🐔 torneと地上デジ放送が盛んだった頃：テレビ今昔な物語 ⑵

2024年2月24日 09:22

🐔 torneと地上デジタル放送

（承前）私がnasneやtorneに疎かったのは，ゲーマーでなかったせいかもしれません。

ソニーがtorneを発売したのは地デジの放送が始まったばかりの2010年でした。スマホやタブレットが出始めた頃で，今ほど全盛ではなく，「ポストコンピューター」などと次の時代への模索が始まっていて，今とは少し違った感じで「ネット家電」が注目され始めていました。

当時のプレイステーションは，高性能ゲーム機だけでなく次世代の家電としても注目され，そんな流れの中でtorneはプレイステーション3用の地デジチューナーとして発売されました。

最初のtorneは，今のnasneのような機器ではなく，プレイステーション3用の地デジチューナーでした。高性能ゲーム機をビデオレコーダーにする拡張キットだったのですが，その後2012年にソニー・コンピュータエンタテインメント (SCE)から映像を記録するストレージとセットになってネットワークレコーダーとして販売されるときに「nasne」と名前が代わりました。

さらにソニーの製品開発の方針が変わって，2021年にはSCE版nasneの販売終了，そして2021年にバッファローから機能アップした新型nasneが発売されたのはニュースなどでは知っていたのですが，当事者（nasneユーザー？）ではなかった私は，torneの名前を覚えたままその辺が曖昧なまま今に至っていました。

また，nasneを利用する録画・視聴アプリの名前がtorneになり，iPhone・iPadから視聴するiOS・iPadOS版の名前は「torne mobile」だったこともあって，私の中でいつのまにか「nasne」と「torne」が入れ替わっていたようです。

https://av.watch.impress.co.jp/docs/news/356705.html

https://av.watch.impress.co.jp/docs/review/review/1315723.html

そんな紆余曲折があり，プレーステーションは実は今もゲーム機以外でも使える潜在能力が増しているにも関わらず，テレビのように誰もが普通に持てるという気がしない高性能ゲーム専用機というイメージのままなのは，どこでテレビと違う道を進んでしまったのかと思います。まあ，ゲーム機として進化して，今ではnasneとプレーステーションで，AV機器とゲーム専用機に分かれているわけですが。

https://kakakumag.com/game/?id=20494

📡 nasne はアンテナ端子が1組しかない

そんなnasneを，私は今更テレビチューナーの代わりとして使うことを考え，製品を注文しました。実際に実物が届いたら，まずはアンテナなどを始めとした配線をしなければなりません。テレビでもオーディオでも家電は何かと接続しなければ何も始まりません。

nasneで想定外だったのはアンテナ端子がIN/OUT各1つしかないということでした。一般にテレビ受像機のアンテナ端子は，地デジ用と衛星放送用でアンテナ端子が分かれていて，それぞれ1つずつ計2個あります。

屋外にあるアンテナで受信した電波は，屋内に引き込まれたアンテナケーブルを伝わってテレビ受像機に送られます。地デジ（UHF）と衛星放送（BS/CS）でアンテナは異なり，それぞれのアンテナは各放送局が送信する特定の周波数帯域の電波を受信します。

テレビ受像機のアンテナ端子は2つですから，nasneとどちらのアンテナ端子つなぐか迷ってしまいそうです。そこで分波器が必要になるのですが（「📡 分配器と分波器をお間違えなく」を参照），nasneで受信した放送番組を視聴するのなら，その心配はしなくて大丈夫です。なんとnasneとテレビをアンテナ端子とつないでも，テレビ番組を視聴することはできないからです。

テレビのチューナー代わりに購入したnasneだったので，最初はわが家のテレビのチューナー部が故障していて映らないのかと思っていましたが，もともとnasneはアンテナケーブルを配線しても映らないのでした。その代わりに繋がないといけないのがLANケーブルなのでした。

nasneでアンテナケーブルをつないでもテレビ視聴ができないとしたら、nasneのOUT側のアンテナ端子は何のためにあるかというと，nasneに接続したアンテナ信号を別の機器に分配するためであり，たとえば、別のレコーダーやテレビを野外のアンテナと接続したい場合に，nasneのOUT側のアンテナ端子からアンテナケーブルを引き出せば，その機器もアンテナに接続できます。

