母ちゃんのジャム
子供の頃に母はよく春先になっていちごが出回ると近所の農家から買って来ていっぱい大鍋で砂糖とレモンで煮詰めてイチゴジャムを作ってくれました。学校からの帰りに母が家でこのいちごを煮詰めていると換気扇から流れ出た甘い香りが家の周りに漂っていました。それを嗅ぐと居ても立っても居られなくて、ランドセルを背負った小さな身体で全速で家に向かって走るんです。家に入るなり「いちごジャム??」って聞くと優しく「そうよ」と声が聞こえるんです。母はそれを瓶詰めにして人に差し上げたり、我が家で食べたりしました。よくよく考えると当時の母親はまだ30代で今の僕よりもずっと若かったと思うけど、記憶って不思議なもんで今はすっかり年齢を重ねてくしゃくしゃくしゃのお母さんも同じお母さんなんですよね。親の年齢って子供の記憶にはずっと同じなんですかね。。。
母がこのイチゴジャムを作り始めたのにはきっかけがありました。それは僕が5歳の頃に肺炎にかかり、かなり危なかったんです。地元から少し離れた小児科の名医のクリニックに毎日、僕を車の後ろに寝かせて点滴を打ちに通っていました。そして、やっと山が越えて体調も少し回復し始めた時に先生が『明日の午後からジャムを塗ったパンを食べさせてあげて下さい』とおっしゃいました。母はきっと僕に手作りの物を食べさせてあげたかったんでしょうね。母はその日の内にイチゴを煮詰めてジャムを作り、早朝に僕を乗せてまた小児科に行き、その帰りに病院の近くの江戸川の河川敷で二人でそのジャムパンを座って食べました。数日間、絶食だった僕にはイチゴジャムを塗った焼いていない食パンは40年前でも記憶に微かに残っています。パンを食べ終えた後に河原を二人で散歩していると、子犬が箱の中に入って数匹捨てられていました。今では考えられない事だけど、まだ幼い犬達はとても可愛くて抱き上げて、母に連れて帰りたいとお願いしたけれど、すでにその頃は我が家には2頭の犬がいたので、母にはそれは出来ないと言われたのを覚えています。食って不思議ですよね。40年も経った微かな記憶だけど、その美味しかったジャムパンや曇り空の色、子犬達、春先の河川敷といまだに覚えているんです。きっとジャムが無ければ他の記憶に埋もれていたと思います。
実は数日前の休みの日に作ったんですが、いちごジャムとブルーベリージャム。外出から帰って来た妻がガレージからキッチンに入るなり「なんの匂い??」と聞いてきました。しばらくしてから二人で食べながら妻にこの思い出話をしました。何回か話していると思うけど、「初めて聞く」って言ってました。多分、気を使って初めてのフリしてたのかな?母にもラインで写真を見せたら「あの頃はよくジャムを作ったねー」とラインで返事が来ました。
この香りを嗅ぐと何歳になっても小学生の頃のランドセルを揺らしなが走って家に帰る僕や肺炎が治りかけたあの日の僕に戻ります。料理ってさやっぱりその人のルーツなんだと思います。きっと老人になっもこの香りと味は忘れることはできないんだと思う。
イチゴジャムの作り方
材料
イチゴ 500g
グラニュー糖 225g(45%)~300g(60%) お好みで調節して下さい。
レモン 1~2 Table spoon
① イチゴはヘタを包丁で切り取り、ボールなどに入れて丁寧に優しく洗う。そして、ザルで水気を切った後にさらにペーパータオルで丁寧に拭き取る。この時に表面に水が残ったまま煮込むと後ほど、それがカビの原因となってしまうので、できるだけ丁寧に拭きましょう。
②鍋にイチゴとグラニュー糖を入れて、鍋をゆすってイチゴの表面に砂糖を満遍なく付着させましょう。こうすると浸透圧でイチゴ内部から果汁が外に出てきます。そのまま15分ほど時間を置きましょう。上記に45%~60%のグラニュー糖と書きました。ジャムはそもそも冷蔵庫がなかった時代に旬のフルーツを長持ちさせるために用いた料理法なので保存食でもあります。なのでカビを生えさせない為にも大量の砂糖を迷うことなく入れましょう。
③火を付けて加熱を始めます。最初は弱火でスタートしてイチゴから水分を引き出しましょう。その水分で鍋が満たされ始めたら中火にして、フツフツと沸く程度の状態で出てきた水分を煮詰めていきます。灰汁が浮いてくるので丁寧に取り除きます。
④30分から40分ほど煮詰めたら、お玉の裏側に煮汁を付着させて指で線を引いてみましょう。引いた線から垂れなければ完成です。仕上げにレモン汁を垂らしてよく混ぜたら火を消して粗熱を取り、煮沸消毒をした瓶に入れて保存します。ペクチンやゼラチンなどの凝固剤は必要ありません。冷めると固まります。
ジャムはお店でも買えますが、一度フレッシュなイチゴやブルーベリー、ラズベリー等で作ってみて下さい。香りと味が全然違いますし、凝固剤も防腐剤も入っていませんから体に安全で食感も全然違います。