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第3回東大本番レベル模試 化学所感

総評:易
基本的な知識や計算力を問う問題がほとんどです。後半では少し面倒な計算や聞きなれない単語が出現しますが、問題文をしっかり読み、誘導に従って解き進めれば詰まる箇所は少ないのではないでしょうか。唯一ネックになるとすれば(いつものことですが)もう1科目との時間配分です。
ここからは筆者個人の感想ですが、今回の化学はいつもより洗練された、楽しそうな問題だと感じました。一部模試のために無理やり入れられたのだろうと推測されるような設問もあるにはありますが、多くの問題にバックグラウンドというか、出題の意図があるように思われます。
高3東進生の方は、「東大無機化学トレーニング」を活用して、化学現象の本質の理解に努めましょう。

第1問
Ⅰ、Ⅱともに、聞いたことがないという受験者も多いであろう反応名や物質名が登場しますが、いずれも解くうえでは影響せず、基本的な知識や計算力がついているかが得点を分けるでしょう。
Ⅰ 難易度:易
アルドール反応及び縮合に関する問題です。本文ではごく簡易的に説明されていますが、アルドール反応は、カルボニル化合物のα水素がプロトンとなって引き抜かれることを起点に進行します。そのため、強塩基である水酸化ナトリウムの存在下では反応が起こりやすくなるというわけです。

ア:ホルミル基-CHOとヒドロキシ基-OHをC4H8O2から引くと、C3H6となるので、化合物はプロパンの2置換体であることが分かります。あとは-CHOが末端炭素につくパターン、真ん中の炭素につくパターンそれぞれについて-OHのつく位置で分類し、不斉炭素を探せば解決です。

イ:α水素が脱離する方のカルボニル化合物(図1-1でいうと右)をX、そうでない方をYとでもおけば、A,Bそれぞれにアセトアルデヒド、プロピオンアルデヒドのいずれかが入るわけですから、4通りの生成物(A~D)が考えられます。AはX=Y=アセトアルデヒド、CとDは炭素数が同じ構造異性体という情報から、”交差”による生成物、すなわちX≠Yの場合に限られるので、Eが確定します(X=Y=プロピオンアルデヒド)。あとはヨードホルム反応を示すCH3-C(OH)-構造を持つ方がどちらかというだけの問題です。

ウ:sp2炭素は全ての結合(原子間を結んだ線分を延長した直線)が同一平面(以下結合平面)内にあります。一方sp3炭素の結合はどの3本も同一平面内にありませんが、ある1つの結合を含む任意の平面内に他の1つの結合が存在するような構造をとることができます。

エ:アルデヒドの場合とまったく同様に考えることができます。

オ:可能な交差アルドール反応の組み合わせのうち、五員環または六員環が形成できるのは、最左のα炭素と右のカルボニル炭素が結合した場合に限られます。

Ⅱ 難易度:易
糖の還元性や多糖類に関する問題でした。糖の鎖状構造については、よく出題されるのでなんとなくでも頭に入れておきましょう。

カ:cについては、ケト・エノール互変異性に思い至ることができれば容易でしょう。dはこの時期なら常識にしておかないといけません。

キ:本文より、グルコースが還元性を示すのは、1位のヒドロキシ基がフリーである場合です。したがって1,1グリコシド結合していれば還元性をもちません。構造式を書く際は立体構造にも注意しましょう。

ク:βグルコースの構造さえ把握していれば、βガラクトースの構造は導入文より決定できます。βグルコースはセルロースの構成糖として問われることがありますから、覚えておきましょう。

ケ:二糖類及び単糖は解答解説に与えられている通りです。ポイントはフルクトースが1,2-グリコシド結合した二糖が還元性を示さないこと、およびケストースは三糖なので1molは単糖3molに相当することです。

コ:イヌリンは、腎臓で一度濾過されると再吸収されないため、しばしば生物の分野において、腎機能の検査(あるいはこれを模した問題)に用いられます。この問題では、浸透圧の式πV=nRTを使ってイヌリン1分子の分子量を求めることが最初のステップとなります。高分子化合物に共通する注意点ですが、両端を無視しない場合、分子量が単純な繰り返しと比較して、脱離する分子の分だけ多いことに注意しましょう。ポリエステルやでんぷんなどの重合度が非常に高い化合物を考える場合、両端は無視することが多いのですが、本問のイヌリン程度の大きさであれば、末端を無視できなくなります。

