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森保ジャパンカタールW杯対戦国分析
本記事では、カタールワールドカップで日本が対戦する、ドイツ・コスタリカ・スペインのコーナーキック戦術について分析します。
これまで、森保ジャパンのコーナーキック戦術を、守備編と攻撃編に分けて分析しました(上記参照)。その結果、
守備では:
・「2ストーン+マンマーク」が基本方式であること
・ブラジル戦では「3ストーン+マンマーク」だったため、ワールドカップ本番でも異なる方式を採用し得ること
攻撃では:
・複数の基本パターンがあること
・セットプレーコーチの効果が表れ始めていること、ただしデザインプレーはまだまだ少ないこと
が分かりました。
本記事では、それらを踏まえた上で、対戦国の戦術を分析し、攻略法や注意点について考察したいと思います。
ドイツ・スペインはUEFAネーションズリーグのそれぞれ6試合、コスタリカはワールドカップ大陸間プレーオフのニュージランド戦、その後の親善試合(ウズベキスタン戦、ナイジェリア戦)を対象に分析しました。
ドイツ
守備戦術
まずは、初戦で対戦するドイツから。
ドイツの守備はゾーン戦術です。
一例として、イタリア戦(ホーム)46分の配置を示します。
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まず、ニアを切る目的でヴェルナー(ワールドカップは怪我のため選外)がボール近くに立ちます。
ゴール前には、ラウム・ズーレ・リュディガー・クロスターマン・ホフマンが並びます。どのようなボール、どのような相手が来ても跳ね返すことを任務とする、空中戦の猛者たちです。
その前には、キミッヒ・ザネ・ミュラー。彼らの仕事は、空中戦で競り勝つことではなく、相手のエアバトラーに自由を与えないことです。ゾーンの弱点は、助走を付けて走り込んでくる相手に対し、垂直飛びで対抗しなければならないことです。そこで、走り込む相手に体をぶつけたりすることで、少しでも勢いを削ぐこと、それがこの3人の役割です。
最後に、こぼれ球対応として、ギュンドアンがニア寄りに立ちます。
UEFAネーションズリーグの6試合を見る限り、試合によって微修正しているようではありますが、これが基本方式です。
攻略法
では、ゾーンで守るドイツ相手にどのように点を取るか。
UEFAネーションズリーグで、イタリアとハンガリーがお手本のようなゴールを見せてくれたので、ご紹介します。
こちらがイタリアのゴールです。
およそ等間隔に選手を配置するゾーン守備は、その選手間にポジションを取られ、そこへ正確なボールを送り込まれると、フリーで合わせられてしまう、という非常に単純な特徴があります。
一方で、初期配置から一歩も動かないことはなく、相手の動きを見て競り勝とうとします。
イタリアは、これら2つの特徴をうまく利用しました。1人がニアに走ることで、ニアに立つ3番ラウムを動かし、選手間距離を広げ、そこに飛び込んだもう1人が正確なキックに合わせました。ゾーンの弱点を突いた素晴らしいゴールでした。
しかし、このようなゴールを生み出すには、広げた選手間のギャップに、ピンポイントで速いボールを入れる必要があり、優秀なプレースキッカーが必要です。絶対的なキッカーが存在しない森保ジャパンには、難しい戦術かもしれません。
次に、ハンガリーのゴールです。
ドイツ選手がいないニアのエリアへ、ハンガリーのCFサライが走り込み、澤穂希ばりのゴールを決めました。「自分の担当エリアを守る」というのがゾーン守備ですので、「誰も担当していないエリア」を攻められると脆さを見せます。サライの動きを見て、13番ミュラーが危険を察知していますが、マークする準備ができていなかったので、間に合いませんでした。
難易度が高いプレーではないので、日本もこういう戦術を見せてほしいです。ニアで合わせて直接ゴールを決めなくても、ニアで逸らして真ん中・ファーで押し込むことも可能です。
