手に職を持つという価値の大切さ【倫理観と古い体質の工場経営】
これからの工場経営には、解決しないといけない課題が山積していて、どのようにすれば工場経営がうまくいくのか、2009年からこれまでの経験から、少し考えたいと思います。
職人により、出来栄えに大きな差が出る縫製加工は、熟練であればより正確に高品質な商品を、より短時間に作ることが出来るため、熟練した職人が多いほど、生産性は高く、ロスも少ないという紳士服の縫製現場の当たり前ですが、その職人の技術と経験に頼りすぎた生産性と品質が、その工場のスタンダードとなり、結果的に加工賃が安くても良いものが出来るという事だけが既成事実となり、それが職人の給料が上がりにくいとう体質を作り上げてきました。
私は、前職でアウトソーシング会社を16年に渡り経営してきましたが、工場経営の実態を深く理解するのに、10年以上かかってしまったことは、工場経営の本質を見抜き、時代に合わせた経営判断をすることがいかに難しいか痛感しています。前段で説明した、熟練した技術と経験が正当な評価を受けないどころか、まったく逆の待遇になってしまっているのが現状です。
私達は、工場の職人が直接お客様にオーダースーツをお届けするという事で、工場の職人とお客様とのコミュニケーションが開け、前段の問題解決にもつながると考え、スーツのOEM工場というビジネスモデルから、比較的早い段階の2009年に、オーダースーツのファクトリーブランド【FIVEONE/ファイブワン】をオープンしました。
今では、スーツOEM工場という枠組みから、オーダースーツブランドを持つ製造小売りのメーカーという業態に変化しつつあり、同時に2014年から新卒を毎年4名から多い年は8名を採用して、若手の職人育成に力を入れてきました。2009年当時60才前後という高齢化が進んでいた頃から、この短期間で平均年齢を45才まで下げることが出来ました。現在正社員50名規模で比較的小規模ではありますが、地域社会の雇用に貢献していることは、会社の誇りでもあります。
熟練した職人が、若手の人材を育成するという事は、前述した問題の解決にも繋がり、硬直化した閉鎖的な工場を、若い人の将来を夢を語ることが出来る職場へと変えることになりました。
工場の倫理観という根本的なことが解決されてこそ、次の成長軌道に進めるのではなかと考えます。昔からよく「手に職を持ちなさい」と言いますが、それだけになって視野が狭くなりすぎると、職人の技術の安売りにつながり、職人の生計が成り立たなくなるという事も頭に入れておかないといけなという事です。私達は、職人の収入アップの方法として、技術力だけに頼らない生産効率にも注意を払う必要があります。何故なら、職人の技術だけでは、労働集約型産業の粋を出ることが出来ないからです。
そのような、倫理観と古い体質の工場経営を変える方法ですが、簡単なのは1つだけ、受注が安定する生産計画になるまで減産するという事。受注と生産のアンバランスが利益を棄損するだけでなく、様々な問題を起こします。私達は、安定した受注が見込める商品開発に力を注ぎ、受注と生産のバランスが安定すればするほど、工場経営は安定するとので、そこに力を入れています。私達の仕事は、世の中の景気を敏感に読み取ります。オーダースーツが売れるときは、株価が上がっているタイミングです。何時の時代も含み益があれば人間の行動心理には余裕が現れ、積極的な購買行動につながるのだと思いますが、専門家では無いので実際は分かりませんが、面白い話です。
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