「服から服へ」捨てるんじゃない、新しい服を作るんだ
60代に入り、「断捨離」を少しずつ始めました。長年アパレル関係の仕事をしてきたこともあり、着ていた服も多く、それらがクローゼットを占領しています。とりわけ、仕事で着ていたシャツが多く、どれも思い出が詰まったものばかりです。しかし、襟や袖が変色したり全体的にくたびれていたりするものが多く、メルカリで販売しようにもあまり状態が良くないものがほとんど。捨てるのは忍びないけれど、着古したシャツをただ収納しておくわけにもいかない。
そんな時に出会ったのが「MUDA ZERO(ムダゼロ)プロジェクト」です。アパレルメーカーのカイタックグループがトルコのISKO社と提携して立ち上げたもので、不要になった服をリサイクルし、新たな服へと生まれ変わらせる取り組みです。このプロジェクトに感銘を受け、私も手持ちのシャツを「服から服へ」リサイクルすることに挑戦してみました。今回は、60代の断捨離と共に、このリサイクル体験について語っていきたいと思います。
断捨離を始めたきっかけ:60代を迎えて
60代になって、自分の持ち物について「これからの人生で本当に必要なものは何か」を考えるようになりました。若い頃はトレンドを追いかけ、次々に新しい服を購入してきましたが、年を重ねるごとに好みやライフスタイルも変化し、服装もシンプルで上質なものを選ぶようになっています。
ただ、アパレル業界での仕事柄、仕事着やイベントのために着用してきた服がクローゼットに大量に残っています。特に仕事で愛用してきたシャツ類は数も多く、もう着ることはないものの捨てるには抵抗があり、手放すことがなかなかできませんでした。そこで、「断捨離」を通じて、思い切ってこれらの服と向き合い、本当に必要なものだけを残していこうと決意しました。
アパレル業界での経験と「服」への思い
アパレル業界での仕事を通じて、製造メーカーとの商談の際にも、商品作りのこだわりなどをよく耳にしていました。洋服はただの布ではなく、そこにはデザインや縫製、選び抜かれた素材の魅力が詰まっています。特にシャツは、襟の形や身頃のデザインが個性を表し、日常の一部となるアイテムです。だからこそ、着古された服も、単にゴミとして処分するのではなく、何かしらの方法で再利用できないかと考えていました。
また、アパレル業界で働いた者として、ファッション産業が環境に与える負担についても意識しています。ファストファッションが台頭する現代において大量生産・大量消費のスタイルが一般的なファッション産業では、毎年大量の衣服が廃棄され、環境負荷が増しています。衣類をただ捨てるのではなく、可能な限りリサイクルし、新たな価値を生み出す方法はないものかと考えていました。
着古したシャツをリサイクルする選択:MUDA ZEROプロジェクトとの出会い
そんな中で出会ったのが、カイタックグループが推進する「MUDA ZEROプロジェクト」です。このプロジェクトは、ファッション産業の持続可能な未来を目指し、トルコのデニムメーカーISKO社と提携して、不要な服を再利用し新しい衣服に変えるという画期的な取り組みです。
カイタックグループとISKO社は2022年初頭から協議を重ね、このプロジェクトを2023年秋にスタートさせました。この「服から服へ」というコンセプトは、私が探し求めていたもので、使い古した服やバックなどをただ処分するのではなく、形を変えて新たな命を吹き込むことができるのです。服の製造過程を知っている身としても、廃棄物を削減しながらファッションを楽しめるこのプロジェクトに強く共感し、自分の着古したシャツをMUDA ZEROプロジェクトに託すことに決めました。
「服から服へ」—リサイクルの仕組み
MUDA ZEROプロジェクトでは、不要な衣服が回収され、その素材を利用して新しい衣服が製造されます。このリサイクルのプロセスは非常に興味深く、古着が単にリユースされるだけでなく、分解され素材として再利用されるため、新しい製品として再び市場に出回ることができます。
1. 回収と選別
回収された衣類は、まず素材ごとに分類されます。綿、ポリエステル、ウールといった素材別に分けることで、リサイクル効率が向上し、新しい製品の品質も高まります。
