「得点圏」の定義はそれぞれ違う
「チャンスに強いバッター」の指標としてよく用いられる得点圏打率。
そもそも「チャンスに強いバッター」なるものが存在するかどうかは統計的には答えが出ているらしい。ある年に得点圏打率が滅法高いバッターがいたとしても、翌年は得点圏打率がガタンと下がったりする。結局、調子の良いタイミングで打席が来れば打てるし、調子が悪い時は打てない。そのめぐり合わせに過ぎないというわけだ。
「チャンスに強い」という特性が存在するならば調子に関わりなく打てるはずだが、実際にはそんなことはない。長くプレーしているとあらゆる選手の得点圏打率と生涯打率は結局同じ程度に落ち着く。「あいつはここぞという場面に強い」というのは基本的に印象論と巡り合わせのよさに過ぎない。それが統計的な答えらしい。
夢のない話ではあるが、まぁそうなんだろう。そこで今回はまた別の角度から「得点圏」というものについて考えてみたい。
そもそも「得点圏」とはランナーが2塁か3塁にいる場面を表す。そこでヒットを打てば「得点圏」打率が上がり、「得点圏打率が高いバッター」=チャンスに強いという根拠になっている。
しかし、そもそもランナー2塁というのが「得点圏」かどうかは人によるのではないだろうか、というのが今回のテーマだ。
例えば、最近スタメンに定着している阪神の小幡選手の打率は.250で、得点圏打率は.286だ。その意味では「チャンスに強いバッター」なのかもしれない。この得点圏打率をもう少し詳しくみていく。
ランナーが2塁、もしくは1、2塁の場面の成績は18打数5安打で.278なのだが(7月14日現在)、この場面での打点は2なのである。
つまり、ランナー2塁の「得点圏」でヒットを打ったとしても、点数に繋がる割合は40%しかないのだ。
これを大山選手で見ていくと、得点圏打率は.273でほとんど同じだが、ランナーが2塁、もしくは1、2塁の場面の成績は43打数11安打の.256で打点は10なのである。
つまり、小幡選手の「得点圏」でのヒットが点数に繋がる割合は40%で、大山選手は91%なので、点数に結び付くという観点で見た場合、同じ「安打」でも大山選手の安打の方が2倍以上の価値があると言える。
以前から「安打」という指標が得点力を表す指標としては杜撰すぎるということを書いてきて、結局同じようなことを言っているのだが、これは得点圏打率においても同様である。ただ、2塁打と単打の価値が違うだけでなく、同じ単打ですら価値が違ってくるのが得点圏における「安打」だ。
長打を警戒しなくていい打者だと外野は前進守備を敷く、そこで一二塁間や三遊間を抜いてもホームに返ってこれない。得点圏でヒットを打つケースが多い打者、いわゆる「チャンスに強い打者」だからといって得点が期待できるかどうかは別問題なのである。
ちなみに今シーズンに限って言えば得点圏打率が低いと指摘される大谷選手だが、ランナー1塁の場面で27本のヒットを放っている。そしてその場面における打点は21だ。
つまり、大谷選手のランナー1塁における安打の78%は得点につながっていることになる。こうなってくると「得点圏」の定義自体が人によって違うと言わざるを得ない。彼の場合は安打の半分近くが長打なので、ランナー一塁でも「得点圏」だ。
その意味では「ランナー三塁」における打率の方が公平な「得点圏打率」な気もしてくる。内野安打でも点数になるのだから。
ちなみに、だからと言って「長打のない奴はダメだ」というわけでは全くない。仮に大山選手の安打の方が得点に結びつきやすいとしても、それはランナーの走力によっても大きく変わるからだ。
その意味では鈍足のランナーが2塁にいてはバッターの安打の価値が下がる。野球とは走攻守の総合力を競うスポーツであり、各自がストロングポイントを活かしてチームに貢献できるのが面白いところである。
小幡選手は俊足で守備力が高いので、そちらで貢献することができる。逆に言うと、鈍足で守備力が低く、安打の大半が単打で打率自体は高いという選手はファンと監督における評価が分かれてくるのだろう。
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