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4000億円の空白市場を切り拓いた秘密

今日は、オススメ本の紹介をしつつ、コロナ禍で苦境にあえぐアパレル各社を尻目に、成長を続ける作業服最大手のワークマンについて触れたいと思います。

ワークマン式「しない経営」- 4000億円の空白市場を切り拓いた秘密
土屋 哲雄 著/ダイヤモンド社

同時に、以前、一般財団法人ブランド・マネージャー認定協会のコンテンツサイト「Me:iku」のブランド・トークセッション動画としても、ワークマン土屋専務にお話しをお伺い、収録させていただきました。

■『土屋哲雄氏インタビュー』ワークマンのブランド戦略
 https://www.youtube.com/watch?v=4UelLfU7eSU&t=30s

ワークマンは、作業服からアウトドアウエアのブランドへと大きくかじを切る客層拡大と、データ経営による社内改革により、10期連続最高益、直近でも急成長を果たしています。
「低価格」と「プロ仕様の高機能」を武器に快進撃を続け、日本国内では、店舗数では今やユニクロを抜いています。大躍進のきっかけとなったのは、アウトドアウエアの新業態「ワークマンプラス」で、その仕掛け人こそが、ワークマン土屋専務です。

ワークマンが、このような転換を図っていった背景と戦略を探ってみたいと思います。

沿革

ワークマンは、土屋哲雄専務の叔父である元土屋嘉雄会長が、創業した「いせや」(現・ベイシア)の一部門として1980年に群馬県伊勢崎市で1号店がオープンした。1982年にワークマンは「いせや」から独立し、土屋嘉雄氏が社長を兼務し、1984年には、早々に社長を部下に任せ、代表権のない取締役会長になった。
創業当時は「職人の店ワークマン」という名称で、長い間、作業服一筋で販売を続け、1988年に100店舗、2017年には全国で800店舗となった。
2025年までに1,000店舗をめざす計画で、新業態として2018年9月に始まったのが「ワークマンプラス」である。

甥っ子の入社

現在のワークマンの飛躍を担っているのは、土屋哲雄専務。土屋哲雄専務、ワークマンの生え抜きではなく、三井物産の商社マンであった。2012年にワークマンに入社し、市場から評価さるような会社になるべく経営の一端を担うこととなる。

経営理念

現在のワークマンの経営理念は、「機能と価格に新基準。世の中にない高機能ウェアを低価格で開発して、生活者の価値基準を変えます。」である。

この経営理念は、機能と価格という軸において、世の中に新基準をつくり、高機能・低価格を提案していくワークマンの狙っている市場におけるポジショニングと一致している。

ミッション

ミッションは、次のように述べられている。

ワークマンの企業としての社会的なミッションは『働く人に、便利さ』をお届けすることです。当社は働く人のために、高機能、高品質でありながらできるだけ低価格にした商品を販売しています。製造小売業(SPA)をめざす当社の自社製品比率は35%を突破して、プロのお客様の過酷な使用環境に耐えるプロ品質と高い機能をもつ製品を開発しています。
また、専門店としての幅広い品揃えと値札を見ないでお買い上げ頂ける安心の低価格で、働くお客様にとって便利な専門店チェーンを実現します。

ファッションアパレルとの違い

ワークマンが近年、どのようにしてブランド価値を高めてきたのか?
土屋専務は「ワークマンは、ファッションアパレルではないから」とのことで、ワークマンとファッションアパレルとの違いは3つある。

【定価販売】
原則として値引きをしない。廃番にする際は、残っているサイズやカラーを安くするくらいで、値引き販売率は2%。

【継続販売】
作業服には流行がほとんどなく、ファッションアパレルのように1シーズンで陳腐化しない。最低5年は売れる。だからシーズン終盤に売れ残っても、値引きはせずに翌年も売り続けられる。

【共通製品】
ここ数年でプロ(建設・土木業など)の顧客が買う作業服と、一般の顧客が買うカジュアルウエアの境がなくなった。一般の人向けで売れ残ってもプロの人が買ってくれる。作業服は消耗品でもあるので、プロのお客さんは月1回くらいの頻度で来店する。