したがって，nasneのOUT側のアンテナ端子は、nasneの映像出力ではありません。そうなると，nasneをテレビ受像機に直接接続することができません。

🍆 nasneはHDMI端子がないのでチューナーにならない

nasneでテレビ視聴をするには，アンテナケーブルでテレビと接続するのでなく，ネットワーク経由でnasneに接続します。

この辺りから，わが家のテレビが映らなくなったためにTVチューナー代わりにnasneを購入した私の選択が間違っていたことがわかってきます。つまり，nasneはTVチューナーの代わりにはならなかったのです。

それではどうするか。その前に今の時代のTVチューナーの仕組みはというと，BS 4KチューナーやBlu-rayドライブなどの映像機器とテレビを接続する方法には，HDMIケーブルで接続する方法があります。昔はテレビとチューナーは一体なものでしたが，さまざまな映像機器をテレビに映し出すようになって，映像機器とテレビ受像機を接続する現在一番合理的な方法が，私はHDMIケーブルで接続することだと思っています。テレビ受像機の汎用性は，画質が良いということの次はHDMI端子の数ではないかと思っています。

HDMIケーブルで送信されるのは放送信号から変換された映像・音声です。電波をテレビ番組などを電気信号に変換したものなので，再びテレビ受像機で映像と音声に戻され，画面に映し出されます。HDMIケーブルは，この映像・音声に変換された信号です。つまり、映像信号です。

一方，アンテナケーブルで送信されるのは，アンテナが受信した放送信号で，それらがチューナーなどで映像・音声に変換された後，映像・音声の信号として送られるのがHDMIケーブルになります。

nasneには放送信号を映像・音声に変換することができますが，なんとHDMIケーブルをつなぐ端子がありません。ということは，今風のTVチューナーとしては利用できない，ということになります。

HDMIケーブルをつなぐ端子がなく，アンテナケーブルで配線するnasneは，今風な4Kやデジタル・テレビチューナーというよりも，テレビそのものとして使うべきなのかもしれません。そうなると，nasneを地デジやBS/CS放送を受信するテレビチューナーとして利用するには，テレビとは別の映像機器が必要です。

ソニーが当初想定したのが，PlayStation®3からのPlayStation®4，5といった高性能ゲーム機でしたが，今ではAndroid TV機能が搭載されたスマートテレビやプロジェクター，パソコンで視聴できます。ただし，出力用のHDMI端子のないnasneは，それらの映像機器と接続すればつながるわけでなく，それぞれのデバイスとネットワーク経由で接続し，専用のアプリをインストールして、nasneと連携することでテレビ視聴ができます。

nasneで受信した放送信号から変換された映像・音声は，4Kよりも画質などが劣っているので，地デジ以降，映像家電の必須アイテムとなったHDMI端子が搭載されなかったのかもしれませんが，最近の映像機器としては少し古い仕様に感じます。

📡 分配器と分波器をお間違えなく

nasneは地デジとBS/CS放送を受信できますが，直接視聴することはできません。ただし，アンテナに接続しているのはnasneだけではありません。ご家庭のテレビのチューナーや他のビデオレコーダーも放送信号を利用しますから，それらの機器にも必要に応じて放送信号を送る必要あります。そのときに利用されるのがOUT側のアンテナ端子です。

ただし，nasneにはアンテナ端子がIN/OUT各1つしかありませんが，テレビ受像機のアンテナ端子は地デジとBS/CS放送用に2つあるので，放送の電波を分ける「分波器」が必要になります。

テレビ受像機のアンテナ端子が，アンテナケーブルでアンテナと一対一で接続するのであれば，アンテナの数だけアンテナ端子が必要になりますが，電波の性質から複数の周波数帯域の信号を重ね合わえて，アンテナで受信した複数の信号を1本のアンテナケーブルでまとめて送ることができます。

