#2 『Waving Dance』
『Waving Dance』
その森には奇妙な噂があった。満月の夜、風が音楽を奏で、踊る影が現れるというのだ。誰もその噂の真偽を確かめた者はいない。なぜなら、確かめようとした者たちは二度と戻ってこなかったからだ。
リナはその噂に興味を持った。退屈な日常を抜け出し、何か特別なものを探し求めていた彼女にとって、森の影の伝説は魅力的に思えた。
満月の夜、彼女はひとり森へ足を踏み入れた。風が囁くように彼女を導き、葉のざわめきが奇妙なリズムを生み出していた。やがて彼女の前に広がったのは、月明かりに照らされた開けた場所。そこには確かにあった。闇が形を成したような影が、静かに揺れながら踊っているのだ。
その踊りには不思議な力があった。目が離せない。リナは立ち尽くし、そして気づけば自分の足が動き出していた。影に合わせて踊るうちに、次第に自分の体が軽くなり、風と一体になっていくような感覚に包まれた。
――気がつくと、影も音もすべて消えていた。ただ森の静けさが戻り、リナの姿も跡形もなく消えた。
それ以来、あの満月の夜の出来事を語れる者はいない。ただ、森の噂はさらに広がり、語り継がれていく。「満月の夜、風の踊る音に耳を傾けるな。それが最後の音楽になるから」と。
『Waving Dance』――それは、風と影の作り出す奇妙で美しい終わりの物語。
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