シニアは自己を超えよのバージョンアップです。
先日投稿した記事をバージョンアップさせてください。基調は同じですが、特に後半の冗長な部分を削り、Grateful Deadの現代的意味を再考し、新しくシニア世代への期待を説明しています。というわけで、この新しいバージョンの方もよろしくお願いします。(読み返して恥ずかしくなったのです)
NHK人気番組、クローズアップ現代で”「知らない間に火葬された”あふれる遺体”相次ぐトラブルの実態」を偶然見ました(2024年6月10日)。まずはその内容の要約です。
■クローズアップ現代が教えてくれたこと
「母からの連額が途絶える」
オーストラリアに仕事で住んでいた娘が、日本で一人暮らしをしている71歳の母親と日常的にlineでやり取りをしていたが、突然返信がなくなった。娘は、警察に通報。警察は窓を割って家の中を調べるが、整然とした内部だったため旅行にいったのではないかという。旅行なら連絡あるはずと緊急搬送の記録を調べてもらう。すると、隣の市にある病院で血管の障害で3月22日に亡くなっていた。娘はすぐに帰国、市役所にいき、そこで母の火葬許可書を見せられる。死亡の二日後の3月24日に火葬、その日のうちに無縁墓地に納められていた。娘が警察に確認を求めたのは火葬の二日後の3月26日だった。
驚くことに、全国の自治体が孤独死となり連絡不明となった者に対し行った火葬の件数は昨年で、なんと約1万2,000人。この例のように親族が知らぬ間に火葬されるなどトラブルも起きている。1人暮らしの高齢者数も現在800万人でさらに2030年には1,000万人に増えると予測されていて、多死社会に対応する自治体の不安は深まるばかり。
□ 親族関係さえ疎遠になる現代社会を反映した”終活”
遺体の冷凍保管、火葬にかかる費用(アンケートに答えた109自治体だけで年間60億円)も自治体の大きな負担となっています。戸籍だけで縁者を探すのは困難で、自治体が時間を掛け、ようやく見つけても引き取りを拒否する例も多いということです。一部の自治体では自分の死後の方針について自治体に登録し、市が定期的に訪問する取り組みもあるそうですが極めて例外だといいます。
番組ではエンディングノートの勧めとともに、行政も個人も苦しむこと、悲しむことの無い最後を迎えていきたいですねという言葉で終えています。
□ エンディングノートは必須
この番組によって、再びエンディングノートが流行るかもしれません。連絡先や延命処置・葬儀埋葬方針が明確であれは、家族。親族が本人の延命治療、葬儀などの希望を知ることが出来ますし、自治体の負担も減少するでしょう。それ自体はすばらしいことです。シニア世代や後期高齢者に限らず、すべての大人に必須の備えだと思います。あるいは中高生のうちから始め、数年ごとにアップデートすれば、充実した人生を送る助けとなるでしょう。
□ 効率化が解決なのか
しかし、これだけでは、問題の解決につながっていません。私たちは何か根本的なことを見失っていないでしょうか?
