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#15 『Once More』

Once More

秋の風が紅葉の葉を運び、丘の上の時計塔を静かに包んでいた。この街に戻るのは何年ぶりだろう。アオイはその場に立ち尽くしながら、過去の記憶を思い返していた。

子どもの頃、ユウマと一緒にこの丘で未来を語り合ったことがあった。音楽で成功する夢を、二人で追いかけると誓ったあの日。しかし、それは遠い昔の話だ。挫折と孤独を味わい、今の自分には挑戦する勇気など残っていない。

アオイがため息をついて振り返ると、ひとりの男性がカメラを構えていた。どこか懐かしい顔だった。

振り返った先に立つ男性。夕陽の逆光に浮かぶシルエットが、記憶の中のユウマと重なる。彼は一瞬、驚いたように目を見開き、ゆっくりとカメラを下ろした。

「アオイ…?」

声が届くと同時に、胸の奥で小さな震えが走る。互いに名前を口にしながら、言葉にならない感情が二人の間を流れた。


丘の上の時計塔の管理人である老人が、ふいに現れた。背中を丸めながら、手元の古びた道具箱をいじっている。

「時計が止まってしまったんだ。少し手を貸してくれないかね?」

老人の声に、アオイとユウマは顔を見合わせた。かすかな困惑と共に、二人は時計塔の中へと導かれる。

内部は埃に覆われた静寂の世界だった。古びた歯車や錆びた針が散らばり、時が止まったままの風景が広がる。

「これ、どう動かすんだろうな。」ユウマが指先で歯車を回しながら呟く。その声に、アオイも少しずつ昔の記憶を呼び覚まされた。

「子どもの頃、こんな風に一緒に何か作ったことがあったよね。」アオイの言葉に、ユウマは短く笑った。

「そうだな。手先の器用さでは君に敵わなかった。」

作業を進める中で、止まっていた時間が少しずつ動き出すかのようだった。歯車が噛み合う音が響き、二人の会話も自然と弾んでいく。


最後の針を取り付けると、塔の中に光が差し込んだ。黄金色の夕陽が、静かに二人を包む。

ユウマはカメラを取り出し、アオイに向けた。カメラのレンズ越しに見える彼女の顔は、どこか懐かしく、そして新しい。

「撮ってもいいか?」

頷いたアオイの目には、微かな光が宿っていた。シャッター音が響く中、ユウマは静かにカメラを下ろした。

「もう一度…一緒に何かを作り上げたい。」

その言葉に、アオイの瞳から涙がこぼれる。

「私にも、もう一度やれるかな。」

「やれるさ。君にはその力がある。」

二人はその場で手を握り合い、再び挑戦することを決意した。


数カ月後、地元の小さなホールで二人が共演するコンサートが開かれた。アオイの奏でるメロディに、ユウマの撮影した映像が重なり合う。

音楽と映像が交錯する瞬間、時計塔の鐘が時を告げる音が静かに響いた。会場全体が一体となり、新たな時を刻み始めていた。

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