このことを前提に考えてみると、ワークマンが置かれた市場の立ち位置は、競争相手がほぼいない。

こうした恵まれた環境ではあったが、土屋専務は、将来を見据えた場合、1,000店舗、売上高1,000億円位が限界と想定され、結果として作業服市場での取り尽くしが生じること、そして、ネット企業の台頭なども潜在脅威になると考えた。
そのため、土屋専務はワークマンがが持つ競争優位性を守りつつ、経営革新が必要だと考え「客層拡大」と「データ経営」の2つの目標を打ち出すこととなる。

客層拡大

従来のワークマンが販売してきた同商品を新しい顧客層に販売する。いわゆる従来のプロの客とは別のアウトドア客に「ワークマンプラス」という新しい業態で販売する。もちろん、商品は常に進化していて、よりおしゃれで高機能な商品が揃えられている。

現在、新店舗は全て「ワークマンプラス」となっているが、1ヶ月当たり1坪約70万円の売り上げを達成している。アパレル業界の常識の3倍以上、ワークマンの既存店の4倍以上の売上だ。

土屋氏は「ワークマンプラス」の構想として、ニッチ市場であるとはいえ、人口10万人の商圏当たり1店舗が限界で、2024年には1,000店舗を達成し、国内ビジネスは限界に達することは知っていた。
そこで高機能×低価格帯の市場のポジションを確保しつつ、新しい客層を狙ったのが「ワークマンプラス」だった。この「ワークマンプラス」の高機能・低価格の商品が、増えてきたアウトドア好きな消費者層の心をつかんだわけだ。
さらには、SNSなどで、ワークマンの既客層ではない女性客が増え、
「ワークマン女子」という言葉も生まれた。


データ経営

ワークマンにとってのデータ経営とは、過去の売れ行きデータに基づいて需要予測をできるだけ精緻に行い、予測に基づいてベンダーと発注・納品を行うことである。
ワークマンは、直営、業務委託、フランチャイズと3種類の店舗を持つが、標準化がされていることが特徴だ。
社員に対しても、データ活用研修を繰り返し行うことで、平均1日5回データにアクセスするようになったとのこと。

ワークマンが実行しているのは「需要予測による善意型サプライチェーン」という考え方は、「需要予測に基づき、情報優位者が納入数量を決める」という意味で、情報優位に立つサプライチェーンのプレーヤーが納入数量を決める。
ワークマン側が発注するのではなく、ベンダー側が需要予データに基づいて数量を決め、自主納品する。ワークマン側はそれを全て買い取る。そうなると、利益を高めるためにベンダー側の都合の数量で発注してしまう懸念もあるが、長期的な取引関係による信頼で「善意」に基づいた適切な量が納品される。

このように、ワークマンは「客層拡大」と「データ経営」によって、競争相手がほぼいない立ち位置を保ちながら、新しい市場を開拓し大躍進を遂げました。

書籍のタイトル通り「しない経営」も特徴的で、

◎社員のストレスになることはしない
 ・残業しない
 ・仕事の期限を設けない
 ・ノルマと短期目標を設定しない

◎ワークマンらしくないことはしない
 ・他社と競争しない
 ・値引をしない
 ・デザインを変えない
 ・顧客管理をしない
 ・取引先を変えない
 ・加盟店は、対面販売をしない、閉店後にレジを締めない、ノルマもない

◎価値を生まない無駄なことはしない
 ・社内行事をしない
 ・会議を極力しない
 ・経営幹部は極力出社しない
 ・幹部は思いつきでアイデアを口にしない

などなど、マネジメント領域でも学ぶべき点も多々あり、私も経営者のはしくれとして、響くこともたくさんありました。

なかでも、「鈍感に見えるくらい愚直に一つの目標しか持たず、それに没頭するのが本当にいい経営者だ。」のメッセージは、いつもアイデアがたくさん出できて社員に指示をし、疲弊させている自分に改めて気づき、戒めたいと思った次第です。

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■『土屋哲雄氏インタビュー』ワークマンのブランド戦略
 https://www.youtube.com/watch?v=4UelLfU7eSU&t=30s

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