2. 分解とリサイクル
次に、選別された衣類は分解され、再利用可能な繊維へと変えられます。これにより、新しい糸が生産され、繊維を一から作るのに比べてエネルギーを大幅に節約することができます。
3. 再構築と製造
分解した繊維を元にして、デザインや用途に応じた新しい衣服が製造されます。MUDA ZEROプロジェクトでは、リサイクルされた素材のデニムやシャツが人気で、持続可能であると同時にオリジナルの風合いが残るデザインが好評です。
この一連のプロセスを通して、捨てられるはずの服がまったく新しいものへと生まれ変わり、次世代のファッションとして多くの人に愛用されることが期待されています。
実際に「MUDA ZEROプロジェクト」に参加してみて
私は数枚の着古したシャツをMUDA ZEROプロジェクトに出すことにしました。出すときには、その着古したシャツを着て仕事をしていた時のことが頭を巡り、私が長年大切にしてきた一部であるという思いが込み上げてきました。そのシャツが新たな服へと生まれ変わる過程を想像すると、環境に優しいファッションという未来の一部に参加できることを実感しました。
また、手放す際に「どんな風に生まれ変わるのだろう?」と想像する楽しさも感じられました。着古したシャツが別の形やアイテムとして新たな持ち主に愛され、またどこかで再び命を吹き込まれる。そう考えると、「服から服へ」というコンセプトがただのキャッチフレーズではなく、深い意味を持っていることがわかります。
60代からのサステナブルライフ:ファッションと環境の関係
MUDA ZEROプロジェクトを体験したことで、ファッションが環境に与える影響について改めて考えるきっかけになりました。若い頃はファッションを楽しむことに夢中で、あまり深く考えることはありませんでしたが、年齢を重ね、ライフスタイルを見直す中で、より持続可能で環境に優しい方法でファッションを楽しむことの重要性を実感しています。
60代という年齢は、これまでの価値観を見直し、新しい生き方を取り入れるのに適した時期です。今後も環境を意識した選択をしながら、生活全体を見直していきたいと思います。MUDA ZEROプロジェクトのような取り組みが増えることで、私たち消費者が持続可能なファッションを選びやすくなり、さらにはファッション産業自体がより環境負荷の少ないものになっていくことを願っています。
おわりに:サステナブルな選択がもたらす豊かな未来
「服から服へ」を実現するMUDA ZEROプロジェクトに参加したことで、ファッションと環境のつながりについて深く考えるきっかけとなりました。アパレル業界で長く働き、多くの服を見てきた自分にとって、服がただ消耗品ではなく、形を変えて次の時代に引き継がれるという発想は非常に心に響くものでした。若い頃は、トレンドを追いかけることがファッションを楽しむことだと思っていましたが、今では「持続可能なファッション」を選ぶことで、真に豊かな暮らしが実現できると感じています。
新たなサステナブルライフスタイルへの第一歩
60代という節目に、断捨離やMUDA ZEROプロジェクトへの参加を通じて、自分の持ち物やファッションの選び方を見直すことができました。リサイクルの観点からファッションを楽しむことは、新しい物を手に入れるだけではなく、価値あるものを未来に残すという楽しみでもあります。リサイクルで生まれ変わった服は、ただ新しいだけでなく、過去の歴史や想いをも織り込んだ「一着」になるからです。
次世代へとつながる「服から服へ」の価値
今後もMUDA ZEROプロジェクトのようなサステナブルな取り組みが広がっていくことで、ファッションの価値や意義が見直されると信じています。「服から服へ」という考え方を軸に、今後も次世代に誇れるファッション選択をしていきたいと思います。これからは自分が持つ一着一着に込められた意味を大切にしながら、サステナブルな選択を積み重ねていきたいと思います。
これまで積み重ねてきた自分のスタイルを尊重しつつ、新たな価値を生み出す喜びを大切にしていく。そんな未来に向けて、MUDA ZEROプロジェクトを通じて一歩を踏み出せたことに心から感謝しています。