僕タス春編執筆ノート005 レビュー
【レビューについて書きました】
前回からかなりあいだがあきましたが、ぼちぼちと執筆をつづけています。
春編では、タスク管理のレビューについて紹介するつもりです。レビューについてあれもこれもと書きはじめたら、それだけで膨大なページになってしまうので、今回は『そもそもなぜレビューをするのか』と、『レビューって具体的にはどんなことをするの?』という二点に焦点を絞って書きました。
春編の物語は、康理と辰子の二人の視点が交互に入れ替わりながら進みます。そのほかのおもな登場人物は、六郎と律子ちゃんです。六郎は辰子の弟で、康理の同級生であり親友です。律子ちゃんは、六郎の同級生であり、恋人です。辰子や六郎や律子ちゃんについて興味を持った方は、『僕らのタスク管理ストーリー ~あの季節を忘れない~』の夏編(六郎が主人公)、秋編(辰子が主人公)、冬編(律子ちゃんが主人公)をそれぞれご覧ください
まだまだ変更になるかもしれませんが、改訂前の勢いみたいなものを楽しんでいただければ幸いです。
ご感想等ありましたら、お気軽に送ってくださいね。
あ、そうそう。これまでのお話に興味がある方は、下のリンクから、ブログの連載をご覧ください。
――レビュー(辰子&康理)――
そんなこんなで、モモさんの百均をでたあとも、商店街のお店を数件まわって買い物をつづけた。ひととおり買い物が終わると、だれともなく、ひとやすみとばかりに喫茶店にはいった。
それにしても──アタシは、まわったお店のことを思いだしていた──どこのお店にはいっても、康理は声をかけられていた。しかも、歓待の声だ。どうやらこのあたりは、あいつの庭となっているようだ。あんな無愛想なヤツがなんで? と思ったけど、お店をまわっているうちに、その認識はすこしあらためられた。なぜなら、お店のひとたちと話している康理は、けっして無愛想ではなく、むしろ饒舌だったからだ。
そういえば、六郎とうちで遊んでいるときも、わりとよくしゃべっていたような気がする。もしかして、オンナ嫌いってやつか? いや、律子ちゃんと話してるときは普通だった。
ということは、アタシにだけあんな感じなのか?
アタシは、自分で(勝手に)だした結論に腹をたてた。そりゃあ、たしかに、アタシだって康理のことをチャラ男だのなんだのって、さんざん言ってたさ。だからって、そのあつかいはないんじゃないの。そりゃあ、律子ちゃんに比べたら胸だって小さいし、女の子らしくないかもしれないけど。アタシだってけっこうイケてるよ……たぶん。少なくとも、なにも知らなかった、高校生のあのころよりは。
って、なんで康理がしゃべってくれないからって、アタシが思い悩まないといけないんだ。アタシは水からあがった犬がするように、勢いよく頭をふって、思考をからだの外へ放りだそうとした。頭に浮かんだことばたちが、水しぶきのようにあちこちに飛びちる。あースッキリした、と身ぶるいを終えて顔をあげると、そこには康理のすがたがあった。
あ、ダメだ。
あっというまに、アタシの頭は、また康理でいっぱいになった。
「さあ、それではレビューのはじまりはじまり〜」
そのとき、律子ちゃんの間延びした声が聞こえて、アタシはわれにかえった。そうだ。会話の流れから、買い物の内容をレビューしようって話になったんだった。
「でも、そのまえに、レビューとはどういうものか、について整理しましょうか」
律子ちゃんはそう言いながら、手帳をこちらに向けてパラパラとめくる。その様子は、まるで紙芝居のおじさんみたい。最近はすっかり見なくなったけど、アタシが子どものころはあちこちの公園や神社に出没したものだ。おじさんが紙をめくるたびに新しい世界が広がって、ときに手に汗をにぎり、ときに笑い、ときにしんみりとした。
