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【英国法】Retained EU Law ーBrexit後のEU法の取扱い&2024年からの変更点ー

こんにちは。
お読みいただきありがとうございます。

イギリスのEU離脱(Brexit)は世界を驚かせました。
国際私法を学んだ方や、国際案件に携わる法務担当者の方であれば、「Brexit前に適用されていたEUの法律ってBrexit後はどうなっているんだろう」と気になりませんか?

これについて、イギリスは、Retaiend EU Lawという仕組みを作り出して対処しようとしています。今回は、そんなイギリスの試みについて書きたいと思います!

ややマニアックなのは承知の上です。
どなたかの知的好奇心を満たすことができれば嬉しいです。

なお、法律事務所のニューズレターとは異なり、分かりやすさを重視して、正確性を犠牲にしているところがありますので、ご了承ください。


前提知識:EU法の仕組み

一発目から「Retained EU lawとは〇〇です!」と言えれば良いのですが、ぼくの考えでは、まずはEU法(*1)がどのようにして各EU加盟国の法令となるのかを押さえる方が分かりやすいと思うので、まずそちらから説明します。

EUの立法府である欧州議会と欧州連合理事会は、規則、指令、決定という3種類の法規範を定立することができます。(決定は、話が少し分かりにくくなるので以下では触れません。)

規則(Regulation)

定立されれば、各加盟国の議会の特別な手続を経ずに、直接に効力を生じることとなる法規範です。日本の「法律」に似ていますね。EUの個人データ保護法であるGenral Data Protection Regulation(GDPR)などが有名です。

指令(Direcive)

各加盟国に対して、一定の目的を達成するために法律の定立を求めるものです。各加盟国は、指令の内容に従って、個別に法律を制定することになります。例えば、The 5th Anti Money Laundering Directive(第5次アンチマネーロンダリング指令)といった言葉を聞いたことがあるかもしれません。

Retained EU Lawとは?

Brexitの移行期間の終了する2020年12月31日PM11時、イギリスは、次のように定めました(*2)。

・ 移行期間の終了時に有効な規則を全て保持し、英国法に転換する。
・ 移行期間の終了後も、指令に基づく法令は維持される。

つまり、Retaiend EU Lawとは、移行期間の終了後に残った規則および指令(に基づく法令)などをいいます!

具体例:GDPRを参考に

先ほども触れましたが、GDPRはEUの「規則」であり、Brexitの移行期間終了時点で、イギリスで有効なものです。

したがって、GDPRは、Retained EU Lawとして維持されています。

イギリスでは「UK GDPR」などと呼ばれています(*3)。日本だと全然なじみがないと思うので、浸透すればいいなあと思っています(笑)

UK GDPRを定義したいときは?

ここで余談ですが、データ移転契約などでUK GDPRを定義するときは、次のように書きます。

Regulation (EU) 2016/679 of the European Parliament and of the Council of 27th April 2016 on the protection of natural persons with regard to the processing of personal data and on the free movement of such data (General Data Protection Regulation) as it forms part of the law of England and Wales, Scotland and Northern Ireland by virtue of section 3 of the European Union (Withdrawal) Act 2018.

めっちゃ長いですが、そもそもGDPRの正式名称が長いんですよね、、。

Retained EU Lawに対する批判

仕組みが複雑すぎる

このエントリーでは出来る限りRetained EU Lawのエッセンスだけをお伝えしているつもりですが、実際はもっと複雑です。

例えば、Brexit移行期間前に出されたEU法の判例も、Retained EU Caseという形で維持されており、下級裁判所はこれに拘束されるところ、裁判実務をややこしく、かつ、硬直的にしています。

また、英国の財務省(HM Tresury)は、金融規制の文脈で、Retained EU Lawの存在は、規制の断片化(fragmentation)を引き起こしており、市場関係者に負担を強いていると批判します。

柔軟性に欠ける

加えて、一部のRetained EU Lawを変更するには、国会の関与が必要になるところ、せっかくBrexitを果たしたにも関わらず、Retained EU Lawがあるせいで柔軟な立法活動ができないという批判もあります。

これも、HM Tresuryが金融規制の文脈で言っていることです。

2024年から何が変わるのか?

このような批判を受けて、今年、イギリスは新たな法律を制定し、現行のRetained EU Lawの仕組みに変更を加えました。

すでにいくつかの変更は効力を生じているのですが、それらに加えて、2023年末に、次の変更が行われます。

一部のRetained EU Lawが廃止される

Retained EU Lawのうち、もはや不要となったもの、負担が大きく重複しているもの、イギリスのニーズに反する形でRetained EU Lawとなっているものについて、2023年末で廃止されます(その法令の全部が廃止されるものもあれば、法令の一部分のみ廃止されるものもあります)。

全部で600個ぐらいあって、全てを確認できていないのですが、2024年以降、廃止されたRetaiend EU Lawを参照しないように注意が必要ですね。

なお、UK GDPRを含む主要なデータ法は、廃止のリストに入っていません。

Retained EU Law --> Assimilated Lawに名前が変わる

これまで散々Retained EU Lawと言ってきて恐縮なのですが、2024年1月1日以降は、Assimilated Lawに名前が変わります(笑)

このエントリーでは触れていないのですが、新法は、Retained EU Lawが引き起こしてきたハレーションを緩和させるためのいくつかの手当てをしており、もはや「EU」を冠した特別な法令ではないということなのでしょう。

ちなみに、名前の変更自体に法的な意味はありません。呼び方が変わるだけです。ただし、知らずに使い続けているとパートナーやお客さんから指摘されて恥ずかしいかもしれませんので、頭の片隅においておいた方がいいかもしれません。


【注釈】
*1 「EU法」は、多義的な言葉ですが、このエントリーでは、「TFEU(欧州連合の機能に関する条約)第288~294条に定める二次法」を指しています。
*2 この定めは、EU加盟国の市民として認められていた権利についても言及していますが、ここでは割愛しています。
*3 イギリスの個人データ保護法は、Data Protection Act 2018(DPA 2018)がUK GDPRと並走している状況ですが、現時点では、それがためにUK GDPRの解釈がGDPRと異なるものになるような状況には無いという理解です。


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