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キムンカムイに会いにいく

北海道でも緊急事態宣言が解除されたこともあり、取材の旅に出てきました。行き先は気分次第。だいたいの方向だけ決め、付き合いのある宿だけを数泊手配し、それ以外は車中泊という気ままな旅です。ここでこう撮ると決めないので本当に行き当たりばったり。気持ちの揺らぎを大切にしてふらりふらりと動きます。

出発したのは横浜から帰ってきた翌日なので準備もバタバタ。諸々の手配も中途半端で出発してしまいました。でも、まあなんとかなるのが一人旅の良さです。今日はどうしよう、明日はどうしよう、と考え悩む時間も楽しいもの。疲れたら車で寝ればいいし、時間に縛られることもありません。

とはいえ、今回はある目的がありました。それはヒグマに出会うこと。僕は動物写真家ではないので、これまでヒグマと向き合ったことはなかったのですが、どうしても彼らにちゃんと会いたくなったのです。

ヒグマのことをアイヌ語ではキムンカムイといいます。天頂にいるカムイが人間界に降りてくるとき、ヒグマの格好をして姿を現すと考えられてきました。そして人間に殺され、食べられることで、より上位のカムイとなって再び天頂の世界へと帰っていく。アイヌの人々とヒグマとは、長い間そういう関係性の中で共存してきたのですね。

ちょうど先週のこと、札幌市内にヒグマが現れ、結果的に銃で撃たれてしまうという出来事があったばかり。それを報道している東京のテレビ番組をみると、まるでヒグマが悪いことをしているかのような内容に少しの違和感を感じてしまったのは、僕だけではないでしょう。

本来ここ北海道はヒグマの聖地だったはずです。彼らのテリトリーに暮らしているという意識が時代とともに薄れさり、まるで害獣のように扱われることにとても寂しさを感じました。そんなこともあり、彼らの姿を改めて見てみたくなったのかもしれません。

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いまこうして僕が自宅の快適な環境でnoteを更新している、まさにこの瞬間も、彼らはあの森や海岸線を縦横無尽に動き回り、草を食べていることでしょう。そんなことを想像するだけでも、なぜだか心が豊かになる。世界中がコロナに苦しんでいるというのに、彼らにはそんな世界の情勢なんて関係がないのです。もうそれを思うだけで、細かなことなんてどうでもよくなります。自然と向き合うことの大切さを、彼らから学んだような気がするのです。

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中西敏貴
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