ただし，テレビのアンテナ端子は地デジと衛星放送では受信する周波数帯域が異なっているので，1本のアンテナで送られてきた混じり合ったままの信号では，テレビ受像機は周波数帯域を認識できず，番組を視聴することができません。

そこで，1本のアンテナケーブルの中の混じり合った信号を元の地上デジタル放送と衛星放送の周波数帯域の信号に戻すのが「分波器」の役割になります。

まず，屋内のアンテナケーブルの差し込み口とnasneのアンテナ端子のIN側をアンテナケーブルで繋ぎ，その後，nasneのアンテナ端子のOUT側と分波器のIN側をつなぎます。分波器のOUT側は2本に分かれているので，地デジとBS/CS放送を間違えないように，テレビのアンテナ端子のIN側をつなぎます。

分波器とは，その名の通り電波を分ける装置です。アンテナが受信して1本のアンテナケーブルにまとめられた複数の周波数帯域の信号を，地デジ，衛星放送などそれぞれの周波数帯域に分割して元の個別の信号にしてテレビ受像機に送ります。アンテナケーブルの差し込み口が1つだけでも，その先に分波器を接続することにより，テレビ受像機にある複数のアンテナ端子にアンテナケーブルを接続することができます。

その結果，電波が1本のアンテナケーブルで送られて来ても，分波器で周波数帯域別に分けることができるので，地上デジタル放送と衛星放送の両方を視聴することが可能になります。分波器は「電波を種類別に分ける」装置です。分波器を接続することにより地上デジタル放送の電波とBS/CSの衛星放送の電波をテレビ受像機で正しく受信して視聴することができます。

分波器と似ている装置に分配器があります。分波器と分配器は，形状がよく似ていますが，役割が違う機器です。分波器は，地デジとBS/CSの衛星放送の電波を分ける機器で，室内のアンテナ端子が1つしかない場合に使います。分配器は，1つのアンテナから複数のテレビやレコーダーに電波を分ける装置です。分配する機器の数に応じて電波が弱くなることがあります。

分波器と分配器の見分けるには，出力端子の数や製品名のラベルなどで判断します。分波器は，地デジ用とCS/BSの衛星放送用に2本の出力端子ケーブルがあり、それぞれに「地デジ」「BS/CS」という目印があります。一方，分配器は出力端子の数に応じて「2分配器」「3分配器」「4分配器」というような製品名になっています。

🐔 nasneにtorne mobileでスマートテレビ

nasneにアンテナケーブルが正しく接続されていれば，テレビ視聴が可能になります。受信した放送信号が映像・音声に変換され，テレビ番組としてnasneに保存されます。

問題は，アンテナケーブルやHDMIケーブルで接続できないnasneから，どうやってテレビ番組を視聴するかということになります。nasneはテレビ受像機と直接は接続できないので，テレビに代わる視聴用のデバイスを利用します。

そのためにnasneにはLAN端子があってネットワークに接続できます。実はnasneはテレビチューナーというよりもテレビ番組が保存されるサーバー機です。視聴用デバイスはクライアント機であり，ネットワーク経由でnasneに接続し，これらのデバイスにnasneに保存されたテレビ番組ストリーミングで取り込んで再生することになります。

視聴用デバイスとして，手元にあるものですぐに考えられるのは，パソコンやiPad，iPhoneなどです。nasneとはそういうデバイスでテレビ番組を視聴するための機器だったのでした。これらのデバイスは視聴専用機ではないので，nasne用のアプリをインストールして利用します。それがtorne mobileです。

torne mobileはテレビ番組表を表示できるので，観たい番組を録画して保存して視聴することができます。また，放送中のテレビ番組を番組表から選択すれば，リアルタイムで映像・音声に変換して視聴することもできます。

つまり，nasneで受信したテレビ番組は，テレビで観るのではなく，iPhone・iPadで視聴することになります。でも，それではわが家のテレビ受像機は相変わらず真っ暗なまま，虚空を映すだけなのでした。

うーむ。もうひと越えですね。うちのテレビは何とかならないかしら（続く）。

https://av.watch.impress.co.jp/docs/review/minireview/1087972.html