[Stataによるデータ分析]時系列データの取り扱い

Stata で時系列データを扱う際,若干の手続きが必要になります。ここでは,マクロ経済予測などで用いられれる輸入関数の推計を例に,操作方法を説明します。ここで使用するデータ・プログラム例は以下からダウンロードできます。

事例の背景説明

ここで利用するデータは,import.dta であり,以下のデータが含まれています(出所は,すべて内閣府「国民経済計算」
(68SNA),1955 ~ 1998 年)。
・mp90 財・サービスの輸入(実質,1990 年基準)
・xti90 GDP(産業計,実質,1990 年基準)
・pmxt90 輸入デフレータ(1990 年基準)
・pgdd 国内需要デフレータ(1990 年基準)
・year:年次
 これらのデータを使って以下のような関数を推計します。被説明変数は実質の輸入額,説明変数がGDP と輸入相対価格です。経済活動が活発になれば輸入は増加するので,b 1 はプラスが期待されます。b 2 は輸入価格が上がると輸入財の需要は下がると考えるとマイナスが期待されます。ただし,輸入価格の影響には時間的なラグが伴うと考え,以下の推定式では価格指数のみ時点ずらして推計を行います。

log(mp90t)=a+b1*log(Xti90 t)+b2*log(pmxt90 t−1 /pgddt−1)+ut

プログラム例

use import.dta,clear
* 時点識別変数の認識
tsset year
* 時系列グラフの作成
tsline mp90
twoway line mp90 year || line xti90 year
gen lmp90=log(mp90)
gen lxti90=log(xti90)
gen price=log(pmxt90/pgdd90)
* ラグ変数,リード変数の例
list lmp90 price l.price f.price d.price
* 最小2 乗法におる輸入関数の推計
reg lmp90 lxti90 l.price
* ダービン=ワトソン比の算出
estat dwatson
prais lmp90 lxti90 l.price

まず,Stata に時間情報を認識させる必要があります。これには,tsset コマンドを使います。
tsset [ 時間識別変数]
 ここでは変数がyear が時間識別変数に当たります。

説明変数のラグをとる

 次に各変数の対数値(lmp90, lxti90, price)を作成します。price は1 期ラグをとります。Stata では1 期遅らせた変数(ラグ変数),あるいは1 期先を参照する変数(リード変数)は,以下のようにデータ・オペレーション・ファンクションを使います。たとえば,

list year lmp90 price l.price f.price

と入力すると,l.price が1 期遅らせた変数に,f.price が1 期進めた変数になっていることに気づくでしょうか。

画像1

回帰分析において,price のみラグ変数にする場合は,以下のように入力します。

reg lmp90 lxti90 l.price


結果は,以下のようになります。

画像2

GDP の係数はプラス,輸入価格の係数はマイナスで,いずれも統計的に有意な係数が得られました。決定係数も高く,一見良好な結果に見えます。

系列相関

 さて時系列データの分析では,本来ランダムであるべき残差が一定の規則性を持って変動するとともに,t 値が過大評価されてしまうことがあります。これを系列相関と呼びます。この系列相関が生じていないかどうかの検定は,Darbin-Watson(ダービン=ワトソン)比を用います。Darbin-Watson 比は,0 から4 までの間の値をとりますが,以下の値をとるとき系列相関があると判断されます。

0 に近いとき正の系列相関
2に近いとき系列相関なし
4に近いときとき負の系列相関

 この説明では,どれぐらい0,あるいは4 に近いと系列相関があるのかというという疑問が出てくると思いますが,これは実は,説明変数の数やデータ数に依存してきます。本来であれば,計量経済学の教科書の検定表で確認する必要があるのですが,目安としては,おおむね0 ~ 1,あるいは3 ~ 4 のときは系列相関を疑ったほうがいいでしょう。
 Stata でDarbin-Watson 比を出力するには,

estat dwatson 

と入力します。以下は輸入関数の推計結果について,Darbin-Watson 比を計算した結果です。Darbin-Watson 比は0 ~ 1 の間の値ですので,正の系列相関があると判断されます。 

画像3

系列相関発生時の対処法

 このようなときには,Prais-Winsten 変換による回帰分析を用いることで対処できることが知られています。Stata ではreg に代えて,prais と入力することでPrais-Winsten(プライス=ウィステン)回帰モデルの推定が利用できます。
 以下はStata コマンドprais によるPrais-Winsten 回帰モデルの推定結果です。具体的なコマンドは以下のとおりで、その下に推計結果が示されています。

prais lmp90 lxti90 l.price
画像4

通常の最小2 乗法(reg)の結果と比べると,若干係数の値が異なっていますが,GDP の係数はプラス,輸入価格の係数はマイナスで,予想通りの結果と言えます。前述のとおり系列相関が発生している場合,通常の最小2 乗法ではt 値や決定係数が過大評価されますが,それを反映して,Prais-Winsten 回帰では,t 値ならびに決定係数が小さくなっていることを確認しておいて
ください。またDarbin-Watson 比が係数の統計量の下に表示されていますが,変換後のDarbin-Watson 比が1.67 と2 に近づいており,残差の規則的変動が消えていることがわかります。

※本記事はStataによるデータ分析入門第3版のWeb Appendixとして用意されました。

Stataによるデータ分析入門第3版のWEB補論の一覧はこちら。


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