#16 『JAN JAN Jungle』
JAN JAN Jungle
夜明け前の空気は湿っていて、密林の匂いが鼻を刺した。ナビはミカの肩の上で小さく羽ばたき、彼女を急かすように短い鳴き声を上げる。その仕草に勇気づけられるように、ミカは一歩、また一歩とジャングルの奥へと進んでいった。父の話を信じて、こんな危険な場所に飛び込むなんて、周りからは無謀だと言われたけど、彼女の心は止められなかった。
「ナビ、道は合ってる?」
ナビが元気よく翼を広げると、前方の木々を指し示す。彼女は小さな相棒を信じ、さらに深く進むことを決めた。そこには伝説の遺跡があり、ジャングル全体が音と光で満たされるという「魔法の現象」が待っている—そう信じて。
途中、蔦が絡みつく岩陰で、ミカはふと足を止めた。不穏な視線を感じたからだ。振り向くと、ひとりの青年が木陰から現れた。腰にナイフを下げたその姿は険しく、彼女をじっと見つめていた。
「ここで何をしてるんだ。」
彼の低い声に、ミカは一瞬たじろいだが、すぐに毅然とした態度で答えた。
「伝説を確かめに来たの。あなたこそ誰?」
青年は短く息を吐き、「カイだ」と名乗った。その目は険しさを帯びながらも、彼女の真剣さに僅かに揺れていた。ミカが力強く前を見据えるその様子は、単なる無鉄砲さではなく、迷いのない決意がにじみ出ていた。彼女の手には蔦で擦れた小さな傷がいくつも走り、その傷が語るように、彼女はすでに覚悟を背負ってここにいるのだと、カイにも伝わったのだろう。そして、彼は無言のうちに道案内を申し出た。危険なジャングルで彼女をひとり放っておけないと思ったのか、それともその背中に見た何かに引き寄せられたのか、自分でもわからなかった。
二人で進む道は険しかった。巨大な木の根を越え、ぬかるんだ地面に足を取られながら、ついに遺跡の入り口にたどり着いた。その場所はジャングルの緑に覆われ、まるで自然と一体化しているかのようだった。
「これが…遺跡?」
ミカは目を輝かせたが、カイはどこか物憂げにそれを見つめていた。
「昔からここにある…でも、触れてはいけないと教えられてきた。」
彼の言葉に、ミカは少し戸惑いを覚えた。それでも、足を止めることはできなかった。遺跡の中央に立つと、ジャングル全体がざわめき始めた。低い音がどこからともなく響き、「JAN JAN」とリズムを刻み出す。それは遺跡そのものが楽器になったかのようだった。
「これは…。」
カイもまた、その音に引き寄せられるように足を進めた。そして、音がピークに達した瞬間、石柱が発光し、ジャングル全体が鮮やかな光に包まれた。ナビは翼を広げ、光の中を舞う。
ミカは胸の奥に温かい何かが流れ込むのを感じた。それは幼い頃に感じた冒険への憧れ、父との思い出、そして自分が進むべき道への確信だった。
「これが…魔法の現象。」
彼女は涙を浮かべながら呟いた。
光が静かに消え、再び静寂が訪れた。カイは隣で微笑みながら、「君は強いな」とぽつりと呟いた。
「そんなことないよ。怖かった。でも、ここに来てよかった。」
彼女の言葉に、カイは深く頷いた。そして、二人は遺跡を後にし、朝焼けの中を歩き始めた。ジャングルが彼らの背中を見送るように静かに揺れていた。
冒険は終わったが、ミカの心には新たな決意が宿っていた。「この体験を伝えることで、誰かの勇気になれたら…」と。
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