[RとStataによるデータ分析]重力モデルの推定(1)
2023年11月15日改定
二国間の貿易額の実証分析では重力モデル、あるいはグラビティモデルが頻繁に使われてきました。本コラムでは、重力モデルとは何か?推定結果の読み方やデータの取得方法などを紹介します。
重力モデルの考え方
重力モデルとは、重力モデルとは物理学の万有引力の法則、「2つの物質間に働く力は2つの物質の重量の積に比例し、2つの物質間の距離に反比例する」を国家間の貿易額に応用したものです。直感的には、次の図のように、規模が小さく離れている国と国より、規模が大きく距離の近い国同士のほうが、貿易額が大きくなるというものです。
伝統的重力モデル
これを数式で表現すると、次の式のように「二国間の貿易額は二国の経済規模の積に比例し、二国間の距離に反比例する」というものです。
ここで、X_ijはある国iと国jの間の貿易額、GDP_iとGDP_jはそれぞれ国iと国jのGDP、Dist_ijは国iと国jの間の距離です。これの式の対数をとると、
$${
lnX_{ij}=lnGDP_{i}+lnGDP_{j}-lnDist_{ij}
}$$
となりますが、ここに係数と切片(定数項)、誤差項を加えると実際の推計式は以下のようになります。
この式は、重力モデル(X)で紹介する「新貿易理論」に基づく重力モデルと対比する意味で「伝統的な重力モデル(Traditional Gravity Model)」と呼ばれています。また、以下のように一人当たりGDP(GDPPC) などの説明変数に追加さえることもあります。
貿易自由化の影響を測定する場合、この式にi国、あるいはj国がWTOに加盟しているかどうかを示すダミー変数、または、i国のj国の間にFTAがあるかどうかを示すダミー変数を追加し、WTO加盟、あるいはFTA締結がどの程度貿易額を増加させるかを分析することができます。また、各国の地理的状況(港湾を持たない国)や二国間の歴史的、文化的な関係を示す変数(植民地—被植民地、公用語が共通化どうか、など)が導入されることもあります。
実は、伝統的な重力モデルの理論的な裏付けを考えていくと、上記の(1)や(2)の推計式には「欠陥」があること、そして、理論モデル自体は複雑ではあるものの簡単な方法でこの「欠陥」を克服できることが示されるのですが、これは「重力モデルの推定(3)」で説明します。
事例紹介(1)
「Stataによるデータ分析入門(第3版)」ならびに「Rによるデータ分析入門」で扱った事例を紹介しましょう。ここでは2015年におけるG20とASEAN諸国の二国間貿易額、距離やGDP等のデータを使って、自由貿易協定(Free Trade Agreement, FTA)の効果を測定しましょう。
FTAとは、特定の国・地域の間で、物品の関税やサービス貿易の障壁等を削減・撤廃することを目的とする協定で、日本でも2001年の日・シンガポール自由貿易協定を皮切りに2020年までに20近くのFTAが締結されています。FTAについては、様々な解説記事があります。たとえば以下のサイトを参照してみてください。
推計結果に進む前に、次の図で示されるデータの構造を確認しておきましょう。たとえば、3行目はアルゼンチン(Importer)のブラジル(Exporter)からの輸入で、GDPexは輸出国であるブラジルのGDP、GDPimは輸入国アルゼンチンのGDP、distanceはアルゼンチンとブラジルの距離を示します。この2国はメルコスールという関税同盟に参加しており自由貿易協定が結ばれているのでFTAダミーが1になっています。一方、6行目のArgentinaとFranceのTradeはアルゼンチンのフランスからの輸入額ですが、この二国間にFTAは存在しないのでFTAダミーはゼロになっています。
さて、被説明変数のTradeと説明変数のGDPex, GDPim, distanceは対数をとってStataを使って最小二乗法で推計し結果が以下になります。RでもEXCELでも同じような結果が出てきます。
事例紹介(2)
もう一つの事例を紹介しましょう。Aitkn (1973) は重力モデルを用いて1950年代末から始まった欧州における市場統合プログラムの評価を行った。具体的には、フランス・ドイツ・ベルギー・ルクセンブルク・イタリア・オランダによる1957年から始まった欧州経済協力機構(European Economic Community、のちにEuropean Community, European Unionに発展)と、これに対抗する形でイギリス、オーストリア、スウェーデン、スイス、デンマーク、ノルウェー、ポルトガルの7か国による欧州自由貿易機構(European Free Trade Association, EFTA, 1960年~)の評価を行っています。EECでは最終目的として政治的な統合を掲げる一方で、EFTAでは政治的な統合を目指さないという点で一線を画しています。また、EECが関税同盟であるのに対してEFTAは自由貿易協定であるという点でも異なっています。Aitken (1973) の研究は1951年から1967年の期間をカバーする、EEC5か国とEFTA7か国の合計12国の相互の貿易取引、すなわち1年あたり132貿易取引ペアを対象とする実証分析が行われています。
推計自体は年ごとに行われており原論文ではすべての結果が表示されているのですが、ここではEEC、EFTAが成立する前の1955年と設立後の1965年の推計結果を紹介します。
1995年、1965年のいずれも距離(Dist_ij) の係数は負、輸出国、輸入国のGDP(GDP_i, GDP_j)の係数は正で有意となっており、3.1節の議論と整合的な結果になっている。Pop_i, Pop_jは輸出国、輸入国の人口だが、これは国内需要規模の代理変数でAitken (1973) は貿易量には負の影響をもたらしていると解釈している。A_ij は輸出国・輸入国が国境を接していれば(隣接していれば)1、そうでななければ0を取るダミー変数でEECとEFTAは輸出国・輸入国がともにEEC、あるいはEFTAに加盟していれば1、そうでなければ0をとるダミー変数で、EEC・EFTAの成立前の1955年では係数は有意ではないが、成立後の1965年では正で有意になっています。また係数の大きさに注目すると、EFTAよりもEECのほうが大きくなっていることがわかります。
次の図3-1、図3-2はAitken (1973) で年ごとに推計されたEEC・EFTAダミーの係数をプロットしたもので中央が係数値、上下に伸びるヒゲは95%信頼区間を示します。それぞれのダミー変数の係数がゼロを上回るのは、EECダミーは1959年から、EFTAダミーは1961年からで、いずれも年々係数が大きくなっていることが分かります。
実際に、重力モデルを推計するには、国際機関等のホームページからデータを収集する必要があります。重力モデル(2)では、重力モデルの推計に必要となるデータ取得先について紹介します。
※本コラムは「Stataによるデータ分析入門第3版」のWeb Appendix、ならびに「Rによるデータ分析入門」のWEBサポートとして用意されています。
Stataによるデータ分析入門第3版のWEB補論の一覧はこちら。
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