「──つまり、行動の記録をふりかえること、それがレビューなのよ。ね、辰子さん」
すっかり思い出にひたっていたアタシは、とつぜん話をふられてわれにかえると「あ、ああ。そうね」と生返事をする。
「でもさ、なんでわざわざレビューなんてするんだい? もう終わったことをふりかえったところで、過去を変えられるわけじゃないし」
六郎がのんきな顔で聞いた。律子ちゃんがその問いに答えようと思案していると、康理がとつぜん真剣な表情でゆっくりと話しはじめる。
「そう、確かに過去は変えられない。もう起きてしまったことは、金剛石のように硬く、歴史という書物に刻みこまれる。しかし、それを見てみぬふりをするということは、自分の存在をも否定することにつながる。なぜなら、いまの自分は過去の自分からできあがっているからだ。そして──」
あっ、これはアタシが好きな本にのっていた文章だ! 頭から口がウォータースライダーでつながったかのように、ごく自然につづきの文章がアタシの口をついて出た。
「「それはやがて未来への自分へとつながる。なぜなら、いまは過去になり、未来がいまとなるからだ」」
ふたりの声は、並走する電車のようにピタリと重なった。空手の演武をおえたときみたいな高揚感が、アタシをつつみこむ。思わず身ぶるいして隣をみると、康理とバッチリ目があってしまった。
つい視線をそらしてから、なんとなく気まずくて横目で康理をチラと見た。あっ、なんだか落ち込んでる? 母親においていかれた子どもみたいにうなだれる康理をみていると、おなかの底があたたかくなって口から笑みがこぼれる。
アイツ、意外とかわいいトコあるじゃん。
「えーっと、辰子。それでなんでレビューするのかな?」
六郎がおずおずと質問する。あっ、康理に気をとられて六郎のこと忘れてた!
「さっき言ったとおりなんだけど──」
『さっき』という言葉につられて、康理とのユニゾンが頭にリフレインする。思いだしただけで、また身体がほてってきて、アタシは熱をにがすように手でパタパタと顔をあおぐ。そのとき、なにやら動いているのが視界のはしに写ったので、無意識に視線をよこすと、康理がおなじように手でパタパタと顔をあおいでいる。あー、なんだろ、このシンクロ率。
パタパタパタパタパタパタ。
アタシはますます手をはやく動かしながら、六郎に説明をはじめた。
「六郎、あんたも言ったように過去は変えられない。まあ、正確に言うと変えられるんだけど、それはちょっと置いといて──」
『過去を変えられる』と言ったとき、康理があきらかに反応したのを、アタシは見逃さなかった。いったいなんだろう?
アタシは、その疑問を、頭の片隅に大切におく。疑問が、衝撃ではかなく消えてしまわないように、赤ちゃんを置くように──だっこしたことないけど──そおっと。そして、疑問のことを忘れないように、頭のなかにある『覚えておくことリスト』に『1』という数字を書きこむ。こうしておけば、覚えておくべきことが、ひとつあることを思いだせる。そして、それをもとに記憶をたどれば、たいていのことは思いだせる。
なにかを直接的に記憶することは、意外とむずかしい。時間と回数をかければ定着させることは可能だけど、こういう思いつきは、流れ星のようにあっさりと消えてしまう。でも、数字をひとつ覚えるくらいなら、簡単にできる。さらに、きっかけがあれば、記憶を掘りおこすことも案外できるものだ。なので、アタシはいつもこうやって、ちょっとしたことを記憶している。
ま、たまに忘れちゃうこともあるけどね。おっと、いけない、話の途中なんだった。
「ええと、なんだっけ? あ、そうそう。たしかに過去は変えられないんだけど、過去を見つめなければ未来を改善することもできないのよ。たとえば、六郎はよく宿題を忘れるでしょ」
「なっ、そんなこと、律子ちゃんの前で言わなくてもっ」