他にも、ゾーンに対する有効な攻撃方法はあります。
例えば、ミスマッチとオーバーロードです。
ドイツのゴール前に並ぶ選手たちについて、「どのようなボール、どのような相手が来ても跳ね返すことを任務とする、空中戦の猛者たち」と紹介しました。しかし、唯一の例外は18番ホフマンでしょう。Wikipediaによれば身長は176cm、動き出しや裏へのフリーランニングが得意な選手であり、ヘディングが武器とは言えません。
こういった選手を狙います。
致命傷になりにくいファーサイドを担当してはいるものの、競り勝てば直接ゴール、もしくは真ん中への折り返しを狙えますので、ここに長身でヘディングに強い吉田・冨安・上田等をぶつけることで、質的優位を作れます(ミスマッチ)。
さらに、競り合いは1対1である必要はありません。ゾーン守備では担当エリアを1人で守るため、攻撃側はあえて同じエリアに複数人を送り込むことで、数的優位を作れます(オーバーロード)。
ゾーン守備の原則を知り、対戦相手を研究し、事前に準備することで、簡単に質的優位・数的優位が作れるのです。森保ジャパンがドイツ相手にどのような戦術を見せてくれるのか、期待したいです。
コスタリカ・イタリア
守備戦術
次に、コスタリカ・スペインの守備戦術は、2ストーン+マンマークです。日本代表と非常に似た方式です。
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スペインの場合:
・ストーン1は、パウ・トーレス、ロドリ、ブスケツ
・ストーン2は、モラタ、フェラン・トーレス、ダニ・オルモ
が務めます。
日本代表のストーン1は、ニア寄りに立ちますが、両国はど真ん中に立ちます。
攻略法
マンマーク守備に対する最も有効な攻略法の一つは、スクリーンプレーです。
これは、スペイン相手にスイスが挙げたゴール(2点目)です。
ニアで合わせた選手(アカンジ)のマーク担当であった2番アスピリクエタがスクリーンされ、フリーにしてしまったことで、失点に直結しました。5番ブスケツが異変に気付き、急いでマークを受け渡そうとしていましたが、自分のマークを捨てて良いかどうか迷ったこともあり、時すでに遅しでした。
また、スペイン戦ではありませんが、10月に遠藤がシュツットガルトで決めたばかりのゴールも、ご紹介します。
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— DAZN Japan (@DAZN_JPN) October 19, 2022
遠藤航がコーナーキックを合わせ追加点‼️
\
エリア内でうまくマークを外した
🏆DFBポカール2回戦
シュツットガルト×ビーレフェルト
📺 #DAZN 見逃し配信 pic.twitter.com/DHEQCEexT9
遠藤は、初めファーに隠れておき、キックのタイミングに合わせて動き出します。その時、遠藤をマークする相手14番を、味方20番がスクリーンし、フリーにしています。他の味方は、ニアやファーに動いたりすることで、遠藤のためのスペースを作っています。
これは明らかにデザインされたプレーです。
遠藤に得点を取らせるために用意された戦術です。
相手選手からすると、「自分はきちんとマークしている」「自分の所にボールは来ていない」等と考えている間に、失点です。唯一「まずい」と感じたであろう選手は、遠藤をマークしていた14番でしょうが、スクリーンされ、手も足も出ませんでした。
マンマーク守備に対しては、マークを外せばフリーになれます。そして、事前に準備し正しく実行すれば、その状況は比較的容易に作り出せるのです。その一つがスクリーンプレーであり、先日の記事でご紹介した中国戦の場面も良い例です。
セットプレーに限ったことではありませんが、今や日本代表の大半の選手が欧州の第一線で活躍し、多様な最先端戦術に日々触れています。そしてこれだけ鮮やかな形で得点しています。是非日本サッカーに還元してほしいですね!
