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"としまピープル Vol.7" 米原晶子さんNPO法人アートネットワーク・ジャパン(ANJ) 理事長 米原晶子さん
2023.07.14
年齢も国籍も関係なく、豊島区に暮らしているすべての人にアートが届くように。
舞台芸術を中心としたアートの世界と、人々を繋げるべく活動するNPO法人アートネットワーク・ジャパン(以下、ANJ)。国際舞台芸術祭や豊島区内各所を会場とする「としまアート夏まつり」など、国内のさまざまなアートプロジェクトを手掛け、アートを通じた国内外の交流や、次世代の才能の発掘にも取り組んでいる。豊島区にルーツを持ち、現在も豊島区を拠点に活動する彼らは、このまちのあらゆる人にアートを届けることを目指し、文化を軸としたまちづくりにも取り組んでいる。今回は理事長の米原晶子さんに、豊島区とANJの歴史や、アートとまちづくりについてお話してもらった。
はじまりは1988年「東京国際演劇祭'88池袋」。アートが根付く豊島区のまち
米原さんは高校から舞台の勉強を始め、大学では映画史や映画理論を習得。卒業してから現在までさまざまなジャンルのアートの仕事に携わってきたというスペシャリストだ。ANJでは、海外の舞台芸術作品の招へい業務や2007年から始まった「としまアート夏まつり」(2011年までは「にしすがもアート夏まつり」の名称で開催)などを手掛け、2017年に三代目理事長に就任した。
「ANJの役割は、アートやアーティストと、それを受け取る人たちをつなぐこと。『としまアートまつり』のようなイベントや場を創り、アートを必要な方々へ届けたり、アートを通じた国際交流、舞台芸術を中心にアーティストと一緒に作品をつくることもあります」
実は、池袋は舞台芸術のメッカ。「東京芸術劇場」などの公立の大きなものから、私設の小さなものまで、多種多様な劇場が集まっている。そんな背景もあって1988年に開催されたのが、国際的な舞台芸術の祭典『東京国際演劇祭'88池袋』。ANJはもともと、この祭典の実行委員会事務局が母体になっているそうだ。一度は別の場所に拠点を移したANJだが、ある“きっかけ”で豊島区にカムバック。米原さんが当時を振り返る。
「アーティストと一緒に作品を作る稽古場をつくろうという話が持ち上がり、当時社会問題化し始めていた、廃校を活用するというアイデアが出たんです。さっそくいろいろな自治体に問い合わせてみるも、廃校利用の前例がないので、どう答えて良いものかという反応ばかり。そんななか豊島区は、ちょうど活用方法を民間から募集しようとしていたから、提案してほしいと言ってくれました。そこで『NPO法人芸術家と子どもたち』と共同で提案書を提出。無事採用となり、豊島区に舞い戻ることになったんです。もともとルーツのある場所でもあり、なんだか必然性も感じますね。そこからANJの活動の幅がどんどん広がっていったように思います」
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豊島区に深く根を張るほどに、まちに根付いているアートへの寛容さを感じるという米原さん。それはこのまちの歴史が築いてきたものかもしれない。
「NPO法人芸術家と子どもたち」のお写真をいただけますでしょうか?
「劇場の数が多いだけでなく、戦前戦後に『池袋モンパルナス』と呼ばれるアトリエ村があったり、数々の有名漫画家が巣立った『トキワ荘』があったりと、豊島区は芸術家や文化人が多く暮らしてきた歴史があります。だからなのか、土地全体にアートを受け入れる空気、なにか新しいことをやろう、表現しようとする人たちを、ほどよい距離感で見守る雰囲気があるように感じています。まちの大きな魅力ですね」
アートでまちづくり。使命はすべての人に届けること。
2004年から“文化を軸にしたまちづくり”に取り組んできた豊島区。ANJもその一翼を担う存在として、さまざまなアートプロジェクトをまち目線で進めてきた。
7月27日(木)〜8月27日(日)に開催される「としまアート夏まつり」は、0歳から大人まで全員が楽しめるアートのお祭り。演劇や音楽ライブ、短編アニメーションの上映会など、さまざまなイベントが用意されている。内容はもちろんのこと、会場をイベントが集中しがちな池袋だけでなく各エリアに分散させたり、フライヤーから当日の内容まで英語対応したプログラムを実施したりと、より多くの人にアートを届けるための工夫が散りばめられている。
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「年齢や住む場所、国籍に関係なく、すべての住民に文化体験をしてほしいというのが豊島区の想い。『としまアート夏まつり』はもともとにしすがも創造舎でのみ行っていましたが、豊島区の方から区内の別の場所でもやっていきたいと言っていただいて、会場が広がっていきました。子供がいるからと映画館に行くのをためらうお母さんが、お子さんと一緒に楽しめる野外映画や、共働きの両親を持つ子供が学童保育で楽しめるプログラムもありますよ」
まちと関わりながらアートプロジェクトをつくることで、米原さんやアーティストが驚くこともあるそう。
「まちの方との対話を通して、場所の魅力や課題から企画が生まれたり、変わっていくことが新鮮ですね。例えば、豊島区には海外にルーツを持つの住民が増えているんですが、彼らの中には宗教上の理由で、日本の伝統的なお祭りには参加できない方がいるそうなんです。でもアートフェスティバルなら参加ができるからうれしい! とお声をいただいて、私もアーティストも、そんな視点を持ったことがなかったので本当にびっくりしました。アートは政治や宗教、経済とは異なるアプローチだからこそ、いろいろな人を巻き込むことができるんだなと実感しました」
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区民ひろばで上演した、としまアート夏まつり2018「星の王子さま」photo by 西野正将
アーティストが住める場所が残っていくとうれしい
どんどん変化する豊島区に、わくわくしているという米原さん。これからのまちに、どんなことを期待しているのだろうか。
「20年前に私達が来た時に比べて、さまざま人たちがいろんなことを仕掛けていて、すごくおもしろくなってきたと思います。私たちNPOがアートプロジェクトをやるからには、自治体や公共施設だけでなく、民間の場所や力を借りて多様な人々に届けることに意味がある。今後もまちと関わりながら、アートを届けていきたいです。また脈々と続いている、“アーティストが住めるまち”という文化も、できれば続いてほしいです。地価が上がって、経済的に豊島区に住むことが難しい人たちもいるのですが、たとえば空き家を活用したり、人が減ってしまって困っているエリアに誘致したりという取り組みなどがあれば、豊島区を拠点にするアーティストが増えると思います」
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最後に米原さんのお気に入り豊島区スポットを聞いてみると、豊島区を知り尽くした彼女ならではの返答が。
「豊島区は区内をあちこち旅するのが楽しいと思います。推したいのは、交通網が素晴らしいということ。東京で唯一の都電は情緒があってそれだけで旅気分になれますし、山手線もが通る駅もたくさん通っていて、バスも合わせればどこへでも行ける。私たちも業務上、巣鴨、大塚、南長崎、下板橋といろいろなエリアを回っているんですが、どのエリアもカラーがあっておもしろく、短時間で回れるのがすごい。皆さんにもぜひ、豊島区めぐりしてみていただきたいです」
文・写真:としまハウス編集部
※掲載写真の一部は取材先よりご提供いただいております。
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