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「打率信仰」という美学

 今年のNPBの投高打低ぶりが話題になっている。
 前回、近本の四番起用は数字的にみれば奇策でもなんでもないという記事を書いた。書いてて感じたのが、日本における極端な打率信仰は日本人打者が育たない要因の1つではないかとすら思えてきた。

 チームの打力を測る指標として「チーム打率」を挙げる記事をよくみかける。「チーム打率〇〇〇の強力打線!」みたいな。

 前回も書いたように、打率は攻撃力を測る指標としてはあまりにも穴だらけである。仮に「先発全員安打」で全員が4打数1安打だとしよう。チーム打率は.250だ。
 この安打の内訳が全員シングルヒットで、しかも1イニングに1本ずつしか出なかったとしよう。得点は見事に0点だ。
 一方、この安打の内訳が全員ホームランだったとしよう。1イニングに1本ずつだったとしても得点は9点入る。そして、どちらも「チーム打率」は.250なのである。

 これはかなり極端な例ではあるが、少なくとも「打率」なるものが得点力の指標としてはアテにならないことはハッキリ言えるだろう。
 もちろんOPS(出塁率+長打率)というものも穴は多い。ヒット+盗塁は2塁打に近い価値があるが、OPSに盗塁は加味されない。また、OPSの高い打者を並べても、長打率が高い打者は穴が多いタイプも少なくないため、好投手同士の1~2点を争うゲームになると結構脆かったりする。
 だから、ワールドシリーズやWBCのような好投手をドンドンつぎ込む短期決戦ではいわゆるスモールベースボールの方が得点が入る場合もある。

 とはいえ得点力の指標として打率よりはOPSの方が信頼度は遥かにマシだろう。

 これだけ「打率信仰」が強いのは日本文化に根差したものもあると思うので脱却するのは難しい。「つなぐ意識」とか「自己犠牲」を愛する日本人は泥臭いシングルヒットや送りバントを駆使して「みんなで点を取る」のが大好きだ(特に高校野球)。
 サッカーにおいても長身のFWを置いてロングボールを入れるスタイルよりも、中盤でパスを美しく回して連携によって得点する方を愛する。どっちの方が効率がよいかの問題ではなく、「美学」の問題なので簡単に変わるものではないのだろう。

 ただ、極端な打率信仰は打者の育成を阻害している可能性もある。一昨日の試合で大谷選手が4打数1安打(1本塁打)だったが、「本塁打が出たものの1安打に終わった」的な記事の書き方が見られた。
 これが4打数2安打(単打)だったら、「マルチヒットで大活躍!」みたいな記事になるのだろう。こういう中で育つと当然、単打狙い、打率狙いの選手が多くなるし、監督がそういう思考なら出場するためにそうならざるを得ない。レッドソックスの吉田選手なんかはこの違いに戸惑っているようにも見える。

 セパのOPSランキングを見ていると、ソフトバンクはさておき、日本ハムとヤクルトが多く目につく。監督はどちらもMLB経験者だ。監督の起用方の違いが「得点力の高い打者」を育んでいるのだとしたら、メジャー帰りの監督が増えてきたのは良い傾向だと思う。

 阪神が貧打に苦しんでいるが、近本選手が長打率もOPSもチームトップで中軸にせざるを得ず、昨年活躍した大山、佐藤、木浪のOPSがそれぞれ.555、.572、.535では手の打ちようがない状況である。作戦とか采配とか以前の問題で、若手や外国人といった新戦力に期待するしかないだろう。

 さらに深刻なのが中日で、細川選手の.853の次にOPSが高いのは規定打席到達者でいくと村松選手の.608である。ちょっとお手上げだ。中日の長打率不足は今に始まったことではないので、スカウティングや指導方針といった球団の方針自体が「打率信仰」なのかもしれない。
 何かとボロカス言われている立浪監督が気の毒だが、最近の起用されている選手はOPSが高めなので、これが続いて貧打を脱却できれば投手力が高いチームのなのでおもしろい。


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