僕タス春編執筆ノート004 執筆開始

【本編を書きはじめました】

僕らのタスク管理ストーリー ~あの季節を忘れない~春編の本編を書きはじめました。

出だしは、こちらのアイデアノートでまとめていたとおり、辰子の目覚めからはじまります。そして、途中からもうひとりの主人公である康理に場面転換します。

辰子の出だしでは、辰子の紅茶好きを紹介するところ以外はアイデアノートを意識せずに書きました(最初から意識しすぎると筆が止まるので)。その結果、見事にラブコメ方面に話が進みました。僕タスのスタートはラブコメなので、原点回帰した感じがします。

次に康理のお話を書きました。こちらもアイデアノートはほとんど意識せずに書きました。不思議なもので、書いているうちに康理の性格や口調、さらには家庭環境まで想像が広がっていきます。

というわけで、康理の人物像がかなりできあがりました。

また、康理のお話を書いている中で、僕タス春編の裏テーマがムニュッとでてきました。裏テーマなのでここには書きません(たぶん本編にも直接的にはでてこないと思います)が、このお話の芯になるはずです。なので、たんなる思いつきにせず、しっかりと育てていきたいと思います。

ここで公開している文章はあくまで執筆中のものです。本編公開時には変更される可能性があります(というより、変更されます)。

まだまだ生の状態で読みにくいでしょうが、それもひと味ちがって面白い、とお楽しみいただければ幸いです。

ご感想等ありましたら、お気軽に送ってくださいね。

あ、そうそう。これまでのお話に興味がある方は、ブログの連載をご覧ください。

『僕らのタスク管理ストーリー ~あの季節を忘れない~』

【康理(春の恋は萌え出ずる)】

 これはオレ(たち)のタスク管理ストーリー。それは失敗のストーリー。そして、そこからもう一度立ちあがる。そんなストーリー(たち)。

――目覚め(辰子)――

 ピピピピッ

 目覚ましの音が軽やかに響き渡る。

 アタシは寝ぼけたぎこちない動きでiPhoneを手に取る。アラームを止めiPhoneを放り出すと、ベッドの上でゴロゴロして頭の中にある濃い霧のような眠気を振り払った。

 布団からはみだした足に、まだわずかに残る冬の空気が忍びよってくる。アタシはハリネズミのように体を震わせると、布団にもぐりこんだ。

 ふかふかした布団の感触を楽しんでいるとガチャリとドアがひらく音がして、六郎の声とともにノックが聞こえた。

「たつこー、いつまで寝てるんだい。今日は遊びにいくから起こしてくれって言ったのは辰子だろ」

 そうか。昨日の夜に六郎にお願いしてたんだ。それにしても六郎は高校生にもなってデリカシーのないヤツだ。姉のアタシがみっちり鍛えてやんないとね。

「コラッ! 六郎、あんたってホントに……」

 アタシがベッドからはね起きて六郎に説教をはじめると、六郎がぼうぜんとした顔で口をパクパクさせている。律子ちゃんとの恋におぼれて鯉の霊にでもとりつかれたのか?

「六郎。あんた、母さんじゃあるまいし、朝からつまんないダジャレ考えてるんじゃないだろうね。『恋におぼれた鯉』なんて、江戸時代のネタだよ」

 六郎はあいかわらずエサを待つ鯉のような口になっている。おや、顔がえらく赤いな。そうか、錦鯉のマネってんだね。六郎にしちゃ芸が細かい。なかなかやるじゃないか。

「た、たつこ……」

「なんだよ、六郎?」

「ぱっ、ぱっ、ぱっ……」

「いつまで鯉のマネやってんだい。ハイハイ、あんたにしちゃ上出来だよ」

「違うよ! 辰子、パンツが見えてるって!」

 えっ? アタシは下半身をみおろす。ありゃ、いつの間にかパジャマのズボンを脱いでいたのか。どおりでさっき足が寒かったワケだ。

「って、いつまで見てんだい! このスケベ!」

 アタシの上段蹴りが六郎の側頭部に直撃した。六郎は崩れるようにゆっくりたおれると、白目をむいて鯉のように口をパクパクさせていた……。

◆◇◆◇

「やあ、六郎。気分はどう?」

 リビングにやってきた六郎に声をかけると、六郎が頭をさすりながらこたえる。

「律子ちゃんとの思い出がサーっと頭をよぎって、ああこれが走馬灯かって思ったよ」

 アタシは手両手を顔の前で合わせながら謝る。

「すまんすまん、気が動転してつい」

「でも安心したよ」

「なにが?」

「辰子にも恥じらいってもんがあるんだね」

「あったり前田のクラッカー! アタシは恥じらいと知性が同居するオンナだからね」

「知性というよりは筋肉だよね」

「なんだと六郎!」

 アタシが空手の構えをとると、六郎はまた気絶させられてはたまらないというように頭を抱えた。

「ほらほら、辰子ちゃんに六郎。いつまでじゃれあってるの」

 母さんがお盆にのせたティーポットとカップをアタシに指し示すと、テーブルに並べはじめた。

「はい、辰子ちゃんの好きなダージリンよ」

 ティーポットの動きにあわせてゆらゆらと紅茶の香りがただよう。アタシはあやつり人形のように、ティーポットから伸びる紅茶の香りの糸に引き寄せられてフラフラとテーブルについた。