「なによ、いまさら。あんたのだらしないとこなんて、律子ちゃんならぜんぶわかってるわよ。ねっ、律子ちゃん」
「ええ、そうね」
「そうねって、律子ちゃんまでそんなこと言って!」
「でも、そんなところも含めて、わたしは六郎くんのことが好きよ」
「律子ちゃん♡」
「あー、ハイハイ。そういうのはあとでやってよね。で、宿題を忘れて先生に怒られるし、律子ちゃんには笑われるし、アタシにはダメ人間の烙印を押されるし、まったくいいとこないけど改善されないわよね?」
「いつのまにダメ人間扱いに!?」
「あんたが生まれたときからよ」
「そんな昔から!?」
「まあ、それは半分冗談だけど」
「半分本気なのか……」
「とにかく改善されないのは、六郎が過去をふりかえらないからよ」
「ふりかえるたって、なにをすればいいのやら、さっぱりだよ……」
「まあ、そりゃそうよね。やったことないのに、いきなりやってみろったって、困っちゃうものね」
アタシは手帳を取りだして、自分がレビューでやっていることをザッとふりかえる。アレをして、コレをきて、あとはナニか。うん、そうだ、コレなんかいいかも。
「たとえば、『うまくいったことと、うまくいかなかったことを書いて、うまくいくためにはどうすればいいか考える』なんてのが、わかりやすくていいわよ」
「えーっと、もう少し具体的にお願いします」
「うーん……そういえば、六郎。あんた数学の宿題を忘れて怒られてたよね」
「うっ、なんでそのことを……」
「逆に、国語のテストの点がよかったって大はしゃぎしてたよね?」
「まあね! あのときは鉛筆がひとりでに走ってるみたいにスイスイと答えをかけたよ。はっきり言って心が通じあったね」
「だれと?」
「夏目漱石」
「あ、そ」
「じゃあ、うまくいったことは、『国語のテストでいい点をとれた』ね。それで、その理由は──」
アタシがちらっと六郎に視線をやると「な、なんだよ、辰子?」と、六郎が動揺してあとずさる。まったく──。
「バカバカしいけど『夏目漱石と心が通じあった』なのね」
「バカバカしいはないだろ。本当に通じあったんだって。まるで律子ちゃんとしゃべってるときみたいだったんだよ」
「やだ、六郎くんたら♡」
「ハイハイ、そういうのは誰もいないトコか、サッカーの試合中にやってよね」
「なんでサッカーの試合中なんだ?」
「むかし、そういう漫画があったのよ」
「あ、そ」
「ほら、そんなことはどうでもいいのよ」
「自分で言いだしたくせに」
アタシは、もし目からビームがでるなら、六郎が一瞬で蒸発するくらいにらみつける。
「で、六郎。あんたのうまくいかなかったことは『数学の宿題を忘れた』、ね」
「残念ながら、僕は外国人とコミュニケーションをとるのが苦手なんだ」
「それが数学の宿題を忘れたのと、どう関係あるのよ?」
「つまり、ピタゴラスとは心を通じあえなかったってこと」
「ハイハイ、うまくいかなかった理由は『ピタゴラスと心が通じあえなかった』ね」
「で、うまくいったことや、うまくいかなかったこと、さらにそれらの理由を書いてどうするの?」
「うまくいったことの理由がわかれば、それを参考にしてうまくいったことを再現できるかもしれないでしょ」
「また国語のテストでいい点を取れるかも、ってこと?」
「そういうこと」
「なるほど。じゃあ、つぎは芥川龍之介と心が通じあうわけだな」
「うまくいかなかったことも、理由がわかればそれに対する対策を練ることができるからね」
「よし、それなら英語の勉強をがんばるぞ!」
「なんで数学の宿題を忘れないために英語をがんばるんだ?」
「だって、ピタゴラスとお話しするためには日本語じゃダメだろ」
「あのな、ピタゴラスはギリシャ人だぞ」
「えっ!? じゃあ、ギリシャ語なのか……。いまから勉強してつぎの宿題にまにあうかな」
「あのな、六郎」