第2問
前半はシンプルな浸透圧に関する計算問題です。今回は浸透圧の出番が多いですね。後半はいかにも自然界にありそうな光のエネルギーを媒介する分子に関する出題です。実際B→Cの速度が十分遅ければ、Aは光触媒の一種と考えられます。

Ⅰ 難易度:やや易
単なる計算です。浸透圧の式πV=nRTまたはπ=CRTを失念していたという方は、これを機に頭に叩き込んでしまいましょう。また、計算過程でミスをしないように、できるだけ文字でおいたまま計算し、最後に数値を代入するとともに、有効数字にも気をつけて下さい。

ア:省略

イ:増えた分の体積は(1/2)hSです。

ウ:アとイを浸透圧の式に代入して、数値計算です。

エ:少々計算が面倒ですが、練習と思って頑張りましょう。

Ⅱ 難易度:易
題材は非常に面白そうなものですが、問題自体はやはり単純計算です。

オ:濃度が変化しないということは、なくなる分だけ補充されているということです。(szr)

カ:定常状態では、つねにオで与えた分が生成され、そのうちk_1[B]だけがCに変化するのですから…。

キ:なくなる分にk_3[D][B]が追加されるだけです。

ク:省略

ケ:解答はクに代入するだけですが、このように実験値からグラフを作成して未知の値を間接的に求める方法は、実際の測定においてしばしば用いられます。

第3問
多くの受験者にはあまりなじみがないであろう用語が連続で登場します。初見では面倒そうと思うかもしれませんが、こういうタイプの問題は、難易度自体はそこまで高くないことが多いように感じます。他の受験者に差をつけるチャンスですので、よほど化学が苦手というのでない限りはチャレンジしてみましょう。

Ⅰ 難易度:標準
結晶構造に関する問題はほぼ毎年のように出題されています。充填率やスキマの大きさなど、よく聞かれる数値の計算は、適切な断面図を書くなどして、素早くできるようにしておきましょう。

ア:基本問題です。覚えていなかったとしても、数え上げればよいでしょう。

イ:面心立方格子などと同様に、格子定数を原子の半径であらわし、体積比を計算しましょう。

ウ:同じ数の原子の占める体積は、(当たり前ですが)充填率の逆数に比例します。この問題では解答例のように計算する方が早いでしょう。

エ:氷に圧力を加えると溶けることはご存じの方も多いでしょう。これは、氷より水の方が物質量あたりの体積が小さいため、圧力が高いほど水になりやすく、相平衡の温度が低くなるためです。同様に、α-Feよりγ-Feの方が物質量あたりの体積が小さいので、高圧下では相平衡温度は低くなります。

オ:化学というよりは数学の問題です。結晶格子にまつわる計算で、断面図を書いて考える手法は定石ですのでおさえておきましょう。

カ:ο-サイトがいくつあるか、そしてそれぞれについて単位格子内にはサイトがどれくらい入っているかを慎重に数え上げましょう。特に真ん中は数え落とさないように。本問のように、水素を吸蔵する金属は、ニッケル水素電池の負極などに広く利用されています。

Ⅱ 難易度:やや易
EDTAは最も有名なキレート配位子といっても過言ではないでしょう。金属イオン錯体は配位子によって色が変化することが多いので、金属イオンの定量にはよく本問のようなキレート滴定が用いられます。

キ:記入例2のあまっている4つの配座のうち、向かい合っているもの以外で2組つくればよいことになります。

ク:dは単に平衡定数から存在比を求めるだけです。eは少々複雑ですが、こういった計算にはなれておきましょう。しばしば対数をとった形で出題されることもあります。

ケ:クより、キレート錯体の生成平衡は生成側に大きく偏っており、ほぼ完全に右に進行しているとみなせます。したがって、滴下した溶液の量は、EDTA^(4-)の物質量、あるいはキレート錯体の生成量にそのまま読み替えることができます。

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