も高くなります。
まさに知っておいて損はないことですね。
また、輸入プレイヤーの大半は並行輸入品を扱っていると思うので、それがどのような理由で合法とされているのかを知っておくこともすごく重要ですね。
過信に気をつければ、知は力になります。
ぜひ一つの知識として参考にしてください。
以上です!
また次回!!
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