「なんだい、辰子?」
「ギリシャ語の勉強をする前に、数学の勉強をしたほうがてっとりばやいと思うぞ」
「わかってないなあ、辰子。ギリシャ語を話せるようになったら、数学ができるようになるだけじゃなくて、ギリシャ人と話せるようになるんだよ。そうしたら、一石二鳥じゃないか。いや、一石百ギリシャ人だ!」
「一石百ギリシャ人ってなんだよ。友だち百人じゃないんだから。まあ、いいや。あんたの人生なんだから、ギリシャ語でもエスペラント語でも好きにしな。ともかく、そうやって、『うまくいったことと、うまくいかなかったことを書いて、うまくいくためにはどうすればいいか考える』んだよ」
「なるほどねえ。さすが辰子。よっ、タスク管理名人!」
「あいかわらず調子がいいんだから。まあ、そんな感じで記録をとって、レビューをすればいいのよ」
「うーん……」
「六郎、どうしたの?」
「さっきのはわかった。でも、記録っていっても、なにをきろくしたらいいか、いまいちピンとこないんだよな?」
「それは人それぞれだけど、あえて言うなら『自分が振り返りたいことの記録をとる』のよ」
「じゃあ、律子ちゃんとのデートかな♡」
「莫迦! まじめにやんなさい!!」
アタシが怒鳴りつけると、六郎は反射的に亀のように首を縮めた。
「といいたいところだけど、それもアリよ」
「なんだよ、怒られ損じゃないか」
「ふふふ、あんたを見てるとつい、ね」
「どういう意味だ、それ?」
「まあ、気にしないで。ともかく、そうやって、よかったことをふりかえるのも、オススメなのよ。そうすることによって、自分がどういうときに心を動かされるかを、知ることができるわ。自分の心の動きを知れば、自分をコントロールする手助けにもなるからね」
「自分をコントロールする、かあ」
「それって、人生も含めてってことですか?」
「そうよ、律子ちゃん。レビューっていうのは、過去をふりかえることで、未来を見つめることになるの。未来を見つめるということは、つまり、未来について考えること。それは、未来をデザインする、すなわち、人生をコントロールする、ということにつながるのよ」
「デザインするったって、思ったとおりにいくとは、かぎらないんじゃないのか?」
いままで黙って聞いていた康理が、とつぜん会話にはいってきた。おっ、なんだ? 康理は、こういう話に興味があるのか?
◆◇◆◇
辰子姫と六郎と会話が、オレの頭の中で踊っている。その踊りは、天岩戸にひそむ天照大神のように、静かにしまいこまれたオレの過去を引きずりだした。
未来をデザインする。
人生をコントロールする。
もし、それができていれば、あのとき親父は……。オレは、あふれそうになる過去を、しっかりとおさえつける。しかし、その量はあまりにも多くて、手のすきまからにじみでるように、言葉になってこぼれ落ちた。
「デザインするったって、思ったとおりにいくとは、かぎらないんじゃないのか?」
「それは、もちろんそうよ。でも、だからといって、なにもせずに手をこまねいている、っていうのもおよそ人間らしくないと思わない?」
「それにね、たいていの場合、未来は大幅に軌道修正はできないのよ。だから、少しずつ、少しずつ、自分が望むほうへと道をずらしていく必要があるの。
想像してみて。あなたの目の前には長い長い一本道がある。そして、道の周りは、あなたより少し背の高い草が、みっちりと生い茂っている。そんな光景を。道の先は見えるけど、道をそれると、背の高い草にはばまれて、周りはほとんど見えない。背伸びをしたり、ジャンプをすれば、なんとか見える、そんな感じ。そして、道をそれた遠いところに、あなたの望む場所が、かすかに見えるの。そんなとき、あなたはどうする? 残念ながら、あなたは道具をなにも持ってない、そう仮定してね」
