9月1日(日)横浜ボートシアター公演『一人語り「にごりえ」』に演奏で出演します
9月1日日曜日14時より、大森鷲会館・亀の間というところで『一人語り「にごりえ」』という作品で演奏します。
「にごりえ」は言わずと知れた樋口一葉の代表作。これを横浜ボートシアターの俳優・吉岡紗矢さんが一人で語るという趣旨の公演です。僕はその語りに即興で音をつけています。楽器はエレキギターです。
語りは「現代語訳」ではなく、原文をそのまま。一部カットしてますが、それ以外は忠実に原作を語っています。
原文は敷居が高いと思われるかもしれませんが、声に出された言葉を聞いてみたら、そんなことは全くありません。樋口一葉作品は、原文を黙読するよりも、声に出された音を聞いた方が、よりわかりやすいのです。そういうこともあってか、いわゆる「朗読」の方々も樋口一葉作品をよく取り上げておられます。そして、YouTubeなどにアップロードされた朗読のコメント欄などを見ると「わかりやすい!」等といった書き込みがなされています。
横浜ボートシアターの語り口は、そういった朗読家の読み方よりも、より芝居のようなダイナミズム溢れるものと僕は感じています。「にごりえ」のラスト近くのシーンなど、もう凄まじい迫力です。先日稽古に大学生の方が見学にいらっしゃったのですが、あまりの剣幕とプレッシャーにかなりびっくりしているようでした。
また、セリフだけでなく地の文に対する執着もすごいものがあります。特に俳優さんの朗読だと地の文はかなり適当に読んでいるケースがあったりしますが、横浜ボートシアターの地の文に対する厳密さは相当シビアです。
そんなこともあってか、劇団は「朗読」という言い方はあまり好まず、「語り」と称して「語り公演」を長い間行なっています(具体的に何年かはわかりませんが、少なくとも20年以上はやっているはずです)。
横浜ボートシアターの語り作品は、稽古の様子がかなり衝撃的です。それは演出の遠藤啄郎さんの「語り」に対する凄まじいこだわりあってのものと思われます。
例えば、タイトルの「にごりえ」の「え」が気になると言って何度も繰り返したりします。
語り手「にごりえ」
遠藤「違う、『え』だ」
語り手「にごりえ」
遠藤「違う。『え』!」
単純に文字起こししても全く伝わりませんが(笑)、稽古の最中によくあるこんなやり取りを初めて見る人はきっと面食らうことでしょう。
僕も最初のうちは「一文字単位で何が変わるの?」と正直疑問に思っていました。しかし、ずっと隣で付き合っていると、「可愛がり」のごとく執拗に繰り返されるダメ出しにも、ちゃんと意味があることがわかってきます。
その意味とは、あくまで僕の解釈ですが、地の文の一言一句の構造が要求する音、声の組み立てに関連しています。語り手が文章の構造から外れてしまった瞬間を、演出の遠藤啄郎さんは絶対逃しません。そういった前提が飲み込めると、一文字単位の細かいダメ出しが、決して気まぐれなどではなく、遠藤さんの恐ろしく良い耳と鋭い感性から必然的に出るものとわかり、圧倒されます。
そうした遠藤さんの演出により磨かれた「語り」は間違いなく鮮やかに「にごりえ」の世界を聴く人々の脳裏に映し出します。一葉のある種古めかしい擬古文が、こんなにも現代の私たちにとって新鮮に感じられるというのは、なかなか得難い経験です。9月1日ということで日が迫っておりますが、お時間のある方はぜひ大森まで足をお運びください!
……僕が何をやってるかと言うことは全く書く隙がないくらい語りのことをたくさん書いてしまいました。このまま終わっても別に悔いはないですが、せっかく自分で好き勝手に書ける媒体なので、自分のやっていることについても少し書きます。
僕は上記で書いたような緻密な語りに、即興で音をつけております。
語りに対して即興で音をつけるのは、語りに敏感に反応し、常に新鮮で開かれた状態をキープするためです。なぜそんなことが重要かというと、毎回微妙に変わってくる語りに即応した弾き方が要求されるためです。また、そういった高いテンションが表現を一段高いレベルへ持ち上げてくれる、という信念というか、実感もあります。
同じメロディでやる良さももちろんあって、語りではないですが影絵作品などでは固定したメロディで演奏することもあったりします。が、役者さんがより語りに集中できる語り作品では、基本的には即興の方が緊張感があって面白いように思います。
ちなみに、最初にギターを使っていると書きましたが、それは僕にとって一番慣れた楽器であるということ、手元で音程・音量等の微妙なニュアンスをつけやすいということ、そしてエフェクターでも音が積極的に変えられること、という三点が主な理由です(持ち運びする身としては、比較的気軽に持ち運べる、というのもすごく大事!)。
自分の音の説明に関する落とし所が思い浮かばないので無理やりまとめると、とにかく「語り」に対してつけるべき音というものを追求している次第です。いらしていただいた方に「とても面白い作品だった!」と感じていただけるよう精進します。
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