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ラオス旅行(仮)その6
「今日はワットプーへ行く日だな」
「昨日も一昨日も同じ事を言ってたけどね」
ホテルのロビーでコーヒーを飲みながら、私たちは今日のスケジュールについてのんびりと話し合っていた。一昨日はパクセーの滝に時間を割き過ぎ、昨日は「4000の島」に長居し過ぎた。「マスト・ゴー」と言われるワットプーに今日こそは行かねばならない。そのために高いお金を払ってレンタカーをもう1日、余分に借りたのだ。
だが、まずはメコン川を渡って丘を登り、パクセー市街を一望できるワット・プーラサオに向かった。ここには黄金の巨大仏像が鎮座し、まるで守護者のように街を見下ろしていた。同じ仏教徒として、どうも東南アジアの仏像には有り難みを感じない。光り輝き過ぎるその色も去る事ながら、表情が笑い過ぎる。もっと無表情でいてほしい。
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それでも、ここからの眺めは抜群だった。タイと接するラオスにとって、多くの県ではメコン川が国境だが、パクセーではメコン川の両岸がラオスである。私にとって、対岸からラオスを見たのはこれが初めてだ。
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2人でメコン川とパクセーの眺望を存分に堪能し、私たちはいよいよワットプーへ向かう事にした。
途中、3か所の料金所で通行料を支払ったが、カネを取るだけの事はあって道路は日本のように良かった。イリヤによれば「これまで走った外国の道路の中で1番」らしい。
パクセーから車を走らせる事、40分、私たちはとうとうワットプーに到着した。入場券売り場がある建物に入ると、オレンジ色の袈裟を纏った老年の僧侶がいた。私たちの姿を認めると、僧侶の方から私たちに挨拶してくれた。
「ナマステ」
ハローでもサバイディー(ラオス語のこんにちは)でもなく、ナマステ。意味が分からないが、ひとまずサバイディーと返しておいた。よく見ると全身にタトゥーが入り、木造の建物内でパイプを吹かしている。いずれ名のある僧侶に違いない。
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代金を払い園内に入る。山麓の参道を奥へと進み、寺院遺跡を過ぎると道は斜面に変わり、最奥はちょっとした山の上にある。入り口で貰ったパンフレットによると、手前のクメール寺院は千年ほど前の物だが、奥にある別の遺跡はさらに400年ほど古いらしい。そう言われると確かに材質の色が違うように見える。
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両寺院の間にある平坦な場所には大小2つの銅鑼が設置されていて、ラオス人と思しき訪問者が何やら熱心にお祈りしていた。目を瞑り両手を合わせる様子は日本人の私には馴染み深いものだったが、お祈りとお祈りの間に銅鑼を何度も摩っているのは新鮮だった。ご利益の程は不明だが、私も真似して摩る事にした。
山上からの眺めは格別だ。「マストゴー」というのは間違いない。横目に見た聖池はちょいとばかり汚らしかったが、ここからは緑色に光って美しく見える。来てよかったのはもちろん、昨日や一昨日に慌ただしく訪ねたりしなくてよかった。滝でも寺院でも、イリヤはかなり時間を費やしてそれらを堪能する。そのおかげで私もゆったりと見て回れる。
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日が沈み始め、園内から観光客がほとんどいなくなった。
「この時間が1番好きなんだ」
イリヤが言うが、確かに良い時間だなと私も思う。周りで動く物がなくなり、時間の流れがなくなったように錯覚した。