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#20 『時のカケラ』

時のカケラ


小さな港町。古びた時計台の鐘の音が鳴り響かなくなって何年が経っただろうか。この町で生まれ育った18歳の咲希は、祖父が残した古い家の整理をしながら、自分の進むべき道に迷いを抱えていた。

ある日、祖父の作業部屋で埃をかぶった懐中時計を見つける。その時計は止まったままで、裏蓋には「時を取り戻す鍵は心に刻む記憶にあり」と刻まれていた。咲希はその言葉の意味を探るべく、町のあちこちを訪れることにした。

そんな中、都会から引っ越してきた青年・湊と出会う。湊は町に馴染めず、どこかよそよそしい態度を取っていたが、咲希の懐中時計に興味を持ち、彼女の探求に協力することになる。


咲希と湊は、時計台を訪れることにした。夜明け前の町は静まり返り、遠くから波の音だけが響いていた。時計台の内部は埃まみれで、長い年月の間に放置されていたことが一目でわかる。二人は懐中時計を手にしながら、止まった時計の針を再び動かす方法を探し始めた。

「これ、本当に動くのかな。」 湊が天井を見上げながら呟いた。

「動かしてみせるよ。だって、これはおじいちゃんが大切にしてたものだもの。」 咲希の声には強い決意があった。

二人は祖父の古いノートに書かれた手がかりを頼りに、時計台の機械を修理していく。ノートには、この時計が町の人々の心をつなぐ象徴であったこと、そして何かの出来事をきっかけに動かなくなったことが記されていた。

「でも、どうして止まったんだろう。」 咲希が独り言のように呟くと、湊が少し間を置いて答えた。

「誰かが、止めたかったんじゃないかな。進むのが怖くてさ。」

その言葉に咲希ははっとした。湊の瞳の奥に、自分と同じような迷いが映っている気がした。


夜が明ける頃、二人はついに機械の修理を終えた。湊が最後のネジを締め、咲希が懐中時計を時計台の中央にある装置に取り付ける。すると、静寂を破るように「カチリ」という音が響き、長い間止まっていた時計台の針が動き出した。

そして、大きな鐘が「ゴーン」と鳴り響いた。

その音は町全体に広がり、まるで時が再び流れ始めたかのようだった。咲希と湊は顔を見合わせ、笑顔を浮かべた。

「これで、少しは前に進めたかな。」 湊が照れくさそうに言うと、咲希はうなずいた。

「うん。おじいちゃんも喜んでると思う。」

朝日が石畳を照らし、町が新しい一日を迎える。咲希は懐中時計を見つめながら、自分の中に芽生えた確かな想いを感じていた。

「時のカケラが集まって、きっと未来が見えるはず。」

咲希と湊は、鐘の音に包まれながら、ゆっくりと時計台を後にした。

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