オレは、唐突な質問に虚をつかれたけど、頭にその光景を思いうかべて考えた。
「うーん、そうだなあ。とりあえず、方角を覚えて、草をかきわけながら、望む場所に向かって歩いてみるかな」
「でも、人間の感覚は間違うこともあるから、いつの間にか、ぜんぜんちがう方角にすすんじゃうかもね」
「それもそうだな。じゃあ、たまに立ち止まって、ぴょんぴょんはねて、方角を確認するかな。間違ってたら方角を修正する。で、また少し進んだら、立ち止まって確認する。それをくりかえすってのはどうだ?」
「いいわね。そうやって、立ち止まって方角を確認する。まさに、それが、レビューの意味なのよ」
「なるほど、そういうことか!」
「もちろん、立ち止まって方角を確認したって、望むところにたどり着ける保証はないわ。途中に断崖絶壁があるかもしれないし、そもそも、そんな場所がないのかもしれない」
「じつは蜃気楼でしたってか。まあ、そういうこともあるかもな。それじゃあ、やっぱりレビューなんて、意味がないんじゃないのか?」
「いいえ。それでも、人生をデザインして、コントロールすることが大切なの。なぜなら、そうすることで、人生の主導権を握ることが、できるようになるから。たとえ、目的地にたどり着けなかったとしても、自分で選択して決断したことに、価値があるのよ」
「自分で選択して決断したことに価値がある、か。仮にその決断が、間違いだったら?」
辰子姫は、すこしうつむくと、そっと息をついた。切れ長なひとみがゆるみ、涙のかわりに過去の悲しみがこぼれ落ちたようにみえた。しかし、顔をあげたときには、悲しみのかげはきれいに姿をかくしていた。
「それを受けいれたうえで、新しい決断をするわ」
辰子姫は、オレをまっすぐに見据えて言い放つ。その姿は、まさに、悲しみを受けいれたうえで、強く生きようとする人間、そのものだった。
◆◇◆◇
「フッ。辰子姫は強いな」
「そりゃ、そうさ。辰子は、僕をかかと落としで気絶させるくらいだからね」
「こら、六郎! ナニばらしてんのよ!!」
「おっと、また気絶させられちゃ、たまらないや」
「いや、そういう強さじゃない。辰子姫には、どこか毅然とした芯がある強さ、それでいて竹のようなしなやかな強さがある、そう感じていたんだ。その秘密がわかった気がするよ」
「やっ、やだよ。そんなこと言われたら、照れるじゃないか」
「強くありながら、控えめである。それも、辰子姫の美しさの理由なんだな」
「おやおや、辰子ったら、顔がさくらを通りこして、さくらんぼみたいに真っ赤になってるよ」
「こら、六郎! アタシをからかうと、どうなるか(ゴゴゴゴゴゴ……)」
「ハイッ、調子にのってしまいました!」
「わかればよろしい」
「あー、こわかった。あまりにこわくて、辰子の背景に『ゴゴゴゴゴゴ……』って描き文字が見えたかと思った」
「描き文字ってなによ、ソレ。まったく、六郎は莫迦なことばかり言うんだから」
「いやいや、本当に見えたんだって」
「ふふふ、六郎くんたら」
「律子ちゃんまで!」
「六郎、おまえは漫画の読みすぎだよ」
「漫画命の康理に言われたくないよなー」
「いまのオレは辰子姫命だ」
「はいはい、まったく、康理はよくそういうことを、恥ずかしげもなく言うよな」
「律子ちゃんのノロケ話ばかりの六郎には、言われたくないな」
「なんだ? さっきの仕返しか? しかも、そのどや顔やめい!」
「フッ(どや顔)」
「まったく、アタシのまわりにいる男どもは莫迦ばっかりだ。ね、律子ちゃん」
「ふふふ、でも、楽しいですね」
「ああ、そうだね。たしかに、楽しい……かな」
雲の合間から、春の日射しが、ゆるやかにのびてくる。その光は、アタシの心まで、透明に照らしてくれるような気がした。
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