トルコのハマムに行ってきた
トルコ旅行中、ほぼ毎日訪れたのがハマム(公衆浴場)だ。日本との違いが面白く、現地風俗調査の意味合いも含めて、いろいろなハマムを訪ねた。
ハマムは洗い場や脱衣所がドームのような構造になっているので、外側から見て分かりやすい。建築物としても面白い。うっかりジャーミイ(礼拝所)と間違ってしまうときもある。実際ハマムの中から、ドームの形状、脱衣所の作り、天井の採光窓からの木漏れ日、大理石のタイル模様を眺めるのは楽しい。
入り口には必ず番台がある。なんだか親近感がわく。服を脱いだり貴重品だったりは個室(鍵付き)の部屋で済ませる。防犯はバッチリだ。携帯の充電もできる。個室の数は10~15部屋くらいあるだろうか。逆にいえば、それ以上の人数の入場は受け入れられないことになるから、日本の銭湯に比べると人口密度は少ない。実際いつも空いている印象だった。
(イスタンブールにあるハマムの脱衣所。ここは天井も高く個室も多かった)
ハマム用のタオルは必ずついてくる。吸水性がよく、もっぱら赤や青のストライプのタオルが一般的だろうか。腰に巻く。水着を持ってない場合は、このタオルをしっかりまいてくれと指導される。裸になるのは厳禁だ。しかし、タオルを巻いたまま浴槽に入ったりするわけで、日本の感覚とは大きくズレている。ちなみに入浴後、脱衣所で新しいタオルが支給されるのだが、腰、体、そして頭の3点セットでしっかり巻いて乾かしてくれる。タオルなんて一枚でいい、と思ってしまうが、タオル巻きには並並ならぬこだわりを感じた。
洗い場に入ると、ムワッと蒸気が立ち上ってくる。全体をマキで温めているのだ。スリッパを履いて入るのだが、最初に入ったハマムは床が物凄く熱くなっていて、裸足では歩けないほどだった。サウナ室だけでなく、洗い場全体が温かいのは利用者にはありがたいが、温める面積を考えると、燃料効率や光熱費が気になるところだ。実際、ハマムの料金は一番安いところでも最低30リラ(600円)するし、外食などの物価に比べてやや高い印象がある。庶民はそんなに頻繁には利用できないのかな、とも思った。
さて、日本の銭湯は浴槽が必ずあるが、ハマムにはない所も多い。あっても、お湯は溜め置きでかけ流しではないし、上述したようにタオル着衣のまま入浴したりするから、衛生的に気になるところだ。
(ここは温泉地ブルサにある有名なハマム、イェニ・カプルジャ(Yeni Kaplıca)の大浴場。ここまで大きな浴槽があるのは珍しかった)
逆にサウナは必ずある。気になる温度は、ややぬるめのところから、熱めのところまでハマムによって全然違う。一番残念なのはサウナ利用後の水風呂がないので、体を冷やすのはもっぱらシンクかシャワーになる。シンクから出る水も、水ではなくお湯だったりするから、サウナーとして整うにはイマイチの環境かもしれない。
シンクで冷たい水をため、ずっと体を冷やしていると、洗い手のおじさんが近寄ってきて、水の温度を確かめて一言「こんな冷たい水を浴びていると死ぬぞ」と言われた。日本ではこれが普通なんだ。熱いサウナの後の冷たい水がセットで、整えるんだ、と力説したが、全く理解してもらえなかった。「というか、お前はなぜアカスリとマッサージを受けないんだ? 汚いじゃないか」と言われた。
そう、ハマムは基本アカスリとマッサージをしてもらう場所なのだ。二つのコース利用はオプションで支払うこともできるので、自分はあまり利用しなかったが、ハマム側からしたら、一体何しにきてるんだこいつは?ということなのだろう。実際、サウナで体を温めすぎるとアカスリがしにくいとも聞いた。適度に湿気を含み、適度に発汗し体を温めるくらいがちょうどいいのだろう。
(洗い場のイメージ写真)
準備ができたものは、洗い場の中央にある、低い大理石の台に寝そべるように促される。ここでしこたまアカスリとよく泡立つタオル(これが気持ちいい)で洗ってもらい、その後マッサージを受ける。正直自分はアカスリもマッサージもあまり好みではなく、一度受けた後はやめてしまった。とはいえ、洗い手にもよるのだろうから、トライしてもいいとは思う。アカスリ、マッサージ、共に10リラ(200円)づつくらいが最低料金だろうか。
(写真のような大理石の台が大体ある。周りがシンク。蛇口が可愛い)
こうしてツラツラと書き連ねていると、やや批判的な目線でハマムを見ているな、と気づく。それもそのはず、自分としては日本のサウナの利用を前提で考えているからだ。ハマムは身体を洗う場所なのだ、という認識に切り替えれば、気になる点も少なくなる。
ハマムで楽しいと感じたのは、サウナを利用し、体を少し冷まして、大理石の洗い台の上に寝転んで、採光窓のあるドームの天井を眺めているときだったろうか。洗い台もほんのり暖かく、岩盤浴を楽しんでいるような気分だ。
古く風情のある建築物の中に身を置き、悠久の歴史に想いを馳せる時間。それがハマムの醍醐味だ。