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米国の政府系ファンド

米国トランプ大統領が政府系ファンド(Soverign Wealth Fund:SWF)を設立する大統領令に署名した」と報じられています。ブルームバーグ記事には1年以内に設立するとあります。日本で政府系ファンドの立ち上げに関わった経験で言いますと、かなり急ピッチな設立作業になります。設立が法人登記か稼働開始(「Day1」と言われます)かは分かりませんが、それだけ米国政府、トランプ政権が必要性を感じているということでしょう。

政府系ファンド(SWF)は、原資(外貨準備、年金、民営化利益)と投資目標(利益、政策)によっていくつかのタイプがあります。SWFの調査研究を手掛けているSoverign Wealth Fund Instituteが資産額ベースのランキングを公表しています。このうちトップ5にあるSAFE(サウジアラビア)、アブダビ投資公社(UAE)、クウェート投資公社(UAE)はいずれも産油国で、石油・ガス輸出で稼得した外貨を投資に向けています。

投資目標は、その設立経緯や、国の政府機関の風土によって目標の置き方が異なります。

  • 資産額トップのノルウェー年金基金は国民年金の原資を増やすことが目的で、政策的意図はもっていません。

  • シンガポールには外貨準備を原資とするGovernment of Singapore Investment Corporation(GIC)と、民営化資金を原資とするTemasekの二つがありますが、いずれも利益目標のみで、政策的意図はありません。

  • 資源国系のSWFは、将来の資源枯渇を想定した産業育成の目的ももっています。しかしながら、自国内でビジネスを起こす基盤が大きい訳でもなく、どちらかと言えば海外の有望分野でリターンを上げることが優先され、結局は利益目標が優先されます。

  • 一方、71位の産業革新投資機構(Japan Investment Corporation:JIC)をはじめ、日本の官民ファンドは「政策目標」が課されています。実際には、多くの国が、政策目標を株式で実現するために政策金融機関に出資機能を持たせています。それでもなお、日本ほどのファンドの「規模」と「数」をもち、かつ政策目標を課している(時にそれが利益目標に優先してきた)国は稀と言って良いでしょう。

年金運用者として世界最大規模の年金積立基金管理運用独立行政法人(Government Pension Investment Fund: GPIF)をSWFとみなす(あるいは、SWFとすべき)との議論もありますが、世界的にはそう認識されていません。そもそもSWFの確固たる定義は存在していません。敢えてノルウェー年金基金と区別するならば、ノルウェー年金基金は特定企業の株式を1~5%単位で保有することがある一方、GPIFはそれはしません。スチュワードシップやESG原則に基づく議決権行使に積極的であっても、保有比率は控えめで、「薄く広く」のポートフォリオの組み方になっています。

さて、米国はどのようなSWFを創設するのでしょうか。ブルームバーグ記事には「原資は不明」とあり、他の記事を読んでもこの点は不明です。現地記事には、昨今の「関税収入を原資とする」というトランプ政権関係者の話も出ているようですが、関税上げ下げは外交カードのため、原資としては使い難いという結論になるのではと私は見ています。

米国は大きな政府を嫌う伝統があり、マスク氏率いる政府効率化省(Department of Government Efficiency: DOGE)の存在を考えても、政府が巨額の直接出資をする組織にはならないと私はみています。あるとすれば、この20年で4倍に増加した外貨準備を用いることですが、これが有効なのは対外投資をする時です(外資企業からの米国資産の買戻しを含みます)。どちらかと言えば、民間資金の吸い上げを考え、「少額の政府予算+外貨準備+社債発行+民間出資」のパッケージを土台とし、民間ファンドをGPとする共同投資が多くなるかも知れません。

一方、目標については、TikTokが槍玉に挙がっているところをみますと、金融大国として相対利益目標(インフレ率よりも高い利益を出す)の看板は下ろさないでしょうが、多分に政策目標が入って来るでしょう。ただ、その政策目標は、実務レベルに意識が向いた日本の官民ファンドのそれとは異なり、「アメリカを再び偉大にする」ためのピンポイントかつ大規模な投資となり、対米外国投資委員会(Committee on Foreign Investment in the US: CFIUS)と連動するものかも知れません。

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