森保ジャパンもコスタリカ・スペイン相手には、スクリーンプレーを見せてくれると信じています。
続いて、同じくスペイン・スイス戦でのスイス1点目をご紹介します。
スイスのアカンジが、アスピリクエタに競り勝って得点しました。シンプルに競り勝っただけに見えますが、Wikipediaによれば、CBであるアカンジは187cm、SBであるアスピリクエタは178cm。ポジション、プレースタイル、身長等を考えれば、明らかなミスマッチです。
このように、ゾーン同様マンマーク守備に対しても、ミスマッチを狙うことは有効です。攻撃側からすると、マーク担当は試合が始まってみないと分からないので、特にキッカーが瞬時に見分け、そこへボールを送ることが重要です。
また、この試合は1-2でアウェーのスイスが勝利していますが、2得点共にCKから奪っています。そして、どちらにもアスピリクエタが絡んでいます。コーナーキックでの守備対応が苦手な選手を狙い撃ちする。そういう抜け目ない戦術を見せてほしいです。
日本の注意点(守備時)
最後に、日本がコーナーキックを守る際の注意点についても触れたいと思います。
ここまでは「日本がどう攻撃すべきか」に焦点を当ててきましたが、前述の通り、日本の守備戦術はコスタリカ・スペインと似ています。つまり、自分たちが仕掛けるような攻撃で、自分たちがやられないように注意しなければなりません。
特にコスタリカは、セットプレーにおいて非常に戦術的な印象を受けました。9月と11月に行われたばかりの、ウズベキスタン戦とナイジェリア戦でのプレーをご紹介します。どちらもFKではありますが、CKに近い位置からのものでした。
どちらもほぼ同じ形で、味方のスクリーンプレーによって、19番CBのワストンがフリーでヘディングしました。マンマーク守備の日本にとっては、相性の悪い戦術です。
ワールドカップ直前のこの時期、多くのチームはセットプレーの秘策を親善試合で披露しません。つまりこの形は、隠すほどのものではなく、基本的な役割分担や動作として、チームに浸透していると考えられます。
そのようなチームが、本番ではどのような戦術を見せてくるのか。サッカーファンとしては楽しみですが、日本ファンとしては怖いですね。
もう1つ、同じくナイジェリア戦からCKのシーンをご紹介します。上記FK直後のプレーです。
ショートコーナー(キッカーとショートコーナー要員の2人)に対し、ナイジェリアが1人しか寄せなかったため、数的優位を生かしてサイドを突破しクロス、またしてもワストンが合わせました。
日本も、相手のショートコーナーに対して、まずは1人で対応します。寄せたナイジェリア選手の対応が悪かったとはいえ、注意が必要です。
また何より、ワストンが超要注意人物であることが分かりました。
コスタリカのようなチームは、セットプレーに勝負を賭けてくると思います。北中米カリブ海予選でも、CKから複数回得点していました。日本は、ドイツ・スペインに対しては番狂わせを狙う立場ですが、コスタリカ相手にはセットプレーで足元をすくわれないように、よくよく注意してもらいたいと思います。
まとめ
分析は以上です。内容をまとめます。
ドイツに関しては:
・ゾーン守備であること
・攻略法として、広げた選手間ギャップ、ゾーン担当者が不在なニア、ミスマッチやオーバーロードを狙うこと
コスタリカ・スペインに関しては:
・2ストーン+マンマーク守備であること
・攻略法として、スクリーンプレーやミスマッチを狙うこと
日本の注意点(守備時)としては:
・コスタリカは戦術的であり、特にスクリーンプレーとCBワストンが要注意であること
コーナーキックは、何も知らずに見ると、「頑張れ!競り勝つんだ!」と祈るだけになってしまいがちですが、チームの特徴や原理原則を少し知っているだけで、途端に奥深さが感じられるような気がします。
本記事を読んで頂いたことで、コーナーキックの攻防が注目ポイントの一つになったり、コーナーキックへの見る目が変わったりしたら、とても嬉しいです。
森保ジャパンの戦術に期待しましょう!
では、また。