「母さん、ありがとう。いただきまーす」

 そう言ってアタシはティーコゼーに手をかけた。そして、高級料理屋のウエイターよろしく、銀のお盆ならぬティーコゼーをうやうやしく持ち上げる。あたり一面の花畑がいっせいに開花したかのように、紅茶の香りがアタシを包んだ。香りが身体のすみずみまで行きわたるように深く深く息をすうと、目を閉じてしばらくのあいだ紅茶の海をたゆたう。

「うーん、さすが母さんね。とてもいい香り」

「まあね。辰子ちゃんに紅茶のいれかたをこちゃこちゃ、じゃなくてゴチャゴチャと口うるさく叩きこまれたからね」

「あら、そのおかげで母さんもおいしい紅茶を飲めるのよ」

「ハイハイ。お母さんがおいしい紅茶を飲めるのは、たつこうちゃんのおかげよね」

「でしょ」

 アタシが母さんのダジャレをことごとくスルーしていると、六郎がシビレを切らした様子で会話にはいってくる。

「辰子。ちょっとくらい母さんのダジャレにツッコミをいれたら?」

「そう言うならあんたがツッコミをいれなよ、六郎」

「えーと、えーと……。ダージリンだけにダージャレンはよしティーくださいな」

「あんたのダジャレはダメダメだね」

 しかもそれはツッコミじゃないし……。アタシはこの世の苦悩をすべてかかえた哲学者もかくやとばかりに深いため息をついた。

――目覚め(康理)――

 ピピピピッ

 目覚ましの音が軽やかに響き渡る。

 オレは布団に横たわったまま、もぞもぞと枕元に手をのばす。あれ? いつもここに置いているはずの時計がない。

「かーんちゃん。キミの探しものはこれかしら?」

 若い女のみずみずしい声が頭の上から降ってくる。アイツ、またオレの時計をかってに触りやがったのか。それにオレのことを……。

「かんちゃんなんて呼ぶなっていつも言ってんだろ。それからその時計にかってにさわるな」

「あら、康理なんだからかんちゃんでいいじゃない。それに、高校生にもなってミッキーの時計だなんて。かんちゃんたら、かわいい♡」

 チッ。オレは何度となく繰り返されたやりとりにうんざりしながら、女を指さす。

「だいたいその格好はなんだ。いくら暖かくなってきたからって、足まるだしで。ズボンくらいはきやがれ」

「まあ、かんちゃんもそんなこと気にするようになったの?」

「てめえ、年上だからってオレをバカにするような口のききかたすんなよ。オイ! シャツをめくんな。パンツが見えるじゃねーか」

「やーねー、かんちゃんたら。心配しなくてもちゃんとショートパンツを履いてるわよ。かんちゃんになら見られてもいいけどね。ウフフ♡」

「語尾にハートつけるんじゃねーよ。まったく、いくら若いからって、もっと【母親】の自覚もってくれよな」

「もちろん自覚してるわよ。なにしろ母ひとり、子ひとり。ふたりだけの大切な家族じゃない」

 そう言いながら抱きついてくる。なんど言っても抱きつきグセがなおらないんだからな、こいつは。そしてわざとらしくゴホゴホと咳をすると、おきまりのセリフを口にした。

「かんちゃん、いつも苦労かけてすまないねえ。こんなときにあの人がいてくれたら……」

「おっかあ、それは言わない約束でしょ──とでも言うと思ったか。このバカ親!」

「そう言いながらものってくれるかんちゃんス・テ・キ。愛してるわよん♡」

「チッ。こうやって返さないと、てめえがいつまでもつきまとうからだろ。それから『愛してる』とか言うな。こっぱずかしい」

「あら、本当に愛してるあいてには、愛してるって面とむかって言わないといけないのよ。適切な時期にね」

 母はそう言うと身体をはなし、オレの顔を両手でそっと包みこむ。真剣な顔でオレを見る母から思わず視線をそらした。目の端にうつる母の瞳には、うっすらと後悔と悲しみがうかんでいる。チッ……。

「もしかんちゃんに心から愛する人が現れたら──」

「現れたら?」

 母の手からほおにうつる温もりに、思わず声が震えた。

「わたしが全力で邪魔してあげるわ♡」

 オレは脱力して母の手をふりはらう。

「てめえ! 言ってることがムチャクチャじゃねえか!」

 しかし、母はそんなオレをあやすようににっこり笑った。

「ふふふ。人間なんて矛盾だらけなものよ」

「てめえは矛盾【だけ】だろ!」

「あら、わたしは矛盾だけという一貫性を持っているのよ」

「わけがわかんねー」

「もう少しすればわかるわよ。たぶん」

「たぶんかよ!」

「年をとる平等性と大人になる自主性は同一ではないのよ」

 母はそう言い残すと、投げキッスとともにオレの部屋から消えていった。

 わけわかんねー。

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