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#19 『The Search For Meaning』

The Search For Meaning


駅の改札を抜けると、冷たい風が頬をかすめた。リオはコートの襟を立てながら、歩くペースを速める。大学へ向かうつもりだったが、足は自然と別の方向へ向いていた。授業に出ても心が落ち着かないと分かっていた。何をしても空虚感が消えないのだ。

ふと目に入ったのは、駅近くの古びたレンガの壁だった。その壁には、鮮やかな色彩で描かれた巨大な壁画があった。群衆がスマートフォンを見つめながら歩く姿が描かれている。そしてその片隅には、黒いスプレーで書かれた一文があった。

“What are you searching for?”(何を探している?)

その言葉が、リオの胸に刺さった。彼自身、答えを見つけられずにいる問いだった。思わずスマートフォンを取り出し、壁画の写真を撮った。

その夜、リオは自分のSNSにその写真を投稿した。「この問いに答えられる人はいるだろうか」と短いコメントを添えて。投稿はすぐに広まり、たくさんの「いいね」とコメントが寄せられた。その中には、「この壁画はミナというアーティストの作品らしい」という情報も含まれていた。


翌日、リオはミナという名前を頼りに調べ始めた。そして、彼女が定期的に街中でワークショップを開いていることを知る。興味を抑えきれず、開催場所へ向かうと、そこは隠れ家のような地下スペースだった。

入り口に立つと、中から音楽と笑い声が聞こえてくる。恐る恐るドアを開けると、色とりどりのキャンバスや工具が散らばり、人々がそれぞれの作品に没頭していた。中央には、リオがSNSで見た写真そのままの女性がいた。ミナだ。

リオが立ち尽くしていると、ミナが気づいて声をかけてきた。

「いらっしゃい。君も何か作りに来たの?」

その問いに、リオは戸惑いながら答えた。

「いや…ただ、あなたの作品に興味があって。」

ミナは少し笑い、彼を作業台に誘った。

「じゃあ、興味があるなら、まずは手を動かしてみようか。」

リオは半信半疑ながら、渡された紙と鉛筆を手に取り、思いつくままに線を引いた。最初はぎこちなかったが、次第に気持ちが解放されていくのを感じた。

作業を終えた後、ミナはリオの描いたものをじっと見つめた。

「君、写真を撮るのが好きなんじゃない?」

リオは驚いた表情を浮かべた。確かに写真を撮るのは好きだが、それを特別な才能だと思ったことはなかった。

「どうして分かるんですか?」

「線の引き方とか、構図の取り方に、写真を撮る人特有の感覚があるからね。」

ミナの言葉に、リオは少しだけ自信が湧いてきた。


それからリオは、ミナのワークショップに通い続けた。写真を撮り、それを元にした作品を作るうちに、自分が本当に何を求めているのかを探し始めた。

しかし、ある日ミナから衝撃的な話を聞かされる。彼女たちが活動しているスペースが、再開発のために取り壊されるというのだ。期限はあと1カ月。

「でもね、諦めるつもりはないよ。」

ミナはそう言って、いつものように笑った。

「最後にここで、私たちの想いを形にしようと思ってる。君も協力してくれる?」

リオは迷わなかった。「もちろん。」と即答した。


リオとミナ、そして他の参加者たちは、再開発予定地の壁に巨大なインスタレーションを計画した。それは、写真とペイントを組み合わせた作品で、「この街に本当に必要なもの」を問いかける内容だった。

作業は夜通し続けられ、完成した作品は圧巻だった。SNSでも大きな話題となり、多くの人々が現地を訪れた。再開発は予定通り進むことになったが、プロジェクトに対する市民の意識を大きく変えるきっかけとなった。


数週間後、リオは写真展に自分の作品を初めて出展した。そこに展示された写真は、ミナと共に作り上げた壁画の一部を切り取ったものだった。

会場に訪れたミナが、その写真をじっと見つめて言った。

「素敵だね。君が探してたもの、見つかったみたい。」

リオは少し照れくさそうに笑いながら答えた。

「まだ完全には分からないけど…少なくとも、探し続ける意味が分かった気がする。」

その日、リオは新たな写真のアイデアを胸に抱きながら、次の目的地へと足を踏み出した。

“The Search For Meaning”—それは、終わりなき旅路の中にある。

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