#12 『Mystic Echoes』
Mystic Echoes
霧深い森の中、リオは古びた遺跡の入口に立っていた。手には父が遺した手記を握りしめている。ここに「失われた旋律」が眠っている――父が生涯を捧げ、たどり着けなかったその場所に、ついに自分が立っているという実感が湧かない。
「立ち止まっている暇はないぞ。」
隣に立つアレンが軽い口調で促す。リオは一つ息を吐き、深い霧を切り裂くように一歩を踏み出した。
中へ進むと、空気が一変した。冷たい石壁に囲まれた空間が広がり、どこからともなく響く微かな音が耳に届く。それは音というより、むしろ心の奥底に直接響くような感覚だった。リオの胸の奥で、何かが揺れる。
「これが響き……?」
リオがつぶやくと、アレンが小さく笑った。「気をつけろよ。遺跡は過去を映し出す。それに飲まれるな。」
その言葉が終わるよりも早く、目の前の空間が揺らぎ、父の姿が浮かび上がった。
「リオ、お前が見つけるんだ。この旋律は未来を繋ぐ鍵だ。」
優しい声とともに、幻影は霧散する。残されたのは父の言葉と、自分の胸に重くのしかかる期待だけだった。
遺跡の奥深く、青く輝く水晶の間にたどり着いたとき、リオは言葉を失った。空間全体が響きの中心にあるような感覚。父が追い求めた「旋律」が今にも形を成しそうだった。
リオは震える手を伸ばし、水晶に触れようとした。だが、ふと手を止める。
「父がこれを見つけたかった理由は何だろう……?ただ、過去を証明するためだけじゃないはず。」
自問する声が、遺跡の静けさに吸い込まれる。
アレンがそっと言う。「選ぶのはお前だ。この響きを外に伝えるか、それともここに眠らせるか。」
リオは再び水晶を見つめた。そこには、自分自身の決断が映し出されているようだった。短い沈黙の後、静かに手を伸ばし、軽く触れる。水晶から放たれる眩い光が遺跡全体を包み込み、響きが空間に溶けるように消えていった。
「響きはここに留める。それが、父の意思を繋ぐ道だ。」
リオの声は静かだが、力強かった。アレンは満足そうにうなずくと、軽く肩を叩いた。「いい選択だ。」
遺跡を後にしたリオが見上げる空は、霧が晴れ、柔らかな青い光に満ちていた。それは、未来に響きを託した彼女を祝福するかのようだった。
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