私たちの社会を作ってきた人たちが、このようなコストや効率をもとに”迅速”に取り扱われてしまうことは喜ぶべきものなのでしょうか?社会が一人暮らしの高齢者へ望むことが、行政の効率化のための連絡先や延命治療方針などとは、何とも悲しくありませんか?「人様に迷惑をかけないように」は日本人の美徳ですが、それだけでいいのでしょうか。私はシニアこそ、あたらしいステージに上がってほしいのです。そのとき考えて欲しいことがあります。
■ 考えて欲しいこと3つ
1. Grateful Deadのエピソード。
◎人間は社会的な生き物で一人では生きていけないもの。
日本では、あまり知られていないロックバンド、Gratful Deadですが、アメリカでは70年代に絶大な人気がありました。その名前は、バンドの創設者がネーミングを決める際、辞書で発見した民話のモチーフに感銘して、それを採用したものです。そのモチーフとは旅人が、埋葬されていない遺体を偶然見つけ、自分の最後の1ペニーを使って埋葬し、その後、その死者の霊または、天使が彼に次々と幸運を与えたというものです。このモチーフは古代ギリシアや古代エジプト、そして古代中国にもあるようです。
人間は自分で自分を埋葬することはできません。
当たり前ですが、人間は自分で自分を埋葬することはできません。
誰かにしてもらわなければなりません
唐突な例でしたが、私たちが、本来的に助け合わねばならないとう普遍の真理をこの物語が示しているのではないかと思います。私たちが口にする「共生」や「協調」といった概念は美徳といった+アルファのものでなく、助け合わなければ社会維持ができないということだと思います。
では、これを21世紀の現代に置き換えて考えてみましょう。
旅人とは、現代に置き換えればシニアです。
最後の1ペニーとは、シニアが社会に対して行う何らかの利他的貢献です。古代社会では旅人は貧しく、貢献できるのは1ペニーだけでしたが、現代の旅人であるシニアは、はるかに豊かで、長寿であり、「たくさんの知見というペニー」で利他的に貢献できます。もちろん最近は「遺贈」も注目されています。それも大切です。ですが、それぞれのシニア独自の「唯一無二の知見」ならどんなシニアであっても提供可能です。
2. シニアの利他的貢献
二つ目の考えていただきたいことは、シニアに利他的貢献が期待されるということです
有名な欲求階層説を提唱したマズローは晩年、「自己超越」という段階を新たに唱えました。人間は「欠乏欲求」が満たされると「成長欲求」が生まれる。次に「成長欲求」が満たされ自己実現できると、「自己超越欲求」が生まれるというものです。他者の称賛も不要で、他者や社会のために行動したい、何か達成したいといいった奉仕や献身、利他的な状態になるという説です。
つまり、シニア世代は子育てや長時間労働から自由になり、夢を叶えて「成長要求」が満たされる可能性が高まり、次の段階の「自己超越欲求」が生まれ、利他的行動を行うようになると期待されるからです。
◎さなぎが蝶に変わるようなマインド変化とステージ変化を期待します。
そんなシニアでも、もちろん、いきなり「自己超越」出来るわけもありませんが、皆さんも、周りを見渡すと、自らの夢を叶え、成長し自己実現したシニアが嬉々として奉仕活動をしている姿を目にしていませんか。利益追求の高度成長自体に育ったシニアが今度はマインドの方向を変え、楽しそうに奉仕活動をしています。その姿は、「自己超越」のひとつではないでしょうか。さなぎが蝶に変わるとき、苦労して変わっているとは思いません。ですが、劇的に変わっていくのです。
生き生きとし、地域社会に貢献しているシニアは孤独ではないと思います。社会と触れ合う機会が多く、エンディングノートを超えたエンディング・ライフプランを作り、蝶のように生き生きと羽ばたき、利他的に活動していれば、社会がそんなシニアを忘れる可能性が激減します。
3. 人間だけが「自己超越」活動が出来る生物
三つ目は、生物界で生殖、子育てを終わって以降、種族社会に「自己超越」して貢献するというのは、人間しかできないことだからです。ここでシニアが貢献するとき、それを受ける社会に役割と期待されることがあります。
■ 社会の役割と期待
社会に期待されるのは、シニアの知見を活かす取り組みです。それは単に定年延長をすることや、単純労働をさせるのでなく、フレキシブルな労働時間や、若い世代へのメンターとなる制度、希望に合わせてリスキリング、あるいは健康支援など、シニアの個性を生かす施策を作っていくことではないかと思います。シニアが生きやすい環境を与える役割があるのです。
□ 実は天使とは社会のことだった。
実は先ほどのGrateful Deadに出てくる「天使」は現代では社会なのです。つまり、社会がシニアを支援することで、シニアがその知見を社会に還元しやすくなります。シニアが還元すればするほど、より豊かになった社会からシニアも恩恵を受けるのです。シニアと高齢者を社会から分断させてはいけません。なぜならば、今後、社会はAIによる省力化、無人化が進むのですから、必要なのは知見のはずです。そこにシニアの活動余地があるのですから。
□ シニア世代・高齢者と社会の共存共栄
Grateful Deadの物語も、マズローの「自己超越欲求」も、現代のシニア世代と社会の共存共栄を示唆しているのだと思います。本物の天使がシニアを助けるどうかについては定かではありませんが、現代の天使である社会がシニアを支援し、シニアがさらに貢献しやすくなることによって、結果として社会全体が豊